第二十六話 決戦のあとさき
カレキュラス平原の戦いを終え、俺たちは魔王城へ帰還の準備をしていた、騎士団には勝利したものの、こちらも相当な損害を受けていたため、一旦魔王城で体勢を立て直すことになったのだ。
俺は特にする事も無いので、魔王軍の陣地をぶらぶらすることにした。暫く歩いていると、整備中の獄炎機の前で佇んでいたレンカがいた。
「レンカ、助けに来てくれてありがとう」
「いや、私こそ、獄炎機の件、感謝している」
「それにしても、親方がこんな物まで作ってたなんてね」
「ああ、私も驚いたぞ」
獄炎機の奥に鎮座していたのは、レンカと親方がここまで乗ってきた、地上戦艦ドゥーズミーユであった。大きさは精霊機が5機程度中に入るるくらいのこちらの世界で言うとホバークラフトのような平べったい鋼の船で、試作品であるため武装などはまだ着いていないが、魔王城からここまで精霊機でも三、四日掛かる所を一日足らずで来た速さを持っていた。
俺が話したロボットアニメによく出てくる宙に浮く戦艦をヒントに、エルフ族の協力を得て開発された物で、宙に浮くまでは行かないものの、ホバー走行の要領で地上を縦横無尽に走る事が出来る優れものだ。
「今は故障しちゃってるみたいだけど……」
「親方殿は「試作品だから仕方ねぇよ、まあ戦も取り合えず終わったみてぇだし、じっくり直すぜ」と言っていたな」
そんな話をしてからレンカと別れ、また当ても無くぶらぶら歩いていると、青い髪をポニーテールにした女の人が、弓の練習をしているのを見かけた。尖った耳からエルフ族だと思われるが、顔立ちはかなり整っており、長身ですらっとした体系をしていて…… どこかで見覚えのあるような?まさかとは思うけど……
「もしかして、シルフィさん?」
思い切って話し掛けてみる
「……そう……だけど……」
予想通り、それは王都で出会ったシルフィさんだった、それにしても、髪形を変えるだけでこんなに印象が変わるなんて……
以前会った時のシルフィさんは、両目を前髪で完全に隠しており、なんとなく取っ付き難い感じだったけど、今のシルフィさんは、ファンタジー世界に出てくる美しいエルフ族そのものだった、以前会った族長のティタニアルさんもかなりの美人さんだったけど、シルフィさんもそれに負けないくらいの美人だと思った。
「なに……か……?」
「いや、その、そういう髪型もするんですね」
「……弓を引く時は……邪魔…………だから」
そう言ってからしばし沈黙すると、シルフィさんは自信無さげに問いかけてきた。
「……変?」
「いえ、とてもお似合いだと思いますよ、綺麗です」
俺は正直に自分の感想を伝えた、正直今の髪型の方が話しやすかったし、単純に俺の好みだったからだ。
「……」
「シルフィさん?」
暫く停止していたシルフィさんは、突如として物凄い勢いで走り去ってしまった。
「相変わらずよく分からない人だなぁ……」
シルフィさんが走り去った方向を見ながら、俺は誰とも無く呟いたのだった。
それからまたぶらぶら歩いていると
「ヒロさん!」
「チェルシーさん」
背後から元気良くチェルシーさんに話し掛けられる。
「昨日は大活躍でしたね!」
「そんな、チェルシーさんだって」
「いえいえ! 私なんか」
慌てたように顔の前で手をぶんぶん振る仕草をしている彼女に、以前から気になっていたことを聴いてみることにした。
「そういえば、気になってたんですけど、チェルシーさんは前みたいな喋り方ってもうしないんですか?」
「前……?」
「あの、俺が耳を触っちゃった時の」
あの時彼女は、所謂猫系の女の子がする、語尾ににゃあ等を付ける喋り方をしていた、俺はそれがずっと気になっていたのだ。
「あ、あれは忘れてください! 気の迷いなんです!」
「でも、俺あの喋り方、親しみやすくて好きですよ」
「好……き?」
「ええ、なんだか可愛らしくて、今の敬語口調よりずっと話しやすいですし」
彼女とは歳もそんなに変わらないように思えるし、出来れば友達として屈託の無い会話をしたい、その為にはあの猫口調が必要なのではないか、俺はそう考えていた。あの喋り方をしていた彼女は、遠慮や対面を忘れて、素の彼女のままで喋っていた、そんな気がしたのだ。
「そう……なんですか」
その言葉を聴いた彼女は、ぽつりぽつりと語り始めた。
「実は、あれは私の故郷の方言なんです、昔からあの口調で育って、それが普通だと思ってたんです、でも、王都に来てから田舎くさいって馬鹿にされて、ずっと封印してたんです、あの時は咄嗟に……」
遠い目をしながら語っていた彼女さんが、少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら
「あの喋り方を、好きだなんて言われたのは初めてです」
消え入りそうな声で俺に告げた。見たことの無い彼女の表情にどう答えてよいか分からずドギマギしていると、彼女は笑って
「……じゃあ、ヒロも敬語は無しってことでどうかにゃあ? それでお互い様だにゃあ!」
元気良く、あの口調で俺に呼びかけてくれた。
「はい……じゃなくて、分かった、チェルシー!」
その言葉に、俺も精一杯の笑顔で答えたのだった。
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魔王城の魔王の間、そこでは魔王と摂政のオルガが今後の方針について話し合っていた。
「騎士団は退いたか……」
「はい、これで我らは魔界北西部の支配権をほぼ取り戻した事になります」
「だが、我らの損害も大きかった」
「ええ……」
今回の戦いで魔王軍は勝利したものの、ヒロが止める前のガルバーンや、騎士団の伏兵によって相当数の被害を受けていた、そこで魔王軍は、支配を取り戻した地域の安定に力を注ぐ方針に決め、その結果ひとまず魔界奪還作戦は中断となっていた。
「一気呵成に魔界を奪還する計画だったのだが、上手くいかんものだな」
「ですが、大きな収穫もありました」
「完全な力を取り戻した龍神と、有効性の証明された新型……だな?」
「はい、これらを活用していけば、そう遠くない内に魔界全域を奪還する事も、夢では無いかと」
その報告を聞いてから、魔王は遠い目をして、未だ前線に居るであろう一人の若者のことを思って呟いた。
「ヒロ殿には、感謝してもし足りないな」
龍神の活躍もそうだが、精霊機の開発にもヒロは大きな関わりをしていた、何よりこの世界に存在しなかった銃のこと魔王軍に教えたのはヒロなのだ、魔王軍はヒロによって騎士団への反撃が可能になったと言っても過言ではなかった。
「何か礼をしたいのだが、彼は恩賞も地位も欲しがらない無欲な男だからな、何を贈れば喜んでもらえるのだろうか見当が付かん」
魔王は困ったような顔でオルガに笑いかける。
「魔王様、私に策があります」
「ほう……?」
自信満々にオルガが魔王に上申した策、その策によって、ヒロにまた新たな災難が降りかかることになるのだが、それはまだ誰も知らなかったのであった。




