第十五話 輝く刃の破壊者
沸き挙がる間欠泉と共に、俺は地上への帰還を果たした、周りの景色から見て、丁度王都に戻ってこられたらしい。
「やっと地上に出られたのはいいけど……」
周囲を見渡して状況を確認する、王都に騎士団が攻め込んできている真っ只中に出てきてしまったようだ。
周りには、銃を構えた魔王軍の機体と、剣や杖を構えた騎士団の機体、その中の見慣れない青い派手な機体に、俺の膝の上に乗っていたメタトロンが反応した。
「あれはガブリエル!?」
「その声はメタトロン、まさか貴様まで生き延びているとは……!」
「その青い機体に乗ってるのか、ガブリエル!」
機体を戦闘態勢に以降させようとするが、周りの状況を見て思い止まる、昨日俺達に罠を掛けた相手だ、今すぐ借りを返したい所だが、ここには味方の機体もいるし、何より市街地だ、ここで戦っては被害が大きくなる。
逡巡していると青い機体が一歩前に進み、話し掛けてきた
「どうでしょう、ここで戦うのはあなたも望まないはず、ここは場所を変えて、正々堂々一騎打ちで勝負を付けるというのは?」
「貴様、何を考えている」
「随分な言い方ですねぇメタトロン、私は人道主義者なのです、余計な被害を増やす事はない、そう思っただけですよ」
「私達を罠に嵌めておいて、よく言う」
「分かった、その提案呑もう」
「ヒロ殿!?」
確かにガブリエルは信用ならない相手だ、だがここでの戦闘を避けられるのならそれに越した事はないし、もし罠だったとしても、その罠ごと破ればいい、そう判断した。
「賢明なご判断感謝いたします」
「ガブリエル様、我らはどうすれば……?」
恐らくガブリエルの部下であろう白い機体が尋ねる
「勝敗が付くまであなた達は待機していて下さい」
「はっ!」
俺も魔王軍に話しかける。
「魔王軍も、俺達の決着が付くまで待っててもらえるか?」
「承知した、龍神殿、勝利を願っておりますぞ」
これでこの戦いの趨勢は、俺達の一騎打ちに託されたことになる。
「では私の後に付いて来てもらえますか?」
慇懃無礼に礼をしてから、ガブリエルが歩き出した、その後ろに機体を追従させる
「良いのかヒロ殿、奴はまた卑怯な手を使ってくるに違いない」
「そうかもしれない、だけど、ここで戦うのは俺も望んでなかったから……」
「むう……」
メタトロンが顔をむくれさせる、その顔を、ちょっと可愛いと思ってしまったのは不謹慎だろうか……?
暫く歩くと、王都の郊外の開けた平地までたどり着いた、ここなら、周りに被害も出なさそうだ。
「ふむ、このあたりでよいでしょうか」
「分かった」
2機の機体が一定の距離を取って離れる、そして
「では始める前に名乗らせていただきましょう、私は光神騎士団第八騎士隊隊長、セフィロトの十騎士が一人"極氷"のガブリエル、この機体は神より授かりし、極氷機アブソリュート・ゼロ!」
青い機体が鞭を構えて名乗る、どうやら鞭が相手の武器のようだ。
「俺はヒロ・シラカゼ、こいつは、龍神機ドラギルス!」
互いに名乗りを終え、一騎打ちが始まった。
「先手必勝!」
機体を羽ばたかせ、敵機の左上方から双肩を抜き、切り掛かる
「貰った!……ん!?」
斬撃が敵機を切り裂いた、そう思った瞬間、敵機がガラスのように砕け散った。
「残念、外れです」
「何!?」
驚く暇も無く、声の聞こえた背後から鞭の一撃が迫ってくる、俺は咄嗟に後方に下がって避けながら旋回し、右手のデストロイナックルを発射した、高速回転する右手が、敵機の胴体を貫通し……
「なっ!」
またそれはあっけなく砕けた
「また外れです」
側面から放たれる鞭を、左手のグレートウォールで弾く、衝撃で機体がふらつくが、ダメージは受けていないようだ。
お返しとばかりにプロミネンスアイを発射し、それもまた敵機を破壊するものの、手応えが無い。
「お前の能力で作り出した氷像か、さっきから俺が壊しているのは!」
相手が氷の力を使うのは称号で分かっていた、そして機体の壊れ方、あの壊れ方はガラスにも見えるが、氷もあんな風に砕けたはず。
「ご明察、私の極氷虚像を言い当てるとは、はは、種が割れてしまった以上、出し惜しみをする必要はありませんね!」
そうガブリエルが叫んだ瞬間、俺の周りに一瞬で数十機の敵機が出現した
「これは……!?」
「さて、どれが本当の私か当てられますか?」
そして、数十機の機体が一斉に俺に襲い掛かってきた、飛び上がって距離を取ろうとするが。
「逃がしませんよ!」
空中にもまったく同じ機体が同時に多数出現し、落下しながら攻撃を繰り出してくる、一体一体は一発で壊れるような脆い物だが、いかんせん数が多すぎる。
「私が何故ここを戦いの場所に選んだか、分かりますか?」
「何…?」
「あの場所ではこの技が使えなかったからですよ、あそこは温度が高すぎましたからね」
「そういう事か……!」
