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第四十九話 そして、最終決戦へ

 魔王軍は騎士団の本拠地、城塞都市セイントクロスまで後一歩まで迫っていた。

 その最前線で攻略部隊の指揮を取っていたのは、あの老騎士ガルザスであった。


「そろそろ騎士団の本拠地じゃ、各機、用心するのだぞ」

「はっ!」


 騎士団の指揮は低く、戦いと呼べるような物は最早起こっていなかったが、魔王軍は気を抜くことなく進軍を続けていた。

 そして、とうとうセイントクロスが視界に入ってこようかと言う所まで辿り着いたその時。

 地面が激しく揺れ、眼前に巨大な土煙が上がった。


「な、なんじゃ!?」

「ガルザス殿! 地面から何か……!?」


 彼らの目の前に、空中に浮かぶ巨大な何かがゆっくりと姿を現したのは、その直後であった。


 王都近郊のとある駐屯地、そこでは魔王軍が周辺の警戒を行っていたが……


「騎士団団長も倒されたって聞いたし、そろそろ俺たちの仕事も一段落かね」

「呑気な事を言ってる場合か、まだ戦いは続いてるんだぞ」

「へいへい……」


 あのサンダルフォンと龍神の一騎打ちから戦闘は全く起こっておらず、門番に立つ二機の精霊機もすっかり緩んでいた。


「なあ」

「無駄口叩いてないで見張りに集中しろ」

「いや、あれ」


 一機が指差したその先には、空中に浮かぶ無数の黒い点が見えた。


「うん……?」


 目を凝らして確認すると、それは只の点では無く、翼の生えた白い機体が、凄まじい数飛行しているのだった。

 しかもその機体の群れは、こちらに急速に接近してきているように見える。


「て、敵襲……!?」

「凄い数だ、早く報こ……」


 敵襲を報告しようとした二機は、砦もろとも空中から放たれた光線に貫かれ、声を上げる間も無く消滅していた。

 その光線を放ったのは、彼らの真上に浮かんでいた巨大な建造物だった。

____________________


 魔王城の謁見の間では、魔王の元に次々と何者かによる襲撃の被害が報告されていた。

 

「一体どうなっているのだ!?」

「は、はっ、突如現れた飛行する敵の大群が魔界全土に出現、無差別に破壊活動を繰り返していると」

「敵の数があまりにも多く、芳しくない状況の様です」


 魔王軍は、各地に現れた謎の機体の対処に苦慮していた。

 そもそも数が多すぎる事や、敵機が飛行可能である事、また騎士団との戦いが一段落しており、隙を付かれた形になった事も少なからず影響していた。


「何の前触れも無く、一体何故……」


 あまりに突然の襲撃に、戸惑いを隠せない魔王、だが、更に魔王を驚かせる出来事が起ころうとしていた。


「大変です魔王様!」

「これ以上一体何だと……」

「外を、外を見てください!」


 謁見の間に走りこんできた家臣の只ならぬ様子を察し、言われるがままに窓の外を見ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。


