第二十三話 反転する希望と絶望
以前十騎士たちが集まっていた広間に、サンダルフォンとハニエル、そしてラツィオンの姿があった。サンダルフォンは、以前と同じように最も豪華な席に悠然と、ハニエルはその隣に、ラツィオンはサンダルフォンの向かいの席に座っていた。
「申し訳ありません、サンダルフォン様、例の新兵器、奪取に失敗致しました」
ラツィオンがサンダルフォンに頭を下げながら報告する。
「いや、構わん、"獄炎"がいたのであろう」
サンダルフォンがその謝罪を手で制す、ラツィオンは頭を上げて報告を続けた。
「はっ、どのような手段をとったのかは不明ですが、獄炎機をも復活させた模様」
「それならば仕方あるまい、ハニエル! 貴公もそれでよいか?」
「フォッフォッフォッ、まあラツィオン殿には、もう一つのお楽しみを連れてきてくれた恩があるからのう、ワシも強くは言えんて」
ハニエルは不満そうに報告を聞いていたが、サンダルフォンの問いかけに渋々納得したようであった。
「で、そのお楽しみは、もう使い物に?」
「もちろん、少しばかり苦労はしたが、ワシに掛かれば容易い事よ」
ハニエルが自身ありげに答える。それを聞いたサンダルフォンは大きく頷くと、天井を見上げて呟いた。
「そうか、フッ、皮肉なものだな、奴らに味方するはずのものが、奴らの最大の脅威になるとは……」
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「デストロイ……ナックル!」
双腕部から放たれた鉄の拳が、隊列を組んでいたアルマ数機を一機に吹き飛ばす、爆炎に包まれる機体郡を見ながら、一息付く。
「だいぶ楽になってきたかな」
一緒に戦っていたチェルシーが、両腕に装着された散弾銃を発射し、正面の敵を穴だらけにしてから答える。
「ええ、今のところはこちらが優勢のようです」
魔王軍がカレキュラス平原での決戦に入ってからおよそ三十分後、戦況はこちらに有利に進んでいた。
魔王軍の精霊機はおよそ百五十機、それに対して騎士団側はおよそ三百機、数で言えば明らかにこちらが不利であったが、新型精霊機ヅェドの性能のお陰で、その不利を覆しているようであった、もちろん俺も奮戦していたが。
「ガッハッハッハ! 龍神殿とこの新型様様じゃな!」
「確かに、少し使いにくいですけど、凄いですね、この新しい機体は」
ガルザスやチェルシーが乗っているのは、様々な理由で量産化されなかった試作機で、ガルザスの方は、両肩に長距離射撃用の榴弾砲を装着し、安定の為に脚部を蜘蛛の足ような形状の四本足に換装した武装強化型のメルマルク、チェルシーの方は機動力強化の為に装甲を極力排除し、武装も両腕部に直接内臓することで、重量を減らした高機動型のジルドリンである。
二人とも扱いの難しいこの両機を見事に使いこなしており、乗り換えてから初戦闘にもかかわらず、アルマを多数撃破していた。
「伝令!戦線中央部にて、十騎士と思われる機体の奇襲を受けている模様!」
「ついに来たか……」
伝令の兵士からの報告に気を引き締める、どうやら本命が現れたようだ。
「ヒロ様、私も連れて行ってください!」
「分かった、ガルザスさん、ここの守りを頼みます!」
ガルザス一人に任せるのは不安でもあったが、今回は複数の十騎士を相手にするかもしれないことを考慮し、チェルシーの申し出を受けた。
「任された!」
ガルザスに見送られ、俺たちは十騎士の元へ急行した。
俺達が到着するとそこには、撃破されたと思われる多数の精霊機の残骸の中、三機の異様な機体の姿があった。
「十騎士が三機も!?」
「お初にお目にかかる、私は十騎士が一人、"旋昂"のザフィエル!この機体は、神より賜りし、旋昂機トラファスフィア」
