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第四十五話 流れるは涙

 リーゼの思いつきで唐突に始まった料理コンテスト、魔王城の皆を巻き込んだそれに、思いっきり当事者として参加させられた俺。

 色々不安はあったが、美味しい料理が食べられるなら良いかとあまり考え無い事にして、料理が出来るのを大人しく待っていたのだった。


「さて、全員の料理が完成したようです!」

「公平を期すため、完成した順にヒロ様には食べて頂き、全員の料理を食べ終えてから優勝者を発表して頂きます」


 ノリノリのオルガさんの司会と共に、コンテストは遂に審査場面へと移る。


「まずは一人目!」


 一人目は、メイドとしての技能を遺憾なく発揮し、卒無く料理をこなしていたエリィさんだ。

 

「ヒロ様が好物だと仰っていたフライドチキンを作りました」


 運ばれた皿には、俺の大好物であるフライドチキンが完璧な出来栄えで置いてあり、思わず生唾を飲み込む。


「さすがメイド、主人の好みをがっちり把握している!」

「じゃあ、頂きます」

「どうですか?」


 エリィさんが不安げに問いかける。


「美味しい……!」


 フライドチキンは、火の通り加減や味付けなど、見た目どおり文句なしであっという間に完食してしまい、御代わりが欲しくなるほどの素晴らしい一品だった。


「良かったです!」


 満面の笑みで微笑んでくれるエリィさん、そこまで喜んでくれると、こっちも嬉しくなるな。


「おおっと、早くも高得点か!」


「次は、この方!」


 覚束無い足取りで現れたのは、割烹着姿のレンカだった。

 何故かあちこち服が破けたり焦げたように黒くなったりしており、その表情も暗い。


「シチューと言う物を作ってみたのだが……」


 おずおずと席に置かれたのは、かろうじてシチューと呼べる代物だった。

 具材の大きさはバラバラで、幾つかは焼け焦げて真っ黒になっていたり、そもそもシチュー自体の色が妙に茶色かったりと、あまりおいしそうには見えない出来栄えだった。 


「すまんヒロ殿、やはり私には料理は……」


 シチューを食べ始める俺に、申し訳無さそうに告げるレンカ、だが、俺は……


「ううん、美味しいよ、俺は好きだな、このシチュー」


 見た目通り、手放しで褒められる味ではなかった、がレンカの不器用な優しさが伝わってくるような素朴な味わいで、俺はこのシチューを嫌いになれなかった。

 それに、レンカが下手ながら一生懸命俺のために料理を作ってくれたこと、それだけでも物凄く嬉しかったのだ。


「そ、そうか! 美味いのか!」


 その言葉を聴き、見違えるほどに表情が明るくなるレンカ、それを見て俺も笑顔になったのだった。


「何だか二人の世界に入っている気もしますが、気を取り直して、三人目!」


 司会の突っ込みは無視して、自信満々な様子でやってきたチェルシーの料理を見る。


「にゃあは、故郷の味で勝負にゃあ!」

「これは……丸焼きでは?」

 

 俺の目の前に置かれたのは、どう見ても輪切りにされた何かの肉の丸焼きであった、一応タレのようなものも一緒に出されたが。


「何を言うにゃあ、れっきとした郷土料理だにゃあ!」

「美味い、確かに美味いけど……」


 仲間で火がよく通っていて、タレとの相性もよく、とても美味しい事は確かだった、だけど、これって料理なのか……?


「けど?」

「い、いや、なんでも無い」


 ジト目で俺を見るチェルシーに慌てて取り繕って、その場は事なきを得たのだった。


「さーてまだまだ行きますよ! 四人目!」

「私は~ハンバーグです~」


 目に毒な水着エプロン姿で現れたノーグスさん、一々扇情的なポーズを取ってる様に見えるのはわざとなんだろうか……


「は、ハンバーグなんだこれ……」


 そしてその料理は、どう見ても黒焦げの何かの物体であった、元が何かであったかすら分からないほど、真っ黒になっている。

 料理……? これは料理なのか?


「予想外の大ピンチ! どうするヒロ審査員!」


 相変わらずのほほんとした表情で、じっと俺を見つめるノーグスさん、特に何かを言う訳ではないが、無言のプレッシャーを感じる。

 俺はその重圧に耐え切れずに。


「ええい、ままよ!」

「一気に被りついたー!」


 一口で黒焦げの物体の全てを放り込んだ。


「お味は~いかがですか~」

「おお、美味しいよ!」


 苦い、というか痛い、今まで味わった事のないような刺激的な味が口の中一杯に広がり、思わず顔を顰めそうになるが、どうにか笑顔を作り出し、明らかなお世辞の言葉を発した。


「本当かー! 本当に美味しいのかー!?」


 折角俺が頑張ったのに、そう言われたら台無しじゃん!?

