第四十四話 絆に鼓動、通わせて
砦での戦いを勝利で終えたが、味方機がほぼ破損、また地震で砦そのものも倒壊してしまった為、俺たちは一旦王都へと戻る事になった。
あの状況ではああするしかなかったとは言え、少しやり過ぎたかな……
魔王城の謁見の間に行き、魔王と久しぶりに会話する、魔王は俺があの距離をこんなに早く戻ってきた事に驚いていたようで、旧王都の話を興味深そうに聞いていた。
「しかし、ヒロ殿が間に合ってくれて良かった」
「ヒロ様にはまた、助けられましたね」
「そんな、今更水臭いですよ」
魔王とオルガさんに改まって礼を言われる、もう何度も経験しているはずだったが、未だにこういうのは慣れないな。
「騎士団は龍神の帰還に驚き、今は進軍を停止しているようだ、ヒロ殿も、ゆっくり休まれるが良い」
どうやら騎士団は進攻を停止し、こちらの状況を伺っているらしい、龍神を警戒して当分は攻め入ってこないだろうというのがオルガさんの見解だった。
「そうさせて貰います」
魔王に軽く礼をしてから謁見の間を後にし、魔王城の廊下を歩いていると。
「ヒロ様ー!」
リーゼの元気な声に呼びかけられた、そのままリーゼは俺に向かって全速力で走ってくると。
「リーゼ、久しぶっ!」
速度を緩めずに俺に抱きついてきた、衝撃で地面に背中から倒れこみ、丁度押し倒される格好になる。
「ヒロ様! ヒロ様! 良くぞご無事で!」
「リ、リーゼ……ちょっと離れて」
俺の胸に顔を埋めて首を振るリーゼ、そこまで喜んでくれるのは嬉しいんだけど、正直この体制はかなり恥ずかしい。
「も、申し訳ありません! 私、嬉しくて……つい」
リーゼが顔を真っ赤にしながら俺から離れた、その時。
「ご主人様ー!」
「エリィさん!」
エリィさんがまた全速力で俺に向かって走りこんできた、このパターンは……
「ちょっ、待っ!?」
予想通り座っていた体制の俺は抱え込むように思い切り抱きしめられ、その豊かな胸に顔が押し付けられる。
嬉しいやら照れくさいやらで思わず引き剥がそうとするが、エリィさんの目に涙が浮かんでいるのに気付き、したい様にさせてあげる事にした。
どうやらかなり心配を掛けてしまっていたようだ。
「……ご主人様」
「何?」
暫く俺を抱きしめていたエリィさんだったが、満足したのか俺をゆっくりと放すと、そのまま立ち上がって。
「色々言いたい事は有りますが、取り合えず」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
服装を正してから何時ものように優雅に俺に礼をするエリィさん。
「うん、ただいま!」
それに俺も、また何時ものように笑顔で答えたのだった。
それから食堂へ向かい、皆で昼食をとることにした、レンカ達も道中で合流したので一緒だ。
「ヒロ様、食があまり進まない様子ですが……」
「うーん、なんか味が薄いような気がして」
俺の手が止まっているのを見て、リーゼは心配そうに声を掛けてきた。
「別にそんな事ないと思うにゃあ?」
「じゃあ気のせいかな……」
砂漠の時みたいに物資が足りないってことはないだろうし、単に俺の好みの問題なのかな?
そんな風に考え、そのまま食事を続けていると、考え込んでいたリーゼが、突然皆にある提案をした。
「私、思いつきました! 皆さんでヒロ様の為に今日の夕食を作るというのはどうでしょうか!」
「面白そうだにゃあ!」
その提案に、まずチェルシーが賛同し。
「料理か、正直あまり得意では……」
「ご主人様を一番喜ばせた物が勝者、と言う訳ですね」
「例え料理であろうと、勝負なら騎士として全力を尽くす、それだけだ」
あまり乗り気で無さそうだったレンカも、エリィさんの一言で何故かやる気を出し始め。
「料理……頑張る……」
「なんだか~面白そうです~」
「艦長、料理出来るんですか……?」
いつの間にか、俺の周りに居た全員がリーゼの提案に乗っかり始めていた。
「なんだか妙な事になってるような……」
その場では何事も無く皆食堂を後にしたが、あの提案を本気で実行する気なのだろうか、皆に聞こうと思ったが、それから何処を探しても皆の姿は見えず、いつの間にか夕方になってしまっていた。
不安を抱えながら夕食を取りに食堂へ向かうと、そこは異様な雰囲気に包まれていた。
何時もの食堂とはまるで違い、調理代が部屋の中央に六つ綺麗に並べられている、両脇には椅子が整列して並べてあり、大勢の人が観客のように座っていた。
「それでは、第一回龍神杯料理コンテストを始めます!」
「凄い大事になってる!?」
部屋に入った途端、中央奥のテーブルに案内され、その真ん中に座らされた、席には御丁寧に「審査員席」という名札が置いてあり、それを見た俺はなんとなく状況を理解した、というかしてしまった。
「ではまず、出場者の紹介から」
「あ、突っ込みは無視なんだ……」
俺の隣で「実況」という名札の席に座り、ノリノリでアナウンスをするオルガさん。
正直今まで見た中で一番楽しそうに見える。
「エントリーナンバー1番、誰もが知る美少女殿下! 第一公女リーゼ・S・カタストロフ!」
「ヒロ様のために頑張ります!」
可愛いピンクのエプロンをつけ、控えめに拳を握るポーズをするリーゼ、その可憐な姿に、観客席から歓声が上がる。
「続いてエントリーナンバー2番、真紅の髪の美少女剣士! その剣捌きを包丁にも活かせるか! レンカ!」
「騎士の誇りに掛けて、ヒロ殿に最高の料理を!」
飾り気の無い真っ白な割烹着に身を包んだレンカは、その普通ならほのぼのとする筈の姿でも凛とした雰囲気を保っており、包丁を正眼に構えたその姿に、先程と変わらないくらい大きな声援が送られる。
「エントリーナンバー3番、見た目は少女、心は乙女! 今回の優勝候補筆頭、妖精メイド、エリィ!」
「ご主人様の心を必ず掴んで見せます!」
何時ものメイド服に小さなエプロン姿のエリィさん、確かに日頃から料理をしているメイドなら、他よりも有利かもしれないな。
「エントリーナンバー4番、時折見せる砕けた口調から近頃人気急上昇中! 褐色猫耳騎士、チェルシー・レミュラム!」
「人気って、どこの……?」
「ヒロが喜んでくれる料理を作るにゃあ!」
肉球柄のエプロンに猫耳型の白頭巾を被ったチェルシー、こっちを見ながら片目を瞑ってウィンクしてくれたのは嬉しいんだけど、なんだか観客席から殺気を感じるような……
「エントリーナンバー5番、その瞳は何処を見る? ミステリアスなエルフ美女、シルフェリア・アイカンド!」
「……頑張る」
普段のローブ姿のシルフィさん、いつも異常に目線を隠して、凄い照れてる様子だけど大丈夫なんだろうか……
「エントリーナンバー6番、今回のダークホースとなるか! 異色の経歴の女艦長! ノーグス・セグエンテ!」
「ヒロさん~私のエプロン姿~似合ってますか~?」
何故かやたら面積の少ないエプロンに身を包んだノーグスさん、そのエプロンの下は……
「って、なんでエプロンの下が水着なんですか!?」
「似合ってるでしょう~?」
料理をするには似つかわしくないビキニ姿であった。
他の参加者が「その手があったか!」みたいな視線で彼女を見ているのは気のせいだろう、うん。
「さて、今回の審査員を務めるのは、美人に囲まれた羨まし過ぎる状況のこの人物!」
「龍神に選ばれた男、ヒロ・シラカゼ!」
さらっととんでもない紹介をされたが、事実なので言い返せない。
「ど、どうも……」
「誰が本命なんだこの野郎ー!」「羨ましいぞー!」「女の敵ー!」「この前は助けてくれてありがとなー!」
控えめに挨拶した俺に、観客席から罵声が飛ばされる、といっても本気の物ではなく、やっかみ混じりのものが殆どのようだった。
「今回のルールは、制限時間以内に料理一品を完成させるだけの単純な物、それだけに、出場者の腕がシンプルに問われます!」
「そして今回の優勝者には、商品として一日ヒロ様自由券が授与されます」
「えええ!?」
当然のように宣言されたその商品、俺は全く聞いてないんだけど……
「この券を使えば、その日はヒロ様をどうしようが思いのまま、あんなことやこんなことも貴方の好きな様に……」
「俺の意思は!」
「無いです」
無いの!?
「俄然やる気が出来てきました!」「この勝負、負けられん!」「ご主人様とあんなことやこんなこと……」「絶対に勝つにゃあ!」「……必勝……!」「ふふふ~想像しただけで~楽しみになってきました~」
目に見えて気合の入り始めた参加者達、その姿を見て、なんだか恐怖を感じるのは俺だけだろうか……
「それでは、調理スタートです!」
その一言で料理コンテストは始まった、果たして優勝者は、そして、俺の運命は。
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十騎士達がかつて集まっていた大広間、そこでサンダルフォンがラツィオンから報告を受けていた。
もはや十騎士も半数以上が戦死し、大広間にもどことなく寂れた雰囲気が漂うようになっていた。
「カミエルが龍神に!?」
「はっ」
ラツィオンの報告に驚いた様子で答えるサンダルフォン。
「何故だ、奴はガリス海に……」
その表情には困惑と焦りが浮かんでいた、周到に作戦を立て、龍神を地の果てに追いやったと確信していたのだから当然であるが。
「それは分かりませぬが、いつの間にか前線の砦に龍神が出現しており、それにカミエルを当たらせたところ」
「まんまと撃破されたと」
「はっ、同行させたデュラハンも相当数……」
これで騎士団は絶好の機会をまた失ったことになる、ここで王都へ攻め入っても、龍神が居るのであれば雑魚が何対居ても無駄であろう。
「ええい、何処までも邪魔をしてくれる!」
「こうなれば、本国に増援を要請する他」
魔界攻略に当てられた部隊はあくまでサンダルフォンの私兵であり、教会全体を見ればまだまだ余裕があると言えた。
「そんな事が出来る物か! そんな事をすれば、ここまでやっとの思いで築き挙げて来た私の地位が!」
サンダルフォンがこの地位に着けたのは、自身の才能もあったが、相当醜悪な手を使った結果でもあった、その分、ここで失敗すれば彼の命運は確実に尽きるだろう。
「では、如何されると」
「私が出る」
「はっ!?」
予想外の言葉に、流石のラツィオンも何時もの鉄面皮を崩す。
「聞こえなかったのか、私自らが出撃し、直接奴を叩き潰す」
「……」
もはや頭に血の上った相手には何を言っても無駄だと悟ったのか、ラツィオンは無言のままであった。
「この"全能"のサンダルフォンが、直々に奴に引導を渡してくれる!」




