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第六話 穏やかな日に

「朝……か」


 俺は、魔王城の自室で目を覚ます、着替えを済ませ、鏡を見ながら、ここで寝起きするのに、もうだいぶ違和感を感じなくなっている自分に、少し驚く


「慣れって恐いな……」


 まだ一週間程しか経っていないというのに、俺はすっかりここの生活に慣れてしまったようだ。

 ロボットに乗って人間と戦うなんて、少し前まではテレビや漫画の中の出来事だった、だが、自分がそんな状況になっているというのに、俺はあまり焦燥感や違和感のような物を感じていなかった。

 普通なら元の世界に帰りたいだとか思うのかもしれないが、別に特に親しくしていた友人がいるわけでも無し、家族への思いは人並みにはあると思うけど、俺が急に居なくなって心配してるかなぁ…… 程度にしか思っていなかった、我ながら薄情なことだが。

 それよりも実際にロボットに乗れたことが嬉しくて楽しくて仕方なかった。実際に動かした時に伝わる振動、戦闘の時の衝撃、全てが新鮮で、すっかりそれ以外のことが目に入らなくなっていた。

 特に砦での戦闘、目からビームやロケットパンチなど、実にスーパーロボットらしい武装を使っての大暴れで、不安な気持ちなどは吹っ飛んでしまったようだ。

 

「おはようございま……、あれ、もうお目覚めになっていたんですか?相変わらず早起きでいらっしゃいますね」

「エリィさん、おはようございます」

「呼び捨てで構いませんよ、ご主人様」


 部屋に入ってきたのは、俺の専属メイドをしてくれているエリィさんだ、服装はいわゆる普通のメイド服で、黒の髪をポニーテールにしている、背中から半透明の羽が生えているのが、普通のメイドとは違うところだろうか


「これから朝のお食事ですか?」

「ええ、そうです」

「そうですか、何かあれば、申し付けてくださいね」


 エリィさんは会話しながら、俺の寝ていたベッドを掃除し始める、慣れた手付きだが、どうにも危なっかしい。

 何故かと言うと、彼女の外見は、どう見ても俺の年の半分くらいしかない少女だからだ。

 身長は140cmぐらいで、顔も童顔なので10歳くらいの子供にしか見えない、唯一子供に見えない部分があるとしたら、動く度に揺れる大きな胸くらいだろうか。

 彼女は妖精族という種族で、成人しても人間の子供サイズまでにしか大きくならないらしい、実年齢が何歳かは聞いていないが、立ち振る舞いを見る限り、俺より上であることはなんとなく想像が付いた、まあ、ここの住人は人間基準で歳を考えても仕方ないっぽいが


「じゃあ行ってきます、エリィさんも無理しないで、適度に休憩を取って良いですからね」

「お気遣いありがとうございます」


 そう言って礼をするエリィさんに見送られ、俺は部屋を出た、食堂までの道すがら、砦の戦闘からのことを思い返す。

 あの戦いの後、多くの戦力を失った騎士団は、魔王城から離れたところで様子見に徹しており、戦線はこう着状態が続いているようだ。

 魔王軍は大々的に龍神の覚醒、龍族の帰還を宣伝し、低下していた士気を高めるのに成功、人間側に占領されている町でも、レジスタンス活動などか活発になっているようである。

 そんなことを考えていると、元気の良い声に挨拶された

 

「おはようございます!ヒロ様!」

「リーゼ、おはよう」


 食堂の前の廊下で、リーゼと合流する


「ヒロ様、今日のご予定は?」

「工房に呼ばれてるからまずはそこに行って、それからは……城下町でも回ろうかな」


 工房というのは、魔王軍の精霊機を開発、生産している所のことであり、生粋のロボット好きの俺は、暇さえあれば工房に行って、精霊機の組み立て風景などを見学しているのであった。


