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第三十五話 龍の輝き

 突如俺を取り囲むように現れた三機もの「アーマゲドン」、その機体達から一斉に砲撃が放たれる。


「ちぃっ……!」


 凄まじい弾幕の密度に、アルティメット・ウォールでも耐え切れない、先程の損傷も響いているのか、動きも悪くなってきている。


「ここは一旦……」


 尻尾を巻いて逃げるのも立派な戦術だ、そう判断し、機体を全速離脱させようとする……が。

 三機がそれを察したのか、こちらの動線を封じるようにまるで蜘蛛の巣の様に火線を張り巡らす、これでは逃げ場が無い。

 ミサイルの豪雨、グレネードランチャーの爆炎、ガトリングの弾幕、レールガンの狙い済ました狙撃、それらが有機的に連鎖しあい、確実に俺を追い詰めていく、余りに綺麗なその連携に俺は逆に関心してしまった。


「そう簡単に逃がしてくれない……か!」


 それならば、と先程のように敢えて機体を全速力で突進させるが。


「ぐぅっ!」


 これもまた、そのときを待っていたかのような右肩の巨砲によって阻止され、両腕で咄嗟に操縦席は守ったが、その両腕ごと激しい衝撃と共に機体が数十メートル吹き飛ばされる。


「ははっ!」


 砂に埋もれ、アラートが鳴り響く操縦席の中で、今までに無い窮地にも拘らず、俺は笑いを抑え切れなかった。


「不味いな、楽しくなってきた」


 流石に自覚してきていたが、どうやら俺は所謂ピンチになればなる程燃える性格らしい、死の恐怖を感じていないわけではなかったが、それよりも楽しさが勝っていた。

 その時、正面のモニターに見慣れない表示が浮かび上がった、そこにはまるで血のような赤黒い色の文字で"『OVER DRIVE SYSTEM』"とだけ表示されていた。


「ドラギルス……!?」


 今までとは違うおどろおどろしい様子に俺が戸惑っていると。

 その文字の下部に、「ここから先に進めば、貴方はもう戻れなくなります、それでも宜しいのですか?」と優しげな字体で遅れて文字が表示された。

 これは恐らく……


「リュミルさん……」


 リュミルさんはガルバーンの制御の為に龍族が作り出した人工知能で、あの平原での戦いの際俺にガルバーンを託してくれた、あれから今まで表に出てくることは無かったが、あの時の言葉通りずっと俺を見守っていてくれたらしい。

 その彼女のこちらを思いやった言葉に、一瞬躊躇する。彼女がこんな風に言うのならば、このシステムを使った際に俺に何らかの影響が及ぶのだろう、もしかすると、こちらの命を脅かすような。


「だからって、立ち止まっていられない!」


 こちらの世界に来たばかりの俺なら、ここで止まっていたかもしれない、だが、ドラギルスに乗って戦い、その興奮と快感を知ってしまった俺に、ここで戦うのを止めると言う選択肢は最初から無かった。

 それに、今までのこちらの世界での日々で、俺には掛け替えの無い仲間や、守りたい人達が出来てしまった、ここで戦いを止めれば、彼らとの日々も何もかも無駄になってしまう、そうも思っていた。


「システム起動! オーバードライブ!」


 意を決し、そのシステムの名を叫ぶ、即座に機体に変化が起こった。まず顕著な変化として、機体の負っていた損傷が一瞬で完全に回復し、完全に付け根から吹き飛ばされていた両腕も、まるで最初から何事も無かったかのように、元通りになっていた。

 その次に、機体の各部の装甲が展開し、内部フレームが露出、そしてそのフレームが、まるで脈打つ血液のように赤く輝き始めた。

 操縦席内部も赤く輝き出し、上部のサブモニターには『OVER DRIVE SYSTEM』の文字が画面いっぱいに映し出され、正面のモニターには通常の画面の他に、右上に数字が表示されていた、最初30だった数字は、29、28、27……とだんだん減っていく、システムの制限時間か……?。

 制限時間があるのなら、もたもたしている暇は無い、そう判断した俺の元に、こちらの異常に気が付いたのか、アーマゲドン各機からまた嵐のような砲撃が降り注ぐ。

 だがその砲撃は、一つとして俺を捕らえることはなかった、俺の目にはまるで世界の全てがスローモーションになったかの様に見え、精密に張り巡らされた弾幕も、軽く機体を回避させるだけで全てを避けることに成功していた。

 通常では考えられない程の高速移動、それがオーバードライブの力……?