 と突っ込む気力も起こらず、物体を何とか思い切り水を飲んで流し込んで完食した。


「まさか~全部食べてくれるなんて思いませんでした~」

「ノーグスさんが折角作ってくれた物だから、粗末にはしたくなかっただけだよ」 


 俺の気持ちを知ってか知らずか、のんびりとした口調で話しかけるノーグスさんに、俺は正直な思いを伝えた。

 見た目と味はあんなんだったけど、女の人が俺の為に作ってくれた物を、残すなんて出来ないよな。  

 

「そんな優しい言葉を掛けられちゃうと、私、本気になっちゃいますよ」

「えっ?」


 普段とまるで違い、真剣な口調で耳元にささやかれた言葉に、一瞬俺の時が止まる。


「ではでは~」


 硬直する俺をよそに、何時もと変わらない調子でノーグスさんは去っていったのだった。


「さて勝負も後半戦、続いての選手はー!」


 先程のいろんな意味での衝撃から気合で立ち直った俺の元にやってきたのは、自身ありげな様子のシルフィさんだった。


「……鍋料理……完成……」

「鍋……は、鍋なんだろうけど」


 そのシルフィさんが持ってきた鍋の中には、毒々しい色が特徴的な、何かのスープの様な物がみっちり入っていた。

 具材は茸が中心のようだったが、これって食べても大丈夫なあれなんだろうか……? 


「……?」

「ヒロ審査員、再びの大ピンチかー!」

「こうなったら、もうどうにでもなれだ!」


 さっきのアレを乗り越えた俺に、もはや恐い物は無かった。


「うん……? 美味しい! 美味しいよこれ!」


 思い切り掻き込んだ鍋は、予想に反し、茸の出汁や山菜との調和が良く取れた味で、見た目とのギャップも相まって、かなり美味しく感じられた。


「なんと、見た目に反して味は上々の様だー!」

「……成功……」


 そのまま食べ続ける俺を、シルフィさんは満足げな表情で見つめていたのだった。


「さあ、ラストは、時間ぎりぎりまで粘っていた、この選手!」

「お待たせしました! ヒロ様!」


 正直お腹一杯になってきた所に最後にやって来たのは、リーゼだった。

 そのリーゼが運んできた料理に、俺は思わず目を丸くした。


「これは……」


 そこにあったのは、白米に味噌汁に焼き魚、付け合せの沢庵と、完全な和食だった。


「ヒロ様が仰っていた、ニホンという場所の料理を、出来るだけ再現してみたんです」

「実は今回のコンテストを思いつく以前からこの料理を振舞ってあげたくて、ヒロ様が居ないときにこっそり練習していたんです」


 まさかこちらの世界で和食を食べられるなんて。


「懐かしいな…… 箸まである」

「それで正しかったでしょうか?」

「うん、大丈夫、わざわざありがとう」

「いえ……」


 丁寧に箸まで用意してくれていたリーゼの気遣いに感謝しつつ。


「じゃあ、頂きます」


 あちらの世界に居た頃のようにゆっくりと手を合わせてから、懐かしい味を食べ始めた。


「ヒロ様、お味のほうは……?」

「……」


 流石に完全には再現出来てはいなかったものの、その味は間違いなく和食と呼べる物だった。

 材料もまるで違うだろうに、ここまでやってくれるなんて。


「ヒロ様? もしやお口に合いませんでしたか?」

「いや、そうじゃない……そうじゃないんだ」


 半分ほど食べた時だろうか、俺の目から気付かずに涙が零れ落ちていた、俺がそれを自覚すると、涙はたちまち滝のようになって、自分でも止められないほどの勢いで流れ落ち始めた。

 別に、あっちに帰りたくなったわけじゃない、こっちでドラギルスに乗るのは楽しいし、こうやって俺を気遣ってくれる仲間にも出会えた、だけど、心の何処かで寂しい気持ちがあったのは否定できなかった。

 多分、無意識のうちに考えないようにしていたのだ、家族や、友達の事を。

 涙を流しながらも、俺の箸は止まらず、あっという間に料理を完食していた、食べ始める前の満腹感は、いつの間にかどこかに消えてしまっていた。


「そうか、ヒロ殿……」「泣いてるにゃあ」「これは、一本取られたかもしれませんね」「私……敗北?」「なるほど~さすが姫様です~」

「これはもう、発表するまでも無いようです」


 そんな俺達の様子を見て、何かを悟った様子のオルガさんは、高らかに宣言した。


「第一回龍神杯料理コンテスト、優勝者は、リーゼ・S・カタストロフ姫!」


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