「あのっ、今日もお茶会を開くので、その……ヒロ様も参加してくださいませんか?」

「いいよ、何時もの時間に部屋に行けば良いんだよね」

「はいっ!」


 魔王城に住むようになってから、リーゼに自分の部屋で開くお茶会によく誘われる、お茶会と言っても、参加者は基本的に俺とリーゼだけ、稀にエリィさんやオルガさんが加わるだけで、基本的にはリーゼの取り留めの無い話を聞いているだけなのだが。

 食堂に入り、席に着く、こちらの食文化はいわゆる中世ヨーロッパとそこまで変わらない物らしく、俺も問題無く食事を楽しめている、和食が食べられないのは寂しいが……

 今日の朝食はフランスパンのようだ、うん、パリパリでとても美味しい、でもこの世界ってフランスは無いだろうから、呼び方は違うんだろうか……?


「そういえばヒロ様、恩賞の件は本当にあれでよろしかったのですか?」


 隣に座っているリーゼが話しかけてくる


「ああ、別に褒美が欲しくて戦ってたわけじゃないし」


 俺は魔王城の謁見の間での会話を思い出す


「ではヒロ殿は、特に欲しい物は無い……と?」


 魔王が怪訝そうな顔で俺を見てくる


「領地や爵位、それに勲章や財宝、ヒロ殿が望まれるなら出来る限り希望に答えられますが?」


 オルガさんは少し不機嫌そうだ、何でだろう?ちょっと居心地が悪い


「遠慮せずとも良い、それだけのことをヒロ殿はしてくれたのだ」

「そう言われても……あ、一つだけ思いつきました」

「そうか!何でも言ってくれて構わないぞ!」

「翻訳魔法……」

「うん?」

「翻訳魔法をいちいち掛けてもらうのが面倒くさいので、それを解決する何か道具があると嬉しいんですけど」

「……それだけ?」

「はい」

「そうか……」


 魔王は心底不思議そうな顔をしながら、自室に戻っていき、一個の腕輪を持って帰ってきた


「これは?」

「先代魔王は魔法が苦手でな、それを補うために使っていた物だ」


 その腕輪は銀色を下地に、それぞれ違う色の何個もの宝石が配置されている物だった


「この宝石一つ一つに良く使われる魔法が封じ込められていて、魔法の才が無いものでもこれを付ければ念じるだけで魔法が使えるというものなのだよ」


 まさに今の俺に打って付けのアイテムだ、これがあれば、いちいち翻訳魔法を掛けてもらう必要も無いし、おまけに他の魔法も使えると言うのが嬉しい


「こんな凄い物を頂けるんですか! ありがとうございます!」

「そんなに喜ぶほど、価値のあるものではないのだがな……」


 魔王が苦笑している中、俺は心からの感謝を述べたのであった。


「ヒロ様ならもっとたくさんの物を要求しても許されたのに、勿体無いです!」


 リーゼが残念そうに言ってくる


「そう言われても、俺はあの機体に乗ってるだけで楽しいし嬉しいからなぁ」


 俺は右腕に付けた腕輪を見ながら答える。

 それは偽らざる本心だった、ロボ好きの俺にとって、実際にロボに乗って戦うことが出来る今の状況は、まさに願ったり叶ったりといったところなのだ。

 食事を終えた俺がリーゼと別れ、魔王城から少し歩いた所にある精霊機の工房に向かっている時、知らない女の子に話しかけられた


「突然失礼します!あの、ヒロ・シラカゼ様でしょうか?」


 歳は俺と変わらないくらいだろうか、栗色の髪にピョコピョコと揺れる猫耳が目立つ、健康的な褐色肌で、クリッとした大きな目の可愛らしい顔をしており、胸も結構大きい、服装は一般的な魔王軍の制服をしているから、魔王軍の兵士だろうか?


「そうだけど……君は?」

「はいっ!私はチェルシー・レミュラムと申します、いきなりで無礼なのは重々承知なのですが、あなたにお願いがあって参りました!」

「お願い?」


 そう聞くと、彼女は少し逡巡した後、意を決したように口を開いた。


「私を、私を貴方の弟子にしては頂けないでしょうか!」


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