鮮やかな緑色の、背中に大きな翼を生やした機体に乗った男がまず名乗り始める
「俺は"重爆"のザドキエル、こいつは重爆機ナックル・オブ・バルバロイだ!よろしくな!」
次に、アンバランスなほど巨大な両腕を持つ、マッシブな灰色の機体が乱暴に名乗った。
「……」
まるで巨大な岩のようなゴツゴツとしたいかにも堅牢そうな機体に乗った者は、暫くしても名乗らなかった。
「そっちは名乗らないのか?」
「悪ぃな、コイツ無口でよ、ええと、"土騰"のミカエル、そいつが土騰機グランドバースだったよな?」
乱暴な口調の男が変わりに名乗る。名乗りの時にも全くの無言とは、無口にも程があるんじゃ……。
「……」
「そうだってよ!」
「俺はヒロ・シラカゼ、この機体は龍神機ドラギルスだ」
「私はチェルシー・レミュラム、この機体は精霊機ジルドリン」
こちらも名乗り返す、十騎士が三人も居るとは思わなかった、一対一ならともかく、この状況では数的にこちらが不利だ。
「三対二か……」
「……いえ、三体三よ…………」
驚くほど冷静な声が頭の中に響いたかと思うと、何処からか飛来した光の矢が次々と十騎士を襲った。
「野郎、どこから!」
矢が飛んで来た方向を見ると、弓を構えたドレスを着た貴婦人のような可憐な機体の姿が見えた。その機体は通常の矢ではなく、魔力で作られたであろう光の矢を一度に三つ、それぞれ正確な狙いで発射してきたのだ、恐ろしい技量である。
「あんな距離から狙撃を!?しかも弓で」
「あの機体は、確かエルフの……」
工房で見た覚えがある、確かエルフの技術を使ってエルフ用に作っている精霊機だったはず。
「……お久しぶりね……ヒロ…………」
「シルフィさんか!」
それに乗っているのは、少し前に衝撃的な出会いをしたエルフ族の不思議な女性のようだった。
「……シルフェリア・アイカインド…………精霊機アルヴェルド……」
再び頭に声が届けられる、どうやっているのかは知らないが、シルフィさんは俺に直接話しかけているようだ、魔法か何かだろうか?
「よし、これで数の上なら互角……!」
「奴らもやる気満々みてぇだしよぉ!そろそろ始めようじゃねぇか!」
ザドキエルの機体が、痺れを切らしたように地響きを轟かせながら一直線に突っ込んできた
「待てザドキエル、勝手に突っ込むなど……」
「……」
ミカエルの機体も、ゆっくり前進し始める。
「ミカエル!?貴様まで」
「来るぞ!」
「はい!」
「……援護は…………任せて……」
仲間達の声を聞きながら、俺は機体を身構えさせる。
「ぐっ!仕方ない、奴らは好きに暴れさせるか」
「ハッハァ、逃さねぇぜ!重爆拳!」
間合いに入ってから不自然に急加速したザドキエルの機体は、巨大な右腕を振りかざし、渾身のストレートを繰り出す。
「当たらない!」
突っ込んできた機体を飛行して回避しようと思ったその時、突然地中から這い出た腕に両足を捕まれ。動きが止まる。
「……!」
「地中から!?」
「ヒロさん!」
チェルシーが発射した散弾に一瞬怯んだ隙を突いて、その腕を振りほどき、殴りかかってくる一撃を回避する。
「チィ!」
「そこ!」
殴りかかった後の無防備なザドキエル機をプロミネンスアイで狙うが
「重爆枉宴!」
ザドキエル機の周りに黒い球状の膜のようなものが発生し、光線を屈折させられ回避される。
「今のは……」
考える暇も無く、ザフィオン機が竜巻のような攻撃を繰り出す
「旋昂奏嵐!」
「……させない……」
光の矢が竜巻の中心を撃ち抜き、攻撃を無効化する、同時にザフィオン機にもその矢は放たれていたが、そちらは盾に防がれていた。
「くっ、迂闊に動けん」
ザフィオンが忌々しげに呟く、迂闊に仕掛けられないのはこちらも同じ事であった、不用意に仕掛ければザドキエルの双腕に、ザフィオンの竜巻に狙われるのは目に見えていたし、一つのところに留まっていれば、地中からミカエルに捕獲され、集中攻撃を受けるだろう。
