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第二十七話 真夜中の死闘

 かつて十騎士が集まっていた大広間に、サンダルフォン他の姿があった、丁度憔悴しきった顔のザフィエルが、俯きながらカレキュラス平原の戦闘の報告をし終えた所で、サンダルフォンはその損害の大きさに呆然としていた。


「まず聖光機三百機、それに加え伏兵の五十機、それほどの大軍を用い、十騎士を三人も付けながら、あれほどまでの惨敗を期すか……」


 今回の戦いは、騎士団にとっても重要な物であった、急速に力を付けて来ている魔王軍の反撃の目を積み、一機に魔界制圧まで進めるために、無理をして相当数の聖光機を動員し、捕らえていた龍神の半身である飛龍も急遽投入したのだ。

 だが、蓋を開ければ結果は騎士団の大惨敗、戦力の殆どを撃破され、龍神も完全な姿になって更に力を増してしまった。


「誠に、誠に申し訳有りません!」

「謝辞は良い、それで残存兵力は?」


 額を擦り付けんばかりの勢いで詫びるザフィエルを手で制し、報告の続きを促す


「はっ……五十を割るかと……」

「むう…… 真の龍神の力、それほどまでに?」

「はっ、奴は軽く手を翳しただけで、山一つを消し去ったのです、それに留まらず、ザドキエルまでも一瞬で……」


 信じがたい報告であったが、ザフィエルの表情、また命からがら帰還した騎士団の証言を鑑みれば、龍神が人知を超えた力を手にしたのは、ほぼ確定であった。


「フォッフォッフォッ、実に凄まじい力じゃのう、一度で良いから研究してみたいわい」


 その報告を、興味深そうな顔で聞いていたハニエルが、他人事のように呟いた。


「ハニエル! 貴様があの飛龍を差し向けなければ!」


 実際ハニエルによって飛龍が差し向けられなければ、龍神が真の姿になることも無かったであろう、しかし、飛龍によって魔王軍の機体を相当数撃破出来たのも事実なのだが、頭に血の上ったザフィエルは、すっかりそれを失念していた。


「いや~済まんのう、あそこまであっさり正気を取り戻されるとは、せめて相打ちになってくれたらよかったんじゃが」

「そのような言い草……!」


 あくまで飄々とした物言いのままのハニエルに、ザフィエルは怒りを露にする。


「済まんなザフィエル、今回の件は、出撃を許した私の落ち度でもある、貴行の気持ちは重々承知しているが、ここは抑えてもらえぬか?」

「さ、サンダルフォン様が謝られる事では…… りょ、了解致しました」


 間に入ったサンダルフォンの言葉が無ければ、ハニエルはザフィエルに斬り捨てられていたかもしれない。何時もは冷静沈着なザフィエルが我を忘れる程取り乱していたのは、今回の敗北が騎士団に大きな衝撃を与えている証拠でもあった。


(忌々しい龍神めが…… ふん、精々今は調子に乗っているがいい、最後に笑うのは、この私なのだからな……)


 そのような状況でも、サンダルフォンは自身の勝利を疑っていなかった、はたしてその根拠となる物とは、いったい何なのだろうか……?


___________________________


 魔王城に帰還した俺は、魔王から今回の働きの礼として、貸切温泉旅行をプレゼントしてもらった、恩賞や地位に興味は無くても、これなら受け取ってもらえるだろうとの事だったらしいのだが、実際温泉は元の世界にいた頃から好きだったので二つ返事で了承し、リーゼ達も一緒に温泉旅行に行く事になった。

 その中には元騎士団のレンカも居て、第一公女であるリーゼと一緒に旅行に行くことに難色を示されるのかと思ったけど、俺の留守中に工房を守ってくれていた事でレンカは一定の信用を得ており、特に問題なく一緒に旅行に行く事が出来たのだった。


 温泉に向かう馬車の中で、レンカ達は嬉しそうにはしゃいでいた。ちなみにチェルシーは親しい人と話すときにはあの口調を使う事にしたようだ、最初は戸惑っていた皆も、割とすぐに慣れて、今では自然に会話していた。


「温泉なんて初めてです!」

「温泉旅行、日々の疲れを癒せそうです」

「温泉、故郷を思い出すにゃあ」

「……温泉……興味深い……」


 そんな中、俺の隣で深刻な顔をしたまま黙っているレンカが気になった。元騎士団の自分がリーゼと一緒に旅行に行く事に戸惑っているのだろうか?


