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第十九話 奪われた龍神

 燃え盛る建物と、逃げ惑う人々、その炎の中で、二機の機体が悠然と歩を進めていた。

 その内の一機、金色の派手な機体が、不満そうに言う。


「全く、物足りないよ、こんな連中相手じゃ僕の華麗で優美で崇高な戦いが映えないじゃないか、君もそう思わないかい?」


もう一体の黒い機体が、無感情に答えた。


「任務であれば、従う、それが十騎士の務め」

「君らしいけど、詰まらない回答だね……」

「予定通り我は目標の奪取に向かう」

「了解了解、じゃあこっちは適当にやっておくからさ」


 そして、黒い機体は一瞬でその姿を消した。

 

 残った金色の機体に、生身のエルフ達が杖を構え、必死の抵抗を掛ける、だがその攻撃が、成果を上げる事はなかった。


「無駄だと分からないのかな、美しくないよ、その姿は」

「雷華裂光!」


 当たり一面を激しい稲妻が無差別に襲う、その稲妻は瞬時にエルフ達を黒い塊に変えた。


「フッ、相変わらず美しい技だ、流石この僕」


 と呟いた金色の機体を、背後から衝撃が襲う、その一撃は装甲を抜く事はなかったが、金色の機体の操縦者の機嫌を損ねるのには十分だった。

 衝撃がした方向を振り返ると、ポニーテールのエルフが、弓を構え数十メートル離れた地点から狙いを付けているのが見えた。


「距離を取れば攻撃を受けないと思っていたようだが、その考えは間違いだよ!」

「雷華凶斬!」


 右手に構えたレイピアの切っ先から稲妻が一直線に放射され、エルフの身を焼きつく……しはしなかった。


「何ぃ!?」


 機体が稲妻を放つ前に、側面から飛んできた巨大な拳に吹き飛ばされたのだ。

_______________________


「大丈夫ですか、ここは俺に任せて逃げて!」


 俺はデストロイナックルで金色の機体を吹き飛ばしてから、稲妻が襲おうとしていたエルフを庇うように機体の前に立ちはだかる。


「なんでいきなりこんなことに……」


 エルフの里に付いた俺を迎えたのは、蹂躙されるエルフの里だった、ティタニアルさんを安全な場所に送り届けた後、俺は里を襲っている機体の元へ向かったのだった。

 弓を持ったエルフが逃げて行くのを確認した後、体勢を立て直した目の前の機体を確認する、その機体は全身金色に輝く装甲を身に纏い、やりすぎなほど過剰に豪華な装飾がされていた。


「その機体……もしかして十騎士か!」


 その金色の機体が、感情を抑え切れないように叫びだす


「素晴らしい!素晴らしいよ!まさかこんな所で龍神に会えるなんて!ザドキエル達に先を越されたと思っていたけど、流石は僕、天命に選ばれてる!」

「僕は誇り高き十騎士が一人、至高にして最高に崇高な、最も美しく強い十騎士!雷華のラファエル!この機体は神より授かりし、雷華機マーベラス・アメイジング・ボルテック・サンダーボルト!」

「……俺は、ヒロ・シラカゼ、そしてこいつは龍神機ドラギルス!」


 突如浴びせられた言葉の洪水に一瞬面食らうが、気を取り直して名乗り返す


「さあ始めようか、この僕との美しく切なくそれでいて荒々しい戦いを!」


 突進してくる機体のレイピアを避けながら、カウンターで蹴りを胴体に当て、体制が崩れた敵にプロミネンスアイを放つ、操縦席を狙ったそれは、左腕を吹き飛ばすのに留まった。


「フッ、流石は龍神、だが、これならどうかな?」

「我が最大の奥儀!超究極絶対無敵唯一無二天衣無縫雷華s……」

「一々煩い!」

「ぐうっ!?」


 ポーズを決め何かを繰りだそうとしていたが、技名を叫んでいる間マーベラスなんとかは驚くほど無防備だった。

 その隙を逃さず、渾身の回し蹴りで機体を浮かせ、アッパーで機体を上空へ打ち上げる。


「これで終わりだ!シャイニング・ソード・ブレイカー!」


 上空なら周りにも被害が出ない、そう判断した俺は光の剣を思いっきり、空中の敵へ向けて横一文字に振り払った。


「この美しい僕がぁぁぁ!!!」


 金色の悪趣味な機体は、跡形もなく消え去った。


「なんだったんだ、あいつ……」


 合体させた双剣を元に戻し、一息ついた俺に、慌てた様子でエルフが呼びかけてきた。


「ヒロ殿!封印が、封印が破られ、龍神の半身が!」

「それが狙いだったのか!」


__________________________


「封印解除完了、これより目標の奪取に移行する」


 エルフから教えられた場所に行くと、漆黒の機体が巨大な物体の前に立っていた、その物体はドラギルスより一回り大きな、巨大な飛龍のように見えた。


「龍神の半身は!?」

「ほう、貴様がここに来たということはラファエルは既に逝ったか、まあ奴は家柄とおべっかだけで十騎士入りした俗物、妥当な末路だろう」

「お前も十騎士なのか?」


 腕組みをする漆黒の機体が答える、必要最低限の装甲に身を包んだその細身の機体は、今までの騎士風の機体とは異なり、まるで忍者の様であった。


「如何にも、だが貴様と戦っている暇は無いのでな、ここは退かせてもらおう」

「この状況で、どうやって逃げる!」


 機体を戦闘態勢に移行させる、いくら十騎士とはいえ、たった一機でここから逃げられるとは思えないし、逃がす気もなかった。


「我の名は無影のラツィオン、見せてやろう、我が奥儀、無影転身を!」


 ラツィオンと名乗った機体の周りに、先程エルフの長が見せたものと相似した魔法陣が一瞬で展開される。


「これは、転移魔法!?」

「さらばだ……龍神よ」


 そう告げた後、漆黒の機体、そして巨大な物体は、跡形もなく消え去っていたのだった。




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