「このままじゃ埒が明かない……」
膠着状態が暫く続くかと思われたその時、戦場にとんでもない音量の咆哮が響き渡った、それは直接心臓を鷲掴みにされるような、凄まじい威圧感を放っており、思わず敵味方問わず全機の動きが止まる。
「耳が……!」
「なんだありゃ!?」
声がしたほうを見ると、巨大な飛龍が、その巨大な爪や牙で暴れ回っているのが見えた。
「あれは……ハニエル殿、もう実践に投入されるのか!」
「あれって……」
「奪われた龍神の半身!?どうして」
そう、それは先日エルフの里でラツィオンに奪われた龍神の半身であった、それは迷わずに魔王軍の機体だけを狙って攻撃を仕掛けており、その巨体から繰り出される圧倒的な戦闘力に、魔王軍の戦線は崩壊し掛けていた。
「何だか分からねぇが、こっちの味方みてぇだな!」
「ヒロ様は、あの龍神を!」
その状況を見かねたのか、チェルシーが叫ぶ
「このままじゃ、こっちの被害が大きくなりすぎる……か」
三人の十騎士相手に二人を残す、それがどのような結果をもたらすか、予想出来ない訳が無かった、だがこのままではたとえ十騎士に勝ったとしても、この戦には敗北してしまうだろう。
「済まない、頼む!」
「はい!」
「……出来るだけ……頑張る」
俺は二人を一瞥すると、振り返らずに暴れまわる龍神へと向かったのだった。
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私たちは、たったの二機で十騎士三機と相対していた、エルフの彼女の腕は信頼できる物だったし、この新型も従来よりはかなり性能の高い機体だと言えた。
だが、相手はあの十騎士なのだ、先程も龍神機相手に互角の実力を見せ付けていた、そんな相手を前に私達は勝利出切るのだろうか……
その十騎士、ザドキエル機は、恨めしそうに龍神機が去った方角を睨みつけていた。
「チッ、お目当てが居なくなっちまったじゃねぇか」
「……」
「なるほど、こいつ等を片付けてから追っかければ良いのか!流石だぜミカエルの旦那!」
ミカエルの方は何も言っていない様に思えたが……
「ザドキエル、貴様また勝手に……」
「そうと決まったらとっとと片付けさせて貰うぜぇ!」
動きを止めていたザドキエル機が一瞬力を貯めるような動作をすると
「……来る!」
「ぶっ潰れやがれ、重爆慟乱撃!」
その巨大な両腕を虚空に振り降ろした、その攻撃は見当外れに見えたが、直後、見えない力が上空から凄まじい圧力と共に私に降り注ぐ、あまりの重圧に、身動きが取れない。機体の軋む音がする、このままでは操縦席の中で押しつぶされてしまう……!
「これ…は…」
「……!」
「……地面が……割れる……!?」
エルフの機体の方を見るが、ミカエル機の起こした巨大な地割れによって、動きを止められているようだ。
「くっ……このままでは」
「……窮地……」
「これで止めだ!旋昂烈渦嵐!」
その私達目掛け、ザフィオン機が超巨大な竜巻を放とうとしていた、その時
「獄炎乱舞!」
「何ィ!?」
「ぐぇっ!?」
ザフィオン機が、予想だにしていなかったであろう背後からの火球攻撃によって体制を崩され、放たれようとしていた竜巻が消滅する。それはザドキエル機も同様で、側面から飛んできた火球攻撃に、数十メートルは派手に吹き飛ばされていた。
私の機体への重圧が無くなり、自由に動けるようになる。ミカエル機も呆気に取られたようで、エルフの機体への地割れ攻撃も止んだようだ。
「どうやら、間に合ったようだな」
火球攻撃が飛んできた方向に立っていたのは、まるで燃え盛る炎のような色をした細身の騎士鎧を思わせる機体であった。