「レンカ、ずっと黙ってるけどどうかした?」

「実はその、こうやって皆で旅行に行った経験が無いのだ、だから、何をしたらよいのか分からなくてだな……」


 そう戸惑った顔で答えるレンカに、率直に答えを返す


「別に普通にしてれば良いと思うけど?」

「普通か、普通……」


 そう言ってレンカは考え込んでしまった。何とかしてあげたいけど、何と言ってあげたらよいのか、とんと見当が付かない。


「レンカ様は温泉に行かれたことはありますの?」

「あ、いや……初めて、です」

「そうなのですか、私と一緒ですね」


 そんなレンカに、リーゼが明るく話し掛けた、最初は戸惑っていたレンカだったが、次第に緊張も解れたようで、馬車が付く頃にはすっかり……とは行かないものの、だいぶ打ち解けていたようだった。

 こういう所、リーゼには適わないなぁ……


 馬車が止まったのは、王都外壁部の一角だった、こんな街中に温泉があるのだろうか?


「もう付いたのですか?」


 馬車から降りて周りを見渡してみた、この景色、なんとなく見覚えあるような……?


「もしかして、ここって……」


 出迎えてくれた人の良さそうな四十代くらいの支配人に尋ねると、この温泉は俺がガブリエルと戦った時に地下から吹き出した熱湯を、そのまま温泉として利用しているとの事だった。支配人は温泉を掘り当ててくれた俺にずっと恩返しがしたかったそうで、今回の話も二つ返事で引き受けたらしい。

 ホテルの廊下を歩きながら、レンカが感慨深げな顔で呟く

 

「それにしても、あの時の間欠泉が温泉になっているとはな」

「龍神温泉ホテルって、そのまんますぎる名前だにゃあ」


 チェルシーはあまりに安易なネーミングセンスに、少し呆れているようだ。


「温泉を掘り当てていたなんて、流石ですね、ヒロ様!」

「別に掘り当てようとしてたわけじゃないんだけどね……」


 自分がやろうとしてやった事以外で褒められると、なんか照れるな…


 案内された部屋に着いて色々探検してみると、奥の寝室にベッドが六つ長方形に並んでいるのが見えた。ん?六つ?


「……ちょっと待ってくれ、ヒロ殿もこの部屋に泊まるのか?」

「なっ……そうなのかにゃあ!?」

「……何か……問題でも…………?」

「いやいやいやいや! 問題しかないよ!」


 驚いているレンカとチェルシーはともかく、シルフィさんは何も疑問に思わないのだろうか……


「私はご主人様のメイドですから何も問題は無いとして」

「いや、それもおかしいよね!?」


 至極当然と言った感じで答えたエリィさんに思わず突っ込む、あまりに当然のように言うので、一瞬納得しかけてしまった。


「では、多数決を取りましょう! ヒロ様が一緒に泊まるのに賛成の方!」


 リーゼが何故か楽しそうに多数決を取り始めた、多数決を取るまでもないと思ったのだが、結果は俺の予想を大きく外れていた。


「はーい!」「私も賛成です」「にゃあ!」「……賛成」


 リーゼは元気良く、エリィさんはこんな時でも優雅に、チェルシーはリーゼに負けないくらい元気に、シルフィさんは静かに。


「すまん……ヒロ殿」

「レンカまで!?」


 そして、レンカは少し遅れて恥ずかしそうに、結局俺以外の全員が手を上げたのだった。そして、俺もこの部屋にみんなと一緒に泊まる事になってしまった、色々大丈夫なのだろうか、正直、不安しかない。


