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第五十話 飛翔

 明朝あの城へ乗り込むことになった俺達は、急ピッチで出撃作業を進めていた。

 工房で親方達とあるものを作成していた俺が休憩のために部屋に戻ると、そこにはリーゼが不安そうな顔つきで待っていた。


「ヒロ様……あの」


 何かを言いかけて言いよどむリーゼ。


「リーゼ?」

「……いえ、何も」

「?」


 何時もなら、言いたい事をはっきりと言うのに、どうしたんだろう……?

 俺が戸惑っているのを察したのか、リーゼはあえてはっきりと。


「あのっ! 一つだけ、約束してもらえませんか?」


 俺の目を見つめて話し掛ける。  


「必ず、必ず無事で帰ってきてください!」


 その真剣な表情を見て俺は、リーゼをなんとかして安心させてあげたいと思い。


「分かった、じゃあ指切りしよう」

「ユビキリ?」


 俺には懐かしく、リーゼには目新しいあの方法で、リーゼと約束する事にした。 


「俺の故郷で約束する時にはこうやってするんだ」

「こう……指を絡ませて」

「こうですか?」


 リーゼと俺の人差し指が交差し、俺とリーゼの距離が縮まる。

 少し恥ずかしいが、それを気にしている場合ではないと指切りに集中し。


「そうそう、それで、俺の後に続いて言って欲しいんだけど」

「指きりげんまん、嘘付いたら針千本飲~ますっ」


 俺の後に続いて真剣な声で続けるリーゼ、針千本の所で少し驚いたように見え、それが可愛らしかった。  


「指切った!」

「これで……宜しいんですか?」


 指切りが終わり、俺達は指と指を離す。


「うん、これで俺は、約束を破ったら針を千本飲まされちゃう訳だな」

「まあ、それは大変ですわ」


 わざと冗談めかして言った俺の言葉に、リーゼも思わず微笑んでくれたようだ。


「……だから、大丈夫」

「ヒロ様」


 そして、俺はリーゼを安心させるように、その目をじぃっと見つめながらゆっくりとリーゼに話し掛けた。


「絶対、皆一緒に無事で帰ってくるから」

「はい……!」


 その言葉にリーゼが頷き、それから俺達は何をするでもなく暫く部屋で一緒の時を過ごしていたのだった。 

__________________


 謁見の間では、戦いに備え、王都の住人の避難について話し合われていた。


「王都の避難状況は?」

「はっ、人員を総動員して行っていますが、何分急な物で中々……」


 なにせ猶予が一日しかなく、避難場所の確保もままならない状況で、思うように作業は進んでいなかった。


「いざとなれば、城を開放しても構わん」

「魔王様、それは……」


 魔王城は伝統的に魔王とその配下の選ばれし者しか入れないようになっており、たとえ特別な行事の際に入れたとしてもごく一部が限界であった。

 だが魔王は、ほぼ全ての場所に住人を避難させても良いと判断したのだ。


「私も、王城の伝統は理解している、だが、何よりも、民の命が最優先だ」


 魔王は毅然とした表情で配下に諭すように話し掛けた。


「魔王様……はっ、了解しました!」


 そして、すぐに魔王城の全域が開放され、夜が明ける頃にはほぼ全ての住民の避難が完了していたのだった。

_______________________

 

