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第二十話 決戦への前奏曲(前編)

 エルフの里での戦いから一夜明け、俺は魔王に今回の件を報告していた。


「では、龍神の半身は奪われてしまったと?」

「俺が駆けつけた時には既に……すみません」

「いや、ヒロ殿が気にされることではない、それに、十騎士の一人を討ち取る事に成功し、エルフ族も我らに協力してくれることになったのだ、悪い事ばかりではない」


 実際あいつは十騎士かどうか良く分からない奴だったけど……


「エルフ族が?」

「ああ、今回の件は我らにも責がある、ということでな、襲撃の被害の事もあり、実際回せる人員はそこまででもないらしいが、技術に関しては惜しみなく提供してくれるらしい」

「そうだったんですか」


 エルフ族が協力してくれるなら、これからの戦いも少しは楽になる……かな。


 報告を終え、工房に向かうと、親方がやり遂げた顔で迎えてくれた。


「親方!」

「よう坊主、新型の精霊機、やっと完成したぜ」


 工房に鎮座する、角ばったフォルムの機体をまじまじと見つめる、今までの曲線主体のデザインラインから一転して、直線主体の、まるで大小様々なな箱を積み上げたような機体だった。

 その新型機「ヅェド」には、頭部に展開式のバイザーのような物が見え、射撃戦に対応した事が見て取れる。


「これが新型……」

「おう、坊主から教えられたあの銃を使いこなせるように、一から設計を見直した自信作だ、坊主の話もだいぶ参考にさせてもらったぜ、ありがとな」


 これほど早く銃に対応した機体を作り上げるなんて、親方達の技術には驚嘆するばかりだ。


「あっちにあるのは?」


 俺は工場の隅にある、奇抜な形をした機体郡を指差す、その機体の中には蜘蛛のように足が何本もある機体や、肩や腕に追加武装のような物が付けられた物があった。


「あっちのは試作機だな、脚部を換装してみたり、腕部に色々な機能を追加したりだとか」

「あれも今度の戦いに出すんですか?」

「そうだな……操縦者が見つかればってところだな、あっちのは色々規格外で、まともな操縦者には扱いきれねぇだろうからな」

「そういえば、例の件は……」


 親方に無理を言って頼んでおいた件を尋ねる、ここまでの成果を上げている親方の負担を増やすのは忍びなかったが、これからの戦いに備えて、"アレ"は絶対に必要だ、そう思っていた。


「おう、なんとかやってるぜ、今八割ってところだな、でもよ坊主、本当にアレが必要になるのか?」

「ええ、確実に」

「まあ、坊主がそう言うんなら仕方ねぇな」

「ありがとうございます!」


 俺が礼を言うと、親方は軽く手を振って、工房の奥へと消えていった。


 昼食を取ってからリーゼの部屋でお茶会に参加する。


「昨日はお疲れ様でしたね」

「ご主人様に怪我が無くて何よりです」

「ごめんね、お土産持って帰れなくて」


リーゼとエリィさんに迎えられる。


「わ、私も参加して良いんでしょうか……」


 チェルシーがオドオドしながら言ってくる、彼女は、俺が仲直りした事を伝えたリーゼが、どうせならということでお茶会に呼んだのだが、慣れない場に緊張しているようだ。


「ヒロ様のお友達なら、私のお友達でもありますから」

「あ、ありがとうございます」


 暫く雑談をしてから、リーゼが俺に尋ねてきた。


「では、ヒロ様も魔界奪還作戦に参加されると?」

「ヒロ様には、十騎士の相手をしてもらう事になります、今回は相手も本気でしょうし、恐らく複数の」


 いつの間にか参加していたオルガさんが答える。


「複数か……」


 今回の金色の奴なら何人来ても大丈夫だろうが、もしメタトロン級の相手を複数相手取る事になったら、正直危ないかもな、奪われた龍神の半身も気になるし……


「わ、私も出来るだけサポートします、実は私、新型を回してもらったんです、扱いが難しくて量産には向かなかった機体らしいんですけど、私なら使いこなせるだろうって」


 あの工房においてあった試作機だろうか、あれを扱えるなんて、チェルシーは優秀なんだな。


「そうなんだ、頼りにしてるよ」

「はい!」


 リーゼが姿勢を正し、俺をじっと見つめて真剣な表情で言う。


「私は戦では何も出来ません、ですがせめて、ここからヒロ様達の無事を願っております」

「その気持ちだけで嬉しいよ、リーゼ」

「もちろん私もですよ、ご主人様」


 エリィさんも心配なようで、俺の手を両手でぎゅっと握って言ってきた、正直照れるが、それよりも嬉しさのほうが勝った。


「エリィさんもありがとう、大丈夫、今までだって何とかなったんだし、絶対無事に帰ってくるから」


 俺が力強く答えると、みんなも頷いてくれた、何があっても絶対勝って無事に帰る、俺はそう決意を新たにしたのだった。


 お茶会からの帰り、廊下を歩いていると、か細い声に話し掛けられた。


「貴方が……ヒロ・シラカゼ……?」


 振り返るとそこにはローブを着た長身の女性が立っていた、青い長い髪を後ろだけでなく目が隠れるまで前にも垂らしており、ちょっと不気味だ。


「そうですけど……君は?」

「…………想定よりも、普通……」

「あ、あの、誰なんですか、っていうか近いんですけど!?」


 いきなり顔と顔が触れるくらいまで近付くと、彼女は俺を観察するような目で見つめてきた、その彼女を押しのけると、残念そうな顔をされた。なんでだ。


「私は……シルフェリア・アイカンド……昨日はありがとう……」

「昨日って?」

「……弓を撃ってた……」

「ああ、あの時の」


 あの時はポニーテールだったような気がしたんだけど、見間違いかな?


「あの時は……死を覚悟した…………」

「それでシルフェリアさんは、なんで魔王城に?」

「シルフィでいい…………族長から魔王軍に参加するように言われて……そのまま転移魔法で……先程到着を……」


 ってことはこの人も今回の作戦に参加するのか、あんまり戦いに向いたタイプには見えないけど、大丈夫だろうか。


「これから……よろしく……」


 そんな事を考えていると彼女が右手を差し出してきた。


「え、ええ、よろしく……ってなんで抱きついてくるんですか!?」


 俺がその手を握り返すと、彼女はいきなり俺に抱きついてきた、あまりに突然だったので、状況を理解できず、思考が停止する。


「……千年ぶりに復活した龍神を駆る龍族の末裔……でも特別な人物には見えない……」


 平凡な見た目で悪かったな…… とそんな事を考える間も無く、彼女は衝撃的な一言を俺に言い放ったのだった。


「……とても興味深い、貴方……私と結婚しない?」



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