確かにあそこは俺と一緒に吹き出た熱湯や、戦闘によって燃えた民家などで、かなり気温が高くなっていた、この偽者が氷で出来ている以上、熱に弱いのは当たり前だ。
「だったら最初から、そう言えっての!」
落下してくる機体をインフィニティブラストで一掃しながら叫ぶ
「言えばノコノコ付いて来てくれなくなってしまうじゃないですか」
「ガブリエル……貴様騎士としての誇りは無いのか!」
今まで黙っていたメタトロンが、我慢できなかったように口を開いた
「そんな青臭い事を言っているから、粛清されるのですよ、メタトロン」
「まさか、あれは貴様一人の裏切りでは……!?」
「いくら私があなたを嫌いでも、そんな無謀な事をする訳が無いでしょう?あれはサンダルフォン様以下、十騎士の総意で決まった事なのですよ」
「そんな……馬鹿な……」
「あなたは確かに素晴らしい騎士でした、高潔で、有能で、ですがそれが周りとの軋轢を生んでいたのですよ」
「だが、それだけで粛清などと!」
「あなたが熱心に行っていた、教団内部の不正摘発、あれがいけませんでした、あのままでは私を含め、何人かの十騎士の貴重な収入源が無くなってしまう所でしたからね」
「十騎士は……十騎士は全ての騎士の模範となる存在ではなかったのか!?」
メタトロンが声を震わせながら叫ぶ、それに対し、ガブリエルは止めを刺すように言い放った。
「はは、そんな下らないお題目をまだ信じているとは、本当に馬鹿なのですねあなたは、まったく笑えますよ!」
ガブリエルの甲高い笑い声が響く。
「笑うな……!」
「はい?」
「メタトロンより弱いお前が!メタトロンを笑うな!」
周りを取り囲む氷像を拳で、蹴りで、または射撃武器で吹き飛ばしながら俺は叫ぶ。
「私が、この愚か者より弱い……だと?」
「そうだ、お前は自分が正面から戦ったらメタトロンに勝てない事を知っていた、だから、あんな卑怯な手を使ったんだ!」
「ふ、はは、そんな戯言を言っていられるのも今だけです、もう既に、あなた方の命運は尽きているのですからね!」
そして、俺を取り囲んでいた氷像が、瞬時に消え去った。
戸惑う俺に、いつの間にか俺からかなり離れた場所に居たガブリエルは余裕の口調で告げる。
「私が今まで、何の策も無くこの茶番を続けていたとでも?」
「まさか……時間稼ぎか!」
「既に準備は整いました、名残惜しいですが、この一騎打ちもここで仕舞いといたしましょう」
その時、俺の頭上の氷で描かれた巨大な魔方陣が輝き始めた、今まで氷像に俺を襲わせていたのは、この魔方陣から意識を逸らすためだったのだ。
「さあ、絶望しなさい、これが私の究極の技!極氷重塊撃!」
そして、巨大な魔方陣から、四方1kmはあるだろう超巨大な氷塊が、姿を現した、それはゆっくりと真下の俺目掛けて落下してくる。
「で……でか過ぎるだろ!?」
「はははは!為す術も無く、氷に押し潰されるが良い!」
ここまで大きいと、こいつの武装でも破壊しきれるかどうか……
「ヒロ殿……」
メタトロンが、不安そうに俺を見つめてくる、そうだ、ここで諦めるわけにはいかない!そう決意したその時、正面のモニターにまたあの文章が表示されていた。
"条件がクリアされたため、一部の武装のセーフティが解除されました"
「これは…!」
そしてその文章が消えた後、モニターには見た事の無い武装が表示されていた。
「迷ってる暇は無い……か!」
「何をごちゃごちゃ言っているのです?もはやどう足掻いても無駄なのですよ」
機体の双剣を抜き、それを一つに合体させる、まるで最初からそうだったかのように、自然に双剣は一つに合わさった。
そして完成した大剣は、眩しく輝き始める、その輝きは次第に増していき、大剣は一振りの巨大な光の剣と化した。
「これで!」
そして俺は、その名を叫びながら、光の剣を振り下ろした!
「シャイニング・ソード・ブレイカー!」
振り下ろされた光の剣は、凄まじい光を放ちながら、氷塊を飲み込んでいく、反動で機体が吹き飛びそうになるのを何とか持ち堪えながら、光の剣を振り切る。
「馬鹿な、避け切れな…!」
途中でガブリエルをも消滅させたその光によって、あれほど巨大な氷塊が、まるで最初から存在しなかったかのように、跡形も無く消えていたのだった。
「勝った…?」
「ああ、ヒロ殿の勝利だ」
エネルギーを使いすぎたのだろうか、システムがダウンした機体の中で、俺は勝利を噛み締めていた。
少し経ってから、メタトロンが話し掛けてきた
「そうだ、ヒロ殿、約束を覚えているか?」
「ああ、本当の名前を教えてくれるんだろ」
そして彼女は、少し照れくさそうにはにかみながら、その名前を告げたのだった。
「私の本当の名は……レンカ、レンカだ、ヒロ殿」
「そっか、改めて宜しく、レンカ」
「あ、ああ…」
「うん?どうしたんだレンカ」
「い、いやその、ヒロ殿にそう呼ばれると、恥ず…」
「???」
レンカは機体が再起動するまで、顔を赤らめたまま俯いていたのだった。




