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第二十九話 始動、グランセイバー

薄暗い地下の研究室、精霊機のパーツ等が乱雑に転がっているその一角に、様々な魔獣のホルマリン漬けや、グロテスクな人体模型に囲まれて、大きな机に座った老人の姿があった。

 その髭まで白いボサボサの髪を無頓着に伸ばした老人は、十騎士の一人ハニエルであった。

 ハニエルは報告書のような物を上機嫌で読みながら、一人誰とも無く呟いていた。


「フォッフォッフォッ、遂にサンダルフォンの若造もこの研究の許可を出しおったか」


 そう呟きながらハニエルは、一機の異形の精霊機の前に立ち、喜色に溢れた声でそれに呼びかけた。

 その聖光機は一見普通の鎧騎士型のようであったが、一つだけ大きく他の機体と大きく違うところがあった、なんとその機体には首から上の部分が丸ごと無かったのだ。


「さあ、目覚めるんじゃ、"デュラハン"よ!」


 ハニエルの呼びかけに答え、ゆっくりと動き出すデュラハン、その姿はまるで御伽噺に出てくる呪いの悪霊のようであった。

 

_______________________

 

 謁見の間を出た俺は、そのままレンカの部屋へと向かい、隊長の事に着いて相談していた。


「ヒロ殿が隊長に」

「ああ……」

「ふむ、浮かない顔だが?」

「今まで誰かの上に立った経験とか無いから、俺に出来るのかどうか……」


 一人で戦うならともかく、誰かの上に立つなんて、戦場で部下を指揮するなんて出来るんだろうか。


「そんな弱気になるとは、ヒロ殿らしくないな」

「レンカは騎士団の隊長だったんでしょ? 俺と同じくらいなのに凄いよ」

「いや、そんな事もないさ、私はただのお飾りで、実際上から言われた事をただこなしていただけだったからな……」


 それから暫く会話が途切れ、何を話そうか迷っていると、レンカがぽつりと呟いた。


「私は……ヒロ殿なら出来る、と思う」

「え……」


 戸惑う俺に、レンカははっきりとした口調で告げる。


「少なくとも私は、ヒロ殿の下なら戦いたい、そう思っている」


 レンカは俺を信頼してくれている、そう実感できた。 

 その言葉に、俺の漠然とした不安感が、少しだけ無くなった、そんな気がした。


「そっか、ありがと、レンカにそう言ってもらえると、不安も幾分か晴れるよ」

「助けになったのなら幸いだ」


 出来るかどうかまだ分からないけど、慕ってくれる人がいるなら、やれるだけ頑張ってみよう、そう決意しレンカの部屋を後にした。

 

 気分を入れ替えた俺はまず母艦となるドゥーズミーユを見に行ってみようと思い、工房へと向かったのだった。

 工房へ入った俺を、元気な声が迎えてくれた。


「よう坊主! 聞いたぜ、おめぇがこいつを使うんだってな」

「ええ、と言っても操舵するのは俺じゃないですけど」

「こまけぇことはいいんだよ、俺もこいつに乗り込むから、知ってる奴と一緒のほうがやりやすいんだ」

「親方も乗るんですか?」

「ああ、こいつはまだまだ試作品だからな、戦闘中に故障して立ち往生なんてしてたら洒落にならねぇだろ?」

「確かに、でも工房はいいんですか?」


 精霊機の整備の腕も確かで、この船を一番良く知っている親方が一緒に乗り込んでくれるというのはとても助かるけど、こっちの仕事は親方が居なくても大丈夫なのだろうか?


「まあエルフの奴らのお陰で大分順調に回るようになってきたからな、新型の開発も一段楽付いた所だし、多少は問題ねぇだろ」


 それならば、と俺は改めて親方に挨拶をした。


「宜しくお願いしますね、親方」

「任しときな!」


 親方は力強く力瘤を作るポーズをすると、俺の背中をバシバシ叩いて、工房の奥へと去っていった。


 それから自分の部屋に帰ってきた俺は、隊長としての初めての仕事でいきなり悩む事になってしまった。


「うーん……」

「どうされたのですか? ヒロ様」


 あまりに悩んでいる様子だったのか、心配したエリィさんに話し掛けられる。


「いや、これから隊長になるのに一番大事なことを決めてなかったと思ってさ」

「まあ、それは大変です! どんなことなのですか?」

「隊の名前なんだけど」

「名前……ですか」


 自身が率いる部隊の名前を付ける、ある意味最も重要な隊長としての仕事であった。


「素直に魔王軍第一独立部隊等では……?」

「いや、それじゃ流石に捻りがないし」

「では、お名前から取ってヒロ隊ではどうですか?」


 部屋を訪ねて来ていたリーゼに提案される。案を出してくれるのは有難いけど、それは……


「それも安直過ぎるでしょ……」

「何の話してるにゃあ?」


 相談する声が廊下にも聞こえていたのか、たまたま通りかかったと思われるチェルシーが部屋に入ってきた。


「それが、ヒロ様の隊の名前を」

「私にも……考えさせて……」


 チェルシーといつの間にか部屋に居たシルフィさんを加えた五人で隊の名前を考える事になったのだが、一時間ほど話し合っても名前は決まらなかった。

 幾つかの候補は出たのだが、決定打となる物が無く、本決まりまでは行っていなかった。

 議論が煮詰まっていて来ている、このまま話し合っていても仕方が無い、と判断した俺はある名前に思い切って決める事にした。


「よーし、決めた!」

「おおー」「遂に決まりましたか……」「どんな名前だにゃあ?」「……気になる……」

「隊の名前は……」


 そこで一旦言葉を切り、周囲を見渡してから、高らかに俺は宣言する。


「グランセイバーだ!」




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