23、22、21……


 そのまま凄まじいスピードで砲撃を続ける一機の背後に移動。


18、17、16……


「アルティメット・ブラスト!」


 両掌からそれぞれ放たれた砲撃が、全く予想していなかったであろう敵機を貫き、その巨体を崩壊させる。

 そしてもう一機がこちらを振り向くその前に、その機体の至近距離まで接近し。


13、12、11……


「アルティメット・ナックル!」


 零距離から射出された両腕に、敵機は吹き飛ばされながら爆散した。

 流石に気付いたのか、最後の一機がこちらにありったけの火器を乱射して来る。


「遅い!」


8、7、6……


 その攻撃を飛び上がって全て回避し、上空から止めの一撃を放った。


「アルティメット・ストリーム・バースト!」


 全てを滅ぼす龍の咆哮が鳴り響いた後には、塵一つ残されていなかった。 


4、3、2……


「やっ……」


 勝利の喜びを噛み締めようとしたが、強烈な疲労感が俺を襲い、体に力が入らない、その理由を考えるよりも早く、そのまま俺の意識は闇の中へと消えていった。



「ここは……」

「ヒロ殿!」「目が覚めたにゃあ!」「……良かった……」「隊長~!」「何抱きついてるんですか!」


 俺がドゥーズミーユの医務室で目を覚ますと、口々に俺を気遣う声に迎えられた、それは良いのだが、全員が一斉に喋ってきていて、さっぱり状況が理解できない。


「えーっと……?」


 皆を落ち着かせ、俺が眠っている間のことを確認する。

 どうやら俺は、あの戦いの後砂漠で気絶していたところを発見され、それから今まで眠り続けていたらしい。


「三日も寝てたのか」

「全く目を覚まさないから、皆とっても心配してたんだにゃあ!」


 チェルシーが涙を浮かべて迫ってくる、どうやら皆を不安がらせてしまったらしい。


「まあ、私はヒロ殿なら大丈夫だと信じていたがな!」

「……一番……取り乱してた……」

「な、何を言っている!」

「ごめん、心配掛けて」

「い、いや、ヒロ殿が無事なら、それでいい」

「……元気で……良かった……」

「私も~心配したんですよ~毎日様子を見に来て~」

「仕事を放り出す口実にしてたような気がしますけどね……」


 心底ほっとした表情の皆を見て、俺も何だか暖かい気持ちになった。

 そんな皆を見ながら俺は、こうなった原因について考えを廻らせる。

 暫く目覚めなくなってしまう程体に強烈な負担が掛かる事が、オーバードライブの副作用だったのだろうか?

 それならここぞという時にだけ使わなければ、逆にピンチを招いてしまうかもしれないな。


「それで、艦は今?」

「現在修復作業も終わって~ガリス海へ向け~問題なく航海中です~」

「恐らく、もう四、五日もすれば到着出来るかと」

「そっか、良かった」


 どうやら俺が寝ていた間にも滞りなく進軍は続けられていたらしい、嬉しい反面、ちょっと複雑なような。

 

「じゃあ俺も寝ていられないな……」

「もう……大丈夫……?」

「ああ、問題な……」

「危ない!」


ふらついた俺が、レンカに支えられる。


「無理しないほうが良いにゃあ!」

「隊長は~ゆっくり休んでてください~」

「いや、でも」

「失礼な言い方になりますが、その体でうろつかれても逆に迷惑です、ここは大人しく安静にしていてください」


 本当に失礼だな……

 結局イルミさんの言葉に従って、俺はガリス海に到着するまでの四日間、ほぼ医務室で寝て過ごすことになったのだった。


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