 まああんまり気にしても仕方ないか! せっかく温泉に来たんだし、さっさと温泉に入ろうっと。

 男湯の中に入ると、貸切ということでだだっ広い温泉を独り占めだった。


「まさか異世界で温泉に入れるとはなぁ……流石に和式の露天風呂じゃないけど」


 体を洗ってから湯船につかり、久方ぶりの感覚に身を委ねていると、女湯のほうから騒がしい声が聞こえてきた、どうやらリーゼ達も温泉に入ることにしたようだ。


「うわぁ、エリィさん凄いです、ぷるぷるです!」

「わわっ姫様、お止めください!」


 何がぷるぷるなのだろうか……


「確かに大きいにゃあ…… 不公平だにゃあ」

「……チェルシーも……大きい……」

「そ、そんなことない……ってその、ゴメンだにゃあ」

「……いい……気にしてない……」


 そういえばシルフィさんは他の四人に比べて……って何を考えてるんだ、何を


「無駄に大きくても邪魔になるだけではないか、そんなもの騎士には不要だ」

「……嫌味……?」

「な、そんなことは、キャァ!なぜ揉む!」


 レンカって結構大きいんだよな、普段は鎧を着てるから分からないんだけど……じゃなくて!


「レンカ様も大きくて羨ましいです、どうやったらそれ位大きくなるのですか?」

「それは……」

「……男の人に……揉まれる……」

「成程!」

「って姫様に何吹き込んでるんだにゃあ!」


 なんだか不穏な会話が聞こえて来たような……

 俺は十分湯船に使ったので、そろそろ上がる事にした、決してこのままでは理性が大変だとか、色々想像してしまうとか、そんな理由ではない、うん。

 それにしても、貸切りだからって騒ぎすぎじゃないか…… まあ、今日は他のお客さんが居ないからいいけど。


「ヒロ様ー! 私の胸を揉んで貰えないでしょうかー!」

「はぇっ!?」


 風呂から上がった俺にリーゼが衝撃的な一言を言ってきて、俺が気絶し掛けるというアクシデントがあったものの、割と平穏に食事も済み、後は寝るだけとなった。

 寝室でそれぞれのベッドに座った皆だったが、なんだか落ち着かない様子で、全員が黙り込んでしまった、せっかく旅行に来たのにこれでは楽しくない。

 そこで俺は一計を案じる事にした、と言ってもある伝統競技を提案しただけなのだが。


「みんな、枕投げしようよ!」

「それは何ですか?」


 俺の隣のベッドで座っていたリーゼが真っ先に反応する。


「俺の居た国で流行っていた遊びで、こうやって」

「にゃあ!」


 適当に枕を投げたところ、チェルシーに当たったようだ


「枕をぶつけて遊ぶんだ」

「なんでにゃあにぶつけるんだ……へぶっ!」

「……成程……興味深い……」


 立ち上がって抗議して来たチェルシーの腹部に、シルフィさんの狙い澄ました一撃が直撃する、流石弓の名手、正確な狙撃だ。


「だからなんでにゃあなんだにゃあ! このっ」

「そのような幼稚な遊びなど騎士がするものでは……ぐぇっ!」


 チェルシーの放った一撃は、目標を逸れ、レンカの顔にクリーンヒットしたようだ。


「ごめんだにゃあ! 流れ弾だにゃあ!」

「この私に宣戦布告するとは……覚悟してもらおうか!」

「ご主人様には指一ぽ……きゃん!」

「エリィさん! くっ……敵は取るからね!」


 いつの間にか俺達は、全員立ち上がって枕投げに夢中になっていたのだった。


「つ、疲れたぁ」

「もう指一本動かせません……」

「私をここまで疲弊させるとは、恐るべし、枕投げ」


 数十分の死闘を終えた俺達は、そのまま清清しい疲れに身を任せ、泥のように眠ったのだった。



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