第三十話 顔の無い死神
魔界南部の要所、切り立った崖の上に建設されたガルガムント要塞、魔王軍はこの要塞攻略まであと少しという所まで騎士団を追い詰めていた。
それは新型機「ヅェド」の性能によって騎士団の聖光機に対しアドバンテージを取れるようになったのが大きかった、装備されている銃も連装銃にパワーアップし、またライフリング技術なども実装され、従来の精霊機より大幅に向上した性能を得る事が出来ていたのだ。
「よーし、ここを突破すれば要塞攻略まで後一歩だ」
要塞攻略部隊の隊長が部下を励ます、ここまで魔王軍は損害らしい損害を受けずに、要塞まで後一歩という所まで来ていた。
「隊長! 見慣れない敵が……」
「なんだ、あれは……」
突如として彼らの前に現れたのは、今まで見たことも無いような不気味な聖光機であった、数は二十機程だろうか、首から上が存在しないその機体はゆっくりとした足取りで彼らの前に立ちはだかる。
まるで悪霊を相手にしているような感覚に、一瞬戸惑った隊長であったが、直ぐに持ち直し、部下に檄を飛ばした。
「怯むな、撃て、撃てー!」
号令と共に銃弾が敵機に次々と命中し、敵はあっけなく倒れていった。
「やったか!」
隊の誰もが勝利を確信したその時、白煙の中から先程倒れたはずの機体が、ゆらりと立ち上がってきた。
「なっ……」
「こいつら、一体!?」
魔王軍の元に、要塞攻略部隊壊滅の知らせが届いたのは、それから暫くしてであった。
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目的地へと向かうドゥーズミーユのブリッジで、俺は今回の作戦について聞いていた。
「首の無い聖光機?」
「ええ、ガルガムント要塞攻略に当たっていた部隊が、その機体によって壊滅したと」
俺に説明してくれたのは、この艦の副長であるイルミ・ガルインスさんだ、外見はいわゆる黒髪ぱっつんの長髪で、スタイルの良いツンとした表情が良く似合う凛々しい女性士官、と言ったところだろうか。
「生き残りの証言によるとその機体は、倒しても倒しても死ぬ事の無い不死の存在だったらしい」
「そんなのありえないですよ!」
レンカの補足に、チェルシーが信じられないような顔をする、ちなみに知り合って間もない人がいるのでチェルシーは敬語口調だ。
「で、俺達グランセイバー隊にお鉢が回ってきたと」
「本当に~そんな機体が~居るとしたら~とっても恐いですよね~」
のんびりとした口調で答えたのは、艦長であるノーグス・セグエントさん、太っているわけではないが全体的にぷにっとした感じの外見で、垂れ目の穏やかそうな顔をした優しそうな緑髪の女性である、その胸はかなり大きい。
昔は副長と共に名の知れた海賊として暴れまわっていて、魔王に討伐されて魔王軍に加入したらしいのだが、こんな性格で海賊なんて出来ていたのだろうか……?
「あ、はあ」
「済みません隊長、艦長は何時もこんな感じなので」
「こんな感じって~どういう意味ですか~!」
「いえ、別に気にしていないので……」
実際最初は戸惑ったけど、慣れるとそんなに気にならないというか、むしろ癒される感じもする、戦場で癒されても……と思わなくも無いが。
「隊長は~噂通り~女性にとってもお優しい方なのですね~素晴らしいです~!」
「艦長!」
「は、ははは……」
これって褒められているのだろうか? というかいつの間にそんな噂が……
ガルガムント要塞から少し離れたところで艦を停め、報告のあった場所へとレンカ達と共に機体を向かわせる、
「ここが例の新型と遭遇したっていう場所か、皆警戒してくれ」
「ああ」「わかったにゃあ」「……了解……」
暫く歩いていると、前方に聖光機の集団が現れた、数は三十機程だろうか、見慣れた機体ばかりで、例の新型は居ないようだが……
「まずは普通の機体か、それで止められると思うなよ!」
「インフィニティ・ブラスト!」「獄炎乱舞!」「撃つにゃあ!」「……外さない……」
前方の敵に向けて射撃兵装を一斉掃射、たちどころに敵機は光線に消滅させられ、火球に燃やし尽くされ、散弾に穴だらけにされ、光の矢に貫かれて全機あっという間に撃破された。
「これで終わりか? 噂はガセだったのかな」
「……来る……!」
「シルフィさん?」
シルフィさんの様子が変だ、何かに怯えているような……
「駄目……とても……おそろしい……暗くて……」
「どうしたんだにゃあ?」
「……それは……呼び覚ましてはいけない……!」
その言葉を最後にシルフィさんが意識を失ったのか、アルヴェルドが倒れこむ。
「シルフィ殿!?」
「くっ、レンカ、シルフィさんを頼む!」
「了解した!」
レンカがシルフィを艦に連れて行くのを見送った後、前方から異様な機体達が現れ始めた。
「隊長! なんかヤバそうなのが来るにゃあ!」
「あれが……!」
それは見た目こそ大斧を装備した騎士鎧のような機体であったが、顔に当たる部分が最初からそこになかったかのように無く、そのゆっくりとした不気味な動きは、まるで亡霊か妖怪のようであった。
その只ならぬ気配に、出し惜しみをしている場合ではないと判断し、艦の護衛をさせていたガルバーンを呼び出す。
「来い! ガルバーン!」
雄たけびを上げながら飛来したガルバーンと共に、敵集団へ双剣を抜いて切りかかっていく。
「チェルシー、援護を頼む!」
「任せるにゃあ!」
「見かけが恐ろしくたって!」
正面の敵の振りかぶった大斧を片方の剣で受け流しながら、もう片方で胴体を横一文字に切り裂く、横からもう一機が迫ってくるのを。
「プロミネンス・アイ!」
すかさず熱戦で脚部をなぎ払い、バランスを崩した敵の操縦席を突き刺す。
そこでガルバーンの方を見ると、その巨体を活かし爪と牙による格闘戦で、次々と敵機を撃破している所だった。
「これで半分は……」
このまま全機撃破出来るか……? と思ったその時、先程確かに操縦席を潰したはずの敵機が、まるで何事も無かったかのように立ち上がって来た。
「なっ……!?」
「操縦席を潰されてるのに、どうして!? キャァ!」
声のしたほうを振り向くと、チェルシーの背後から復活した敵機が、ジルドリンを羽交い絞めにしていた
「チェルシー!」
すかさずデストロイ・ナックルでその機体を沈める、チェルシーを庇うように敵機に相対するが、次々と蘇ってくる機体に、次第に俺達は囲まれていた。
「ここは、一気に決めるしかないか、行くぞガルバーン! 創龍合体!」
ガルバーンに呼びかけ、龍神の真の力を解放する。
「アルティメット・ドラギルス!」
二つの機体が光に包まれた後、そこには究極の龍神の姿があった。合体の余波で怯んでいる敵機を見渡しながら、この状況を打破する一撃を放つ。
「完全に消滅させれば! アルティメット・ノヴァ!」
機体の両の掌を正面に向け、両手同時に光線を発射する、二つの光が合わさって巨大な光の奔流となったそれは、敵機を塵一つ残さず消滅させていく。
そのまま機体を回転させ、俺達を囲んでいた敵機を全て撃破した。
暫く待ってみるが、先程のように再生してくる気配は無い、どうやら完全に倒したようだ。
「流石に再生できないようだな」
ほっと一息付いたのもつかの間。
「要塞から何か出てくるにゃあ!」
「あれは……何だ!?」
チェルシーの声に要塞を見ると、そこから現れたのは、ドラギルスより遥かに大きな、まるで山のようなサイズの超巨大な宙に浮かぶ白い球体であった。




