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第四十七話 終わりの始まり

 サンダルフォンの一騎打ちを受け、俺達は周囲に被害の出ない荒れ果てた荒野の一角で相対していた。


「ふむ、ここならば、周りを気にする必要も無いだろう」

「ああ……」


 敵機は真っ白な機体色に豪華な装飾が為された騎士型の機体、特徴的は背中の片側五枚ずつ、合計十枚もの優麗な羽だろうか。

 その羽の印象もあって、まさに天使をそのまま模したような、荘厳な機体だ。 


「では、存分に戦おうではないか!」


 その言葉を皮切りに、敵の殺気が増大する。

 来る……!


「まずは小手調べだ……獄炎乱舞! そして、極氷飛槍!」


 敵機の右手から火球が、左手から氷の槍が、それぞれ連続で発射される。


「なっ……! グレートウォール!」


 驚く間も無く反射的にバリアで攻撃を防ぎ。 


「デストロイ・ナックル!」


 発射後の隙を付いて両掌を射出、だがそれは。


「重爆枉宴!」


 敵機の回りを覆った黒い透明の膜のような物に防がれ、跳ね返された。 


「この技、やはり……!」


 さっきから敵は、十騎士の技を同時に幾つも使ってきている。

 背中の十枚の羽が只の飾りじゃないとすれば、十騎士全ての技を使えるってことか?。


「流石に気付いた様だな」


 その俺の考察を肯定する様に答えると、サンダルフォンは両手を地面に向け。


「土騰裂衝!」


 激しい揺れと共に地面に幾つもの亀裂が走り、その衝撃で思わず動きが止まる。   


「ぐっ!」

「旋昂風牙!」


 動きの止まったドラギルスに、風の刃が連続で直撃し、激しい火花と共に機体が揺れる。


「どうした、何を躊躇っている、全力を出せ!」


 俺はこの一騎打ちに何か裏があるのではないかと考えていた、今までの騎士団のやり方からして、全うな一騎打ちをそのまま仕掛けてくるとは思えなかった。

 恐らく伏兵として他の十騎士か古代兵器を潜ませており、ドラギルスがオーバードライブの反動で動きを止めたところを狙ってくるのではないか、そう考えていたのだ。


「迷っている場合じゃない……か」


 だが、ここでやられてしまっては意味が無い、もし何か罠があるならば、レンカ達が駆けつけてくれる手はずになっている、俺はそれを信じ、ここで全てを出し切ることにした。


「創龍合体! アルティメット・ドラギルス!」

「はは、それでいい!」


 ガルバーンと合体し、龍神の真の姿を開放する。

 それを合図にしたかのように、互いに空中へ飛翔、連続で剣戟を交わす。

 何度目かの交錯の後、サンダルフォンが叫ぶ。


「私も、本気を出させてもらうとしよう!」


 そう告げると、敵機の羽が神秘的に光り輝きだした。


「アルティメット・ブラスト!」


 何か仕掛けてくる前に倒す、そう判断し、敵機へ両手から光線を最大威力で放つ。


「全能全知!」


 その攻撃を、敵機は軽く身を翻すだけで回避した。

 

「アルティメット・ナックル!」


 回避運動を予測し、軌道上に両掌を射出、これは避けられないはず……


「当たらんよ!」


 だがその攻撃も、敵機はまるで最初からそこに攻撃が来る事が分かっていたかのように、あっさりと回避して見せた。

 

「それなら! アルティメット・メーザー!」


 アルティメット・ドラギルスの全身が発光し、無数の誘導メーザーがまるで豪雨のように敵機に襲い掛かった

 敵機がこちらの攻撃を全て回避出来たとしても、この全方位への攻撃はそもそも避けるスペースが無い。


「無駄だ! 全ての力、全ての知識、この世の全てを司るこの全能機プロビデンス・ルーラーには、何者も勝つことは出来ん!」


 その叫びと共に、敵機の姿が一瞬で掻き消え、俺の攻撃の範囲外に出現して見せた。

 この技は、ラツィオンの……!


