第二十五話 大いなる力、空を切り裂く時…
龍神と飛龍が戦いを繰り広げている頃、魔王軍は窮地に追い込まれていた
「ええい、持ち堪えるんじゃ!」
ガルザスが奮戦しているが、形勢は徐々に不利になっていた、暴れまわった飛龍によって精霊機が多数撃破され、元々数の少なかった魔王軍は戦線を維持するのが困難になっていたのだった。
「報告致します、騎士団の伏兵が現れました!」
「何じゃと!?」
この展開を見越していたのか、魔王軍の退路を断つように騎士団のアルマが背後に多数出現した、正面の敵と挟撃する算段であろう、このままでは座して死を待つだけである。必死に正面の敵を撃破するが、数が多すぎる、そうこうしている内に、味方の数もかなり減ってきているようだった。
「ううむ、これは不味いかもしれん……」
動揺する兵達を叱咤しながら、ガルザスはこの状況を打開する一手を模索していた。
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リュミルと名乗った女性は、俺を柔らかな眼差しで見ると、落ち着いた口調で俺に話し掛けてきた。
「初めまして、ですね、ヒロ・シラカゼ」
「キミは……?」
「まずは私を呪縛から解き放ってくれた礼を言わねばなりませんね、感謝します、シラカゼさん」
「じゃあ貴方が、あの龍を操縦していた?」
あの龍に誰かが乗れるスペースは無かったような気がするけど……
「操縦……という言い方は正確ではありませんね、私は……そうですね、貴方に分かる言葉で言えば、あの機体の人工知能の様な物でしょうか」
「人工知能?」
「かつて龍神が二つに分けられたとき、片方は資質のあるものが搭乗しなければ動かせないように、もう片方はその者を私が認めることでしか動かないように龍族は定めたのです」
「そのためにこの龍神に人工的に作られた意思、それが私です」
「そんな事が……」
龍族にそんな技術があったなんて、ドラギルスみたいなロボットを作るから相当な科学力があるとは思ってたけど、AIまで作成出切るとは。
「私は騎士団の手に落ち、無理矢理眠りから覚まされた上、認識を反転させられ、敵であった物が味方に、味方であった物が敵に見えるようになっていました、ですが貴方の攻撃で意識を一時的に失ったことにより、私は私を取り戻したのです」
やっぱり騎士団に操られてたのか、それで魔王軍の機体だけを狙っていたんだな。
「成程、それでここは何処なんですか? 何故俺をここに?」
「ここは私と貴方の意識の中です、ここに貴方を導いたのは、貴方を試すためです」
「本来ならエルフ族の里で試練を受けてもらうはずだったのですが、あんな事になってしまいましたからね」
そういえば、エルフの族長がそんな事を言ってたっけ、襲撃事件のゴタゴタで有耶無耶になってたけど。
「時間も有りませんので、単刀直入にお聞きします、貴方は、何の為に戦っているのですか?」
「俺は……」
最初に思いついたのは、「世界平和の為、リーゼ達を守るために戦っています!」って答えだった。
でも、何か違う、確かにリーゼ達の為ってのは嘘じゃないし、一番無難な答えだろう、でも、俺にはそれ以上に、ドラギルスに乗る理由が、戦う理由があった、それを偽って答えるのはなんとなく俺らしくない、そんな気がして正直に
「自分が楽しいから戦ってる、ドラギルスに乗るのが、乗って戦うのが楽しい、そうとしか言えないや」
と自分の気持ちをそのまま伝えていた。
「…………」
それを聞いたリュミルさんは、呆気に取られた表情で固まってしまった。その顔を見て、俺は自分がとんでもない事を言ってしまったのではないかと今更恐くなる。
(……どうしよう、正直に言い過ぎた! )
俺が顔を青ざめさせていると
「ふふっ」
突然リュミルさんが吹き出した。
「えっ?」
「いえ、済みません、貴方はとても正直な人なのですね、普通ならもう少し取り繕うところだと思うのですが、成程、どうして貴方が龍神に選ばれたのか、少し分かったような気がします」
「は……はあ」
リュミルさんの褒めているのか貶しているのか分からない言葉に、曖昧に頷く。
「分かりました、貴方にこの龍神機、ガルバーンの力を託しましょう」
「ええっ! いいんですか!?」
「はい、確かに貴方は今までその力を楽しむために使ってきましたが、民を傷つけるためには使ってきませんでした、それも考慮して、貴方のその正直で真っ直ぐな心を信じてみようと思います、まあ……半分合格、と言った所ですかね」
半分とはいえ、なんとか及第点を貰えた様だ、今までの緊張がほぐれ、ほっと一息つく。
「ですが一つだけ、覚えておいて欲しい事が有ります、私は、この龍神機ガルバーンの中から、いつでも貴方を見守っています、もし貴方が自身の野望のままに龍神を使い、無辜の民を傷つける用な事があれば……」
「あれば?」
「聞きたいですか?」
無表情で冷酷に返したリュミルさんを見て、一瞬心臓を鷲掴みにされたような寒気が走った。
「い、いえ……」
何をされるか分からないけど、とにかくリュミルさんを怒らせるような事はしない方が良さそうだな……
「では、これから宜しくお願いしますね」
リュミルさんがそう告げると、俺の視界がまた真っ白に包まれた。
落下中のドラギルスの操縦席の中で目を覚ますと、正面のモニターに、龍神機ガルバーンの情報、そして二体の龍神を一つにする方法が表示されていた。
「これは……!」
「力を貸してくれるんですね、リュミルさん、そして……龍神機ガルバーン!」
そう感慨深く言い、俺は高らかに叫んだ、龍神を完全な姿にする為に、真の力を目覚めさせるために!
