第二話 明かされる事実(前編)
「私を……いいえ私達魔王軍を助け、人間達を滅ぼすために戦ってもらえませんか!」
リーゼと名乗った少女の頼みは、現代社会で普通の日々を送ってきた俺には、あまりに突拍子も無く、また現実感の薄い物であった。
何がなんだか分からずしばらく黙っていると、彼女の方から口を開いた。
「申し訳ありません、先ほど助けていただいたばかりなのに不躾なお願いをしてしまって」
「あ、いや……」
「取り敢えず今は、落ち着ける場所へ行くのが先決ですよね」
周りを見渡すと、すでに戦闘は終わっているようだが、辺り一面、瓦礫の固まりや焼け跡になっており、確かにここでは落ち着いて話も出来ないだろう。
そこで、彼女に案内され、町外れにあるという砦まで機体を進めることにした。
そこはきちんとした防衛がされており、ここよりは安全だそうだ。
その道中、俺はさっきの彼女の言葉について、考えていた。
魔王ってなんなんだ? 普通の女の子に見えるけどこの子は人間じゃないのか? 人間を滅ぼすために戦えって言われても……
など考えは尽きない。
「ヒロ様?もう砦に到着しましたよ?どうかされましたか?」
彼女の言葉で我に返る、どうやらしばらく考え込んでいたようだ。
「なんでもないよ、大丈夫」
本当は大丈夫でもなんでもないのだが……
到着した砦の方を見ると、黒い鎧(白い鎧といくつかパーツが違うが、ほぼ同一の機体に見える、同型機か鹵獲機だろうか?)が門番のようにして立っており、思いっきりこちらを警戒しているのが見て取れた。
さっきまで戦闘中だった所にいきなり知らないロボが押しかけてきたのだ、そりゃ警戒するよな……と思っていたところ。
「私が話してきますね、ヒロ様はここで待っていてくれますか?」
操縦席の扉を開けて彼女を送り出す。五分ほどしてリーゼが機体の足元に帰ってきた、大丈夫かと尋ねた俺に。
「ヒロ様、中でおか……魔王様がお待ちです、この機体から降りて入ってきて貰えませんか?」
言われるがままに俺は機体を砦の片隅に片付けてから、リーゼについて行く形で、砦の中に進んでいく、どうやらここは、ほぼ壊滅してしまったさっきの町と違ってまだ平穏なようで、訓練や雑談などをしている兵士があちこちに見える。
だがその兵士達は俺の知っている兵士、いや俺の知っている人間と、明らかに異なっていた。
犬や猫や兎のような耳、尻尾を生やしているもの、極端に体の大きいもの、逆に小さいもの、体の一部が植物のようになっているものなど多種多様な"人間"達がそこにはいた。
物珍しい目で彼らを見る俺に、リーゼが話しかけてきた
「どうかされましたか?」
慌てて首を振る、が俺の心中は更に混乱の度合いを増していた。
思いっきりファンタジーの魔物達だよなアレ? もしかしてあれと人類が戦ってるってことは、こっちが悪者なのか?
もはやパニック状態だった俺だが、なんとか平静を装い、正面の大きな建物の中へと入っていった。
しばらく建物の中を進んでいくと、開けた部屋に出た、そこは、簡易的に作られたようであったが、ファンタジーでよく見る王座の間そのものであった。
奥の入り口から何段か高くなっている場所に、大きな椅子に座っている黒い豪華なドレスを身に纏った偉そうな女性がいた。
黒髪のロングヘアーで外見は30代くらいだが、スタイルがかなり良い、特に見た目は人間と変わらないように見えるが、リーゼの言っていた魔王だろうか?
その脇に立っているのは眼鏡を掛けた頭のよさそうな女性、執事か何かだろうか?
外見は20代くらいで、髪は金髪のショートカット、服装はなぜかいわゆるメイド服で、頭からは大きな耳(狐耳?)が生えおり、胸部が凶悪に自己主張をしていた。
まるでコスプレメイド喫茶のようで、この厳粛そうな場所に居る事に俺には違和感しか無いのだが……
黒いドレスの女性にリーゼが恭しく話しかける。
「魔王様、こちらまでいらっしゃるとは思いませんでした」
「お前が奴らに倒されたかもしれないという話を聞いてな、王都から先程到着したのだ、だが、元気そうで安心したぞ」
魔王と呼ばれた女性は心底安心した様子で話している、しばらくリーゼと話してから、魔王は俺に話しかけてきた。
「私は魔王エリアル・S・カタストロフである、お前がリーゼを助けたヒロという男か?」
俺はゆっくり頷いた、声を出そうかと思っていたのだが、目の前の魔王の覇気というのだろうか、いわゆるプレッシャーに圧倒されてしまい、言葉が出なかったのだ。
「見たところ特につわものには見えぬが……、亜人やエルフなどの類にも見えぬし……」
「魔王様、ヒロ様は絶体絶命だった私を颯爽と助けてくださったのですよ!」
「それは聞いているが……」
魔王が訝しげな顔を俺に向ける、どうやら疑われているらしい。
いきなり素性の分からない者が出てきて娘を助けてくれました、と言われて納得するほうがおかしいので、当然の反応と言えば当然の反応である。
俺が何を言おうか迷っていると、魔王の傍に居た眼鏡メイドの女性が話し掛けてきた。
「ヒロ様、私は魔王様のお傍で宰相という職に付かせていただいております、オルガ・ロマニスと申します、この度は第一公女殿下を救っていただき、まことに感謝の言葉もありません」
「ど、どういたしまして」
宰相ってなんだっけ、王様の次に偉いんだっけ? っていうか何でメイド服なんだ? などと考えているとオルガさんが魔王に話しかけた
「魔王様、ヒロ様の素性について私のほうから推測を申し上げてもよろしいでしょうか?」
ただの人間だって分かったのだろうか? 滅ぼされちゃうのか?
などと不安が広がるが、ここで騒いでも逆効果だろうと思い、取り敢えず話を聴いてみることにする。正直逃げ出したいが。
「ふむ……よいぞ」
「有難うございます、では」
一つ咳払いをするとオルガさんは話し始めた。
「ヒロ様が動かしていた機体、あれは千年間誰も目覚めさせるが出来なかった龍神、それを動かすことが出来たということは、恐らくヒロ様は、千年前に姿を消したと言われている龍神か、そのの末裔なのではないでしょうか?」