 王都上空に、まるで物語から抜け出てきたかのような神秘的で豪華な服を着た巨大な男が悠然と浮かんでいたのだ。

 それはまるで天から神が舞い降りたようであり、そのあまりに非現実的な光景を見た者は皆驚きを隠せなかった。

 現代人のヒロであれば、ホログラムか何かだと推測できただろうが、ファンタジー世界の住人である彼らにそれを期待するのは無理な話であった。


「おい見ろ! 空に巨人が浮かんでるぞ!」「なんだありゃ!?」「何かの魔法か?」「あの格好、まるで言い伝えにある天界の……」


 城下でもその姿ははっきりと確認でき、王都に集まる人々から、驚愕と戸惑いの声が上がる。 


「魔界に住まう物達よ! 心して聞くが良い!」


 そしてその男は、尊大な口調でゆっくりと話し始めた。


「我は新たにこの世界の支配者となる存在、新王ゼオル!」


 ゼオルと名乗った男はそこで一旦言葉を切ると、大仰な動作で両手を天に掲げた。


「この姿は、我の強大なる力によって魔界全土に映し出されている、攻撃しても無駄だ、これは只の幻影であるからな」


 この姿が見えていたのは王都だけではない、魔界の主要都市全てに同時にこの異様な光景が映し出されていたのだ。


「見るがいい、我が居城、天に浮かぶ神の城を!」


 そこで男の姿が消え、新たに宙に浮かぶ巨大な建造物が映し出された。

 それは騎士団の本拠地、城塞都市セイントクロスをそのまま空に飛ばした物で、大きさは町一つ程もある巨大な空中要塞であった。


「既に我の配下が貴様らを蹂躙している、この無様な姿を見ろ、抵抗は無意味だ!」


 次に映されたのは、各地の魔王軍があの白い機体によって為す術も無く撃破されている光景だった。

 廃墟と化した町や、燃え盛る砦、崩れ落ちる城壁、どれも絶望的な景色であった。


「我に従え、さすればその身だけは無事で済むだろう」


 再び男が登場すると、男は豪華な椅子に尊大な態度で座りながら、魔界の住人に降伏と従属を命令したのだった。


「これから一日だけ猶予をやろう、その間、配下の攻撃も止めさせる」

「精々ゆっくり考えるが良い、まあ、結論は決まっているだろうがな!」


 その言葉を最後に男の姿は消え、何事も無かったかのように空には何時もの青空が戻っていたのだった。

_________________


「ふむ、こんなものか」

「見事な大演説でありました」


 演説を終え、居城から下界を見下ろすゼオル、かつてはラツィオンと名乗っていたその男に、ハニエルが恭しげに話し掛けた。 


「世辞はよせ」


 そう首を振ると、ゼオルはハニエルに問いかけた。


「奴はこの圧倒的な力を見ても、ここに来るか?」

「そうでなければ、御身を晒した意味も有りますまい」


 ゼオルがあの演説を行ったのは、魔界全土に彼の強大な力を知らしめる為であったが、それだけが目的ではなかった。

 もう一つの、ある意味最も重要な目的が彼らにはあったのだ。

   

「フッ、そうだな……」


 ハニエルの言葉に満足そうに頷くと。


「後は任せる」

「はっ」


 ゼオルはゆっくりと城の奥へと消えて行ったのだった。

_________________


 謁見の間では、魔王と側近達が、先程の宣告に対し激しい混乱と戸惑いから抜け出せずにいた。


「王都近郊への攻撃、停止したようです、あの言葉が正しいとすれば、各地への攻撃も……」


 魔王が側近の報告に胸を撫で下ろす、取り合えず一日の猶予があることに安堵したのだ。


「奴は一体、そしてあの城は……」


 だが窮地である事に変わりは無く、魔王達の顔は青ざめたままだった。


「大変な事になってしまいましたね」


 魔王に話し掛けたのは、リーゼに伝言を残した後魔王城に留まっていたティタニアルだった。


「ティタニアル殿、何か分からないのか?」

「申し訳ありません、私にも何も…… ですが、あれは我々が想像も付かないほど強大な力を秘めている、それだけは感じ取れます」


 魔王の問いかけに首を振るティタニアル。


「そうか……」


 魔界の生き字引であるエルフの長でも把握できない異常事態。

 その事実を確認した魔王達の間に、絶望が広がる。


「降伏しかないのか……」「あんなものとどうやって戦えば!」「やっと魔界を奪還できる所だったのに……!」


 誰もが諦めかけ、降伏を決意しそうになった、その時。


「戦いましょう」


 謁見の間の扉が開け放たれ、そこに現れたのは眠っていたはずのヒロだった。

 リーゼに肩を貸して貰っている状態で、まだ本調子ではない様子だったが、その言葉にははっきりとした意思が感じられた。


「ヒロ殿!?」「目覚められたのですか!?」

「ええ、ついさっき」


 驚く魔王達に答えると、ヒロは集まっている側近やティタニアルを見渡して、ゆっくりと話し始めた。


「状況はリーゼから聞きました、大変な事になってるのは分かってます、でも」

「ここで諦めてしまっては、私達が今まで戦ってきた事が、無駄になってしまいます!」


 ヒロの言葉を繋いだのはリーゼだった、その言葉は何時もの優しげな物ではなく、公女としての強い気持ちが篭っている物だった。


「リーゼ……」


 今まで見せた事の無いような真剣な表情で語ったリーゼに、魔王が驚いた様子で目を見開いた。


「今までだって、絶望的な状況はありました、でもそこで諦めなかったから、ここまで前へ進んでこれた、俺はそう思います」


 そう言って魔王達を見渡すヒロとリーゼ、そして。


「我らもヒロ殿に賛成だ」


 その言葉と共に謁見の間に現れたのは、レンカ達グランセイバー隊の面々であった。


「レンカ! みんなも!」

「ご主人様なら、そう言うだろうと思っていました」

「やっと起きたってのに、いきなり無茶な事言い出すにゃあ」

「でも……隊長らしい……」


 口々にヒロを囲んで話し掛ける皆の顔には笑みが浮かんでいた。

 その様子を見て、魔王が何かを決心した顔付きになり。


「そうだな、確かにそうだ……」

「魔王様」

「私も戦おう、魔王として、一人の魔界の住人として、最後まで」


 そう告げた魔王の表情に、最早迷いは無かった。


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