第三十七話 機械神の邂逅
騎士団の艦隊が沈んだ海域で、漆黒の機体が腕組みをして水上に直立していた。
その機体は、十騎士ラツィオンの駆る、無影機フォビドゥン・イレイザーであった、不思議な事に、彼の機体には町や騎士団を襲った謎の機体は全く反応せず、何も存在しないかのように素通りしていた。
操縦席の中で、ラツィオンは無感情な声で呟く。
「ローウェルは死んだか……まあ良い、既に封印は解かれた」
「後は奴を目覚めさせるのみ……」
そう言った後、ラツィオンは一瞬で何処かに消えたのだった。
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ポルトルイスに到着した俺達は、町を襲った謎の機体と戦闘を開始していた。
「デストロイ・ナックル!」
ドラギルスの射出された右腕を、両手からバリアを発生させ防ぐ機体、その背後から、既に射出されていた左腕が中央部を貫いて破壊する。
ドラギルスの相手では無いが、今までの騎士団の量産機より遥かに歯応えのある敵だ、この前戦った首無しとも違うし、一体何者だ……?
「こいつら、結構強いにゃあ!」
ジルドリンが敵の光弾攻撃を回避しながら接近し、腕部の展開式ブレードで右腕を切り落とし、バランスを崩した敵を至近距離から放った散弾で一気に爆散させた。
チェルシー達も今のところは問題なく戦えているようだったが、予想外の敵の強さに戸惑っているようだ。
「獄炎乱舞!」
クリムゾン・インフェルノ改が火球で牽制した後、一気に接近して長剣で縦一文字に敵を切り裂いた。
「……やっぱり……」
そんな戦いの中、シルフィさんが俺に話し掛けてきた。
「……隊長……!」
「シルフィさん?」
「この……機体は……防衛……装置……」
防衛装置? 疑問に思う俺にシルフィさんが話してくれた事を纏めると、族長の話では、旧王都の封印が解かれた際に過去に設置された防衛装置が働く可能性があり、そしてその防衛装置が暴走し、無差別に敵味方を襲う危惧がある、またその防衛装置は、特異な形をした機動兵器らしい、とのことだった。
もしあれが旧王都の防衛装置で、ここまで来て暴れていると言う事は……
「じゃあ、もう封印は!?」
「……恐らく……」
「なればヒロ殿、ここは我らに任せ、いち早く旧王都へ!」
「……分かった、任せる!」
封印が解かれたのならば、今にも騎士団が過去の遺産を回収し、修復してしまうかもしれない、それを避けるためにここまで来たのに、ここで手間取っている訳にはいかない。
「任されたにゃあ!」
多少不安はあったが、ここは仲間を信じて任せる事に決め、俺は旧王都へ向け急行したのだった。
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ドラギルスが飛び去った方向を見つめ、シルフィは寂しげに呟いた。
「隊長……」
「こっちはこっちで頑張るにゃあ!」
そんな雰囲気を吹き飛ばすように、チェルシーは敢えて元気に皆に呼びかける。
「ああ、その通り!」
レンカも応じ、戦闘を仕切り直そうとしたその時。
「旋昂風殺陣!」
「にゃあっ!?」
三機を風の刃が次々と襲った、その刃は無差別に町や防衛装置も破壊し、三機はかろうじて致命傷を避けたものの、突然の不意打ちに回避しきれず、少なからず損傷を負ってしまったようであった。
「あの機体は……もしやザフィエル!?」
レンカが攻撃を仕掛けてきた敵機を発見し驚く、何故ならその機体はレンカの知る旋昂機トラファスフィアとまるで違い、羽などかろうじて面影は残っているが、破壊された両足が巨大な推進器に換装され、肩部に巨大な刃の如き追加武装を装備した、見るからに凶悪な機体へと生まれ変わっていたのだった。
「敵ヲ倒ス、ソレガ我ガ使命」
「ザフィエル、貴様一体……」
乗っているであろうザフィエルも今までの騎士然とした様子とはまるで違い、全く感情を感じない機械音声の様なノイズの混じった不気味な声を発するようになっていた。
「是ハ旋昂機アトモスフィア、我ハ忠実ナル神ノ僕ザフィエル為リ」
そう言いながら、襲ってきた防衛装置をそちらを見ることなく手を翳しただけで一瞬でバラバラにするアトモスフィア、形が変わっただけでなく、その性能も大幅に上昇しているようであった。
「なんかこいつヤバイにゃあ!?」
「くっ……修羅に落ちたか! ザフィエル!」
「……来る……!」
吹き荒れる激しい嵐の中で、三機とアトモスフィアの戦いが幕を開けた。
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海上でアルティメット・ドラギルスに合体し、全速力で旧王都へと向かう俺の目に、海上に立ち上る巨大な光の柱が飛び込んできた。
「あの光は……! くそっ、間に合え!」
途中襲って来た防衛装置を何機か弾き飛ばしながらその地点へ急行すると、そこには見覚えのある漆黒の機体の姿があった、どういう理屈かは分からないが、水面の上に腕を組みながら直立している。
「お前は、確か十騎士の!」
「ほう、流石は龍神、要塞からこの速度で駆けつけるとは、だが少し遅かったようだな」
「待て!」
俺を見るなり逃げ出そうとしたその機体を止めようとするが。
「我に構っている余裕が貴様にあるか?」
「これは……!?」
光の柱が消えた直後、巨大な地響きと共にそれは海中からゆっくりと空中に浮き上がった。
まずは頭、そして首、胴体、腕、足と順番に、端的に言えば、異様に突き出した肩と鈍い銀色のカラーリングが特徴的ではあるものの、見た目は普通の人型の角ばったフォルムのロボットだ。
だが、その機体は馬鹿馬鹿しくなるほどの大きさを持つ機動兵器であった、遠近感が狂ったかと錯覚するほどの超巨大な鋼の巨人が、俺の目の前に出現したのだった。