 夜も明けた頃、俺達は出撃準備も終わり、隊の全員がドゥーズミーユの前に整列して出撃を待っていた。


「で、どうやってあの城まで行くんだにゃあ?」

「あれを使う」


 チェルシーの問いに、俺は工房から少し離れた空き地に作られた、カーブの掛かった巨大な鋼鉄製の坂を指差した。

 親方にほぼ徹夜で作ってもらったそれは、天に向かって伸びる大きな階段の様にも見えた。


「只の急な坂に見えるが……」

「俺の故郷では、あれを発射台って言うんだ」

「発射……?」

「そう、あれからドゥーズミーユを思いっきり打ち出して、あの城まで……飛ぶ!」


 イメージとしては、上方向に飛ぶスキージャンプ……だろうか。


「そ、そんなの出来るにゃあ!?」


 突拍子も無い提案に、チェルシーが驚く。 


「親方達に昨日から急ピッチで作ってもらった物だけど、計算上は問題ない……はず」

「はずって」


 親方と俺でなんども机上のシュミレーションはしたが、なにせ経験が無く、本当に上手く行くかどうかは未知数だった。

 俺の言葉に隊員達が不安そうに顔を見合わせる、確かに、行き成りこんな提案をされても困るよな……


「心配は要りません」

「……族長?」


 俺の言葉に続いたのは、ティタニアルさんだった、あれからここに残ってもらって、この作戦に協力してもらう事になっていたのだ。


「具体的に言うと、ティタニアルさん達エルフの皆に協力してもらって、ありったけの魔力であの船を空へ飛ばすんだ」


 現段階でもドゥーズミーユは風の魔力でホバークラフトのように地上を走行する事が出来ている。

 その理論を応用して、この王都に居る全てのエルフに協力して貰い、凄まじい風の魔法で一気に空へ飛び上がる、という作戦だった。


「私も乗り込んで制御を行います」


 この方法は、途中でバランスを崩せば一気に地上へと落下してしまう為、とても難しい魔力の制御が必要な物だった。

 だが多くの経験を持つ族長のティタニアルさんならば、その制御も可能だろうというのが俺達の見立てであった。   


「確かに、エルフの魔力であれば、あれほどの巨体を中に浮かす事も可能かもしれないな」


 その言葉に、隊員達も次第に納得し始めてくれたようだ。


「でも……帰りは……?」

「それも心配要らねぇぜ」


 シルフィさんの言葉に答えたのは、工房の奥から出てきた親方だった。


「帰りの事についても、ちゃあんと考えてあるからよぉ、まあ、安心してな」

「親方」


 明らかに疲れた顔の親方に、思わず心配する声を掛ける。


「全く、急な仕事頼みやがって……」

「す、すいません」


 一日も経たずにこれだけの仕事をこなしてくれたのだ、親方には本当に頭が上がらないな。


「いいってことよ、俺もあの偉そうな奴にはムカついてたからな」


 俺の言葉に親方は軽く手を振ると、また工房の奥へと消えていった。


「それで、皆に言っておかなきゃいけない事があるんだけど」

「ヒロ殿?」

「ええっと……」


 俺は整列した隊員達の前に出ると、姿勢を正してゆっくりと話し始めた、緊張からか、言葉が上手く出てこない。


「これから俺達は、あの空に浮かぶ城へ乗り込みます、最善を尽くして準備はしたけど、生きて帰れる保証は無い危険な作戦である事に変わりはありません、だから……」


 もしここで降りたい者が居ても、俺はそれを責めるつもりは全く無かった、誰だってこんな無謀な作戦には参加したくないだろうし、ここまで一緒に戦ってくれた事だけで俺は嬉しかったからだ。 


「にゃあ達を見くびってもらっては困るにゃあ」


 その俺の言葉に、皆は少し怒った様な口調で。


「今更ここで降りるなら、最初から乗っていないさ」

「艦長が居ない船なんて~情けないですからね~」

「ここまで来たら、一蓮托生ですよ、隊長」


 口々に作戦への参加を告げてくれた。


「……他の皆も?」


 居並ぶ他の隊員達にも視線を向けたが、皆俺の言葉に力強く頷いてくれた。

 皆が俺を信頼してくれている事が嬉しく、なんだか胸に熱いものが込み上げてきて、涙が溢れそうになる。


「みんな、ありがとう……!」


 そう俺が感謝の言葉を告げ、俺達は艦へと乗り込んだのだった。


 艦橋に乗り込み、シートベルトの要領で体を席に固定する。

 

「よぉし!打ち上げるぞ!」


 伝送管から格納庫の親方の声が響き、打ち上げが開始された。


「皆の魔力を……!」


 ティタニアルさんの言葉を合図に、艦の周囲に陣を組むように集合したエルフの皆の魔力が、一斉に艦へと集まり始める。


「凄まじいうねりを感じる、これが……」

「力が……集まる……」


 ここからでは見えないが、外から見れば巨大な魔方陣が艦を包み込んでいるような光景が見られただろう。


「来る……!」


 そして、すさまじい地響と共に急発進した艦が。


「凄い早さだにゃあああ!?」


 その速度のままジャンプ台を綺麗に通過し、俺達はそのまま空へ飛び出したのだった。

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