第三話 明かされる事実(後編)
かつて、戦争があった
小さな小競り合いから始まったとされる天界と魔界の戦いは、最初は人間界をその争いの場として次第に勢いを増していき、全世界を巻き込む規模まで発展していった。
その争いの最中、突如として現れた神話の時代に滅びたとされる龍族、その龍族が従える龍と人の姿を合わせ持った龍神と呼ばれる存在。
龍族は交渉を持ちかけてきた魔界に協力し、龍神の圧倒的な力を持って天界の勢力を人間界から締め出すことに成功する。
龍族は魔界にも、無用な争いをしないことや、人間の領地を無闇に荒らさないことを約束させ、その姿を消した、唯一つ、動かなくなった龍神を残して……
「これが我々に伝わっている千年前の戦争の伝説です」
急に話題に出てきた千年前のことについて聞いた俺に、オルガさんは魔族に伝わっているという伝説を教えてくれた。
「そんなことがあったんですか」
「そして千年間、龍神は誰の呼びかけにも答えず、あの神殿に座しているだけだったのです」
「あなたが現れるまでは」
そう言って値踏みするような目で俺を見る。
そんなこと言われても、心当たりが全く無いんですけど……
「あのただの死骸だと思っていた龍神が精霊機だったことにも驚きましたが、それをいきなり動かして見せるとは、凄いのですねヒロ様は!」
リーゼはあれを死骸だと思ってたのか……、でもあんな中華鍋みたいなのしか居ないんだったら、スーパーロボット然としたあれを見てもロボットだとは思わないかもな
「その千年前の戦争が、今回の争いの遠因なのだ」
魔王が俺に話し掛ける
「でも、争っていた天界はもう来れなくなったんじゃ?」
「確かに、直接天界が攻めてきている訳ではない、天界の連中が使ったのは、もっと汚い手だ」
「人間達を宗教によって扇動したのです」
天界は魔界に気取られぬように静かに人間たちの間で、光神教という宗教を流行らせていた。
その教義は、人間こそが神に選ばれた民であり、それ以外の種族、魔界の者たちはすべて劣っており、異端であり、敵である、というものであった。
この教えは密かに爆発的な流行を見せ、魔界が気付く頃には既におおよその人間は光神教の信者になっていた。
元々人間たちは、特殊な能力を持つ他種族などに嫉妬心を少なからず抱いていた、そのことを利用された形なのだという。
そして人間たちに、聖光機と呼ばれる巨大な鎧の技術を伝え、それを量産させていたらしい。
「聖光機って、さっき戦ったあの白い鎧か」
でもちょっと待てよ、リーゼの話だとこの世界の人はロボットのことを精霊機って呼んでるはずじゃ?
「我らが聖光機の残骸を回収し、その技術を再現して作られた物、それが精霊機だ、名前が違うのは、使っている力が違うからだな」
「私たちは彼らの言う聖なる力を使えませんからね」
「続きを話しても?」
頷く俺に、戦争が始まってからのことが語られる。
それはあっという間で、どうすることも出来なかったらしい、突如として現れた鉄の巨人達に、生身の魔界側が適うわけも無く、半年ほどで領土の八割を失い、本拠地である魔王城ギリギリまで追い詰められている状況。
最近になってやっと精霊機の量産が開始されたが、時既に遅し、また乗りこなせる操縦者の育成も進んでいないため、この砦にも門番をしていた2機しか配備されていないということだ。
「この砦が落ちれば、後は魔王城まで一直線、先ほどの戦いで負ければ、もう後が無いところだったのだ」
「そんな状況に颯爽と現れたのがヒロ様、ということなのですね!」
そんなキラキラした目で見られても困るんだけどなぁ……
「私達は龍族との約束を守り、人間界とも適度な距離を保ってきました、攻められる謂れはありません」
「あなかたが龍族かどうかは分かりません、ですが、あなたが龍神を目覚めさせたのは紛れも無い事実、どうかお願いです、我々に協力して貰えませんか?」
「私からもお願いします!」
美人2人に頭を下げられてしまった。
「正直に言えば、私はまだお前を疑っているのだが、我が娘を助けられたのも事実」
そう言うと、魔王は姿勢を正して俺に向き直った。
「魔王エリアル・S・カタストロフの名において、ヒロ・シラカゼ殿にお願い申し上げる、我等と協力し、人間、ひいては天界との戦いに協力しては貰えぬだろうか?」
人間なのに人間と戦うのに協力しろって言われても正直困る、でも魔界の人たちが悪い訳じゃなさそうだし、なにより3人とも美人で、美人の頼みを断るのは男が廃るし……
沈黙がその場を包む、俺が意を決して口を開こうとした時、正面の扉が大きく開かれた。
「魔王様、一大事でございます!」
走りこんできたのは鎧に身を包んだ伝令の兵士だった。
「魔王様の御前であらせられるぞ、無礼であろう!」
「よい、一大事なのであろう、報告を」
魔王が続きを促すと、伝令は息を整えて報告した。
「はっ、この砦に聖光機の大群が向かってきております!」
「数は?」
「物凄い数です、確認できただけでも、およそ50機!」
「50機……だと!?」