「全てを滅する! 全能天地葬滅覇!」


 敵機の十枚の羽、その全てが眩しく発光し、十色の凄まじい迫力の光線が、一斉に俺に放たれた。

 攻撃を全て回避され、敵の必殺の攻撃が迫る、正しく絶体絶命、だが、その時俺は笑っていた。


「……やっぱりラスボスは、こうでなくっちゃな!」


 そのときの俺の頭の中には、オーバードライブの反動がどうとか、ここで死ぬかもしれないなんて考えは、微塵も無かった。

 ただ、この状況を、今までで一番の強敵との戦いを、楽しんでいた。 


「システム起動! オーバードライブ!」


 オーバードライブの発動と共に、装甲が展開され、機体のフレームが露になる、そのフレームは以前よりも禍々しく、真紅の激しい光を放つ。

 それは、檻から解き放たれた獣の様であった。


「最初っから最大出力! 出し惜しみはしない!」

「いっけぇ!」


 放たれた光線に正面から全速で突撃、バリアを機体正面に集中して展開し、光線をかき消しながら敵機へ凄まじいスピードで接近する。


「だが、その攻撃も!」


 が、再び軽く機体を翻すだけで避けられる。


「当たる、いや、当てる!」


 最早只の赤い光の線にしか見えない程のスピードに達したドラギルスを突進させ、連続で回避する敵機を追い詰める。

 あまりの速さに機体自身が耐え切れず、装甲が次第に弾け飛んでいく。

 敵機の回避運動に合わせ、直角に機体を連続で方向転換する、その度に体中が締め付けられ、何度も意識を手放しそうになるが、操縦桿を握る手は離さなかった。


「私の予知が……!? 追い切れな……」


 そして、一瞬機体がその右腕を掠り、初めて敵機はバランスを崩す。   


「アルティメット・シューティング・ストライク!」


 その隙を逃さず、最高速度に達したドラギルスが、敵機の胴体を貫通した。


「あ…ありえん! ありえるはず……が……!」


 断末魔と共にバラバラになる敵機、その姿を見ながら、俺はもう慣れてしまった疲労感に身を任せ、ゆっくりと暗闇の中へ落ちていったのだった。

________________________


 一騎打ちの場所から少し離れた山中、鬱蒼と茂った木々の中で、半身を焼け爛れさせながらも、辛うじてサンダルフォンは生き伸びていた。


「馬鹿な、この私が……」


 ドラギルスの突進が直撃する瞬間、咄嗟に転移したことで、間一髪致命傷を避けていたのだ。


「フ、随分と無様な姿だな」


 そのサンダルフォンに、冷酷で無感情な声が掛けられた。


「ラツィオン! 何故私を助けなかった!」


 本来ならば、一騎打ちの途中でラツィオンやザフィエル、古代兵器やデュラハンが一斉に龍神に襲い掛かり、数の論理で一気呵成に勝負を付ける手筈だったのだ。 

 だが何時まで経っても増援が来る気配は無く、そのままサンダルフォンは撃破されてしまった。


「貴様は良い道化だった、だが、出番の終わった役者は、舞台から退場してもらわなくてはな」

「何を言って……」


 唐突なラツィオンの言葉に、サンダルフォンの思考が停止する、そして。


「がはっ……!」


 その胸に、深々と短刀が突き刺された。


「喜べサンダルフォン、あの計画は私が引き継ごう」


 そこでサンダルフォンは、ラツイオンの表情を見て絶句した。

 何故なら、今まで多少揺らぐ事はあったものの、ほぼ無表情を通していたラツィオンが、喜色を露にして満面の笑みを浮かべていたからだった。


「貴様……! 最初から……!?」

「ここで朽ちるが良い、愚かな劣等種よ」


 そう告げ、一瞬刃が煌くと、サンダフォンは声を上げる間も無く粉々になって絶命した。


「フ……これで邪魔者は居ない、龍神も暫くは動けんだろう」


 そう言いながら、短刀の血を拭うラツィオン。 


「さあ、終わりの始まりだ……」


 そう楽しげに呟くと、ラツィオンは音も無く何処かへ消えたのだった。


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