「創龍合体!」
その俺の言葉に反応するように、二体の龍神が激しい光に包まれる、その光の中で、ガルバーンが細かいパーツに別れ、ドラギルスを包み込むように火花を散らしながら各部に合体していく、最初は腕や足、そして胴体、頭部と続いていき、最後に胸部にガルバーンの龍の顔が装着される。
「アルティメット! ドラギルス!」
その存在を知らしめるような巨大な咆哮を上げ、ここに龍神は、その真の姿を取り戻した。
それは最強の存在、神話に語られる伝説の龍神、かつて天界との戦いにおいて一機で一万もの軍勢と渡り合ったと言われる、究極の力の象徴がそこにあった。
雲を切り裂きながら現れたその光、その龍神を、戦場に居る全ての者が目撃していた
「あの光は……」
「ヒロ殿!?」
「なんだ……ありゃ!」
「龍神? いや、あの姿は一体」
合体を終え、上空から魔王軍を確認すると、騎士団の軍勢によって追い詰められているようであった、まずはガルザスさん達を助けないと。
「アルティメット・ブラスト!」
機体の右手から光線を発射する、それは以前と変わらない動作であったが、威力は以前の数倍か、それ以上の物であった。巨大な光線が騎士団の機体数十機を一瞬で消滅させるが、その光はそれだけに留まらず、騎士団の背後の山を半分以上消し飛ばし、大穴を開けて地平線の彼方へ消えていった。
「山が……一瞬で!?」
「龍神だ!」「二つの龍神が一つになったんだ!」「勝てる、勝てるぞ!」
「何だあれ……」「嘘だろ!?」「もう終わりだ! 逃げろ!」
その圧倒的な力と威圧感に、魔王軍はたちまち士気を取り戻し、逆に騎士団はあっという間に戦意を喪失していた。
「ぐぅっ、こうなれば、退くぞ! ザドキエル!」
「何ィ!」
「貴様も見たであろう、あの圧倒的な力を、我ら十騎士でも太刀打ち出来るかどうか…… ここは一旦退いて、体勢を立て直すべきだ!」
そう告げると、ザフィエル機は臆面も無く逃走を開始した。だが納得の行かないザドキエル機は、龍神に向かって一直線に特攻し始めた。
「ふざけんじゃねぇ! こっちはミカエルの旦那を殺られてんだぞ!」
「待て! ちぃっ!」
逃げていくザフィエル機と龍神に向かうザドキエル機をレンカ達は見送った。逃げる機体を無理に追う必要は無いし、あの状態の龍神に心配は不要だろうと言う判断だった。
「レンカさん、追撃は?」
「いや、深追いは禁物だ、我らも無傷ではないからな」
「……了解……」
「龍神だか何だかしらねぇが、でけぇ面してんじゃねぇ!」
騎士団を吹っ飛ばした俺に、一機の異様な光神機が一直線に向かってきた。
「この機体、さっきの」
その肥大化した両腕で、先程まで戦っていた十騎士の一機だとすぐに分かった。その機体が、右腕を思いきり振りかぶり、上空へ凄まじい勢いでアッパーを繰り出した。普通の精霊機ならば、掠っただけでも致命傷になるような、強烈な一撃だった。
「重爆豪壊拳!」
「アルティメット・ウォール!」
だがその攻撃は、左手から発生したバリアにあっさり防がれた。逆に反動でその機体が宙へと吹き飛ばされる。
「なっ……!?」
「向かってくるなら、容赦はしない!」
胸部の龍が咆哮し、その口の中にエネルギーが収束していく、それが臨界に達し、空中へ浮かんだままの敵へ超巨大な光の奔流が襲い掛かった。
「アルティメット・ストリーム・バースト!」
「くっそぉぉぉぉ!!!!」
光の奔流が収まったとき、そこには敵の塵一つすら残っていなかった。凄まじい威力だ、これが龍神の本来の力なのか……
そして、後に第一次魔界奪還作戦と呼ばれるこの戦いは、魔王軍の勝利で幕を閉じたのだった。




