第十四話 王都燃ゆ
その夜、王都は炎に包まれた、何の前触れも無く現れた騎士団の機体が、突如として王都に進入、町を破壊しながら、魔王城へと迫っていたのだった。
王座の間に駆けつけた魔王は緊迫した面持ちで部下からの報告に耳を傾けていた。
「状況はどうなっている!?」
「ハッ、突如として騎士団の物と思われる機体が王都に襲撃を掛け、現在王都外周部を進軍している模様!」
「数は?」
「それほど多くありません、ですが、あまりに突然であったため、こちらも未だ体制を整える事が……」
「奴らいつの間に……などと言っている場合ではないな、各所に連絡は?」
「既に」
「よし、とにかく敵を迎撃する事が最優先だ、急げよ!」
「ハッ!」
部下が去っていくのを目にしながら、魔王は一人呟く
「それにしても、こんな時に龍神はどこに……」
昨日の夜からヒロ殿と共に姿が見えなくなっていた、まさかこの襲撃と何か関係が……?
そう魔王が考える暇も無く、事態は更に切迫していくのだった。
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「ふむ、ここまでは作戦通り……ですか」
騎士団の紋章が飾られた天幕の中で、ガブリエルは一人呟く。
騎士団はただ龍神に怯えて膠着状態を保っていたわけではない、魔王軍にそう見せかけ、メタトロンとその配下がラツィオンの支援を受け、密かに王都へ潜入していたのだ。
機体のままでは目立ち過ぎる為、メタトロンは機体を細かい部品に分け、生身で部品を持ち込み、現地で直前に組み立てるという方法を実行した。
一点物である十騎士の機体は分解出来ない為、ラツィオンの"ある能力"を使用し王都まで輸送する方法を取った。
この方法は、直前まで察知されない奇襲を可能にするものの、生身で持ち込める部品には限りがある為、必然的に機体数はかなり少なくなってしまうという欠点も抱えていた。
龍神を一騎打ちで引き付けている間に王都を奇襲、魔王軍が迎撃体制を整える前に魔王城を陥落させる、それがメタトロンの立てた作戦であった。
ガブリエルは、その作戦をそのまま利用し、自身の配下も使って、当初の予定よりもかなり多くの部品を持ち込むことに成功していた。
それでも王都攻略には若干心もとない数だったのだが、彼は龍神のいない魔王軍なら問題ないと判断していた。
「目障りなメタトロンの小僧と龍神を名乗る魔王軍の新型を共に始末した今、私の計画を止められる者は存在しませんからねぇ……」
ガブリエルは満足そうに頬を緩める、この戦いの勝利を、彼はこの時点では微塵も疑っていなかった。
「ガブリエル様!」
「どうしたのです、騒々しい」
「ハッ!魔王軍の新兵器により、我らの進軍が妨げられているようなのです!」
「何?」
まさか、奴らはこちらの性能を上回る量産機をもう……?
脳裏に浮かんだ考えを即座に否定する、有り得ない、奴らの精霊機はまだ、我々の光神機の力の半分にも満たないはず、ではなぜ?
進軍が妨げられれば、その分だけ相手に体制を整える時間を与えてしまい、数の少ないこちらが不利になってしまうというのに……
「その新兵器とは?」
「ハッ、それが信じ難いのですが、奴らは筒のような物から、鉄の玉を物凄い勢いで飛ばす謎の兵器を使っているようで」
なんだそれは、そんな物見たことも聞いたこともない、だが、部下の前で動揺する姿を見せるわけにはいかない、彼はそう判断し。
「まったく、出来の悪い部下を持つと苦労しますよ」
「ガブリエル様?」
「私自らが出ます、もう少し楽をしていたかったのですが、あまり悠長にしていられないようですからね」
自らの目で、それを確かめる事にしたのだった。
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「ガハハ、この鉄砲というものは素晴らしいのう!」
王都外壁部で迎撃に当たるガルザスは上機嫌であった、何故なら工房から渡された試作品の新武器、その性能が思った以上の物だったからだ。
「杖を使わずにここまで正確な遠距離攻撃を可能にするなんて……」
同様に迎撃に当たるチェルシーも、またその性能に驚いていた。
迎撃部隊に渡された試作品はたったの四丁、だがその四丁が迫りくる騎士団の機体を、次々と撃墜していたのだった。
そもそも、こちらの世界には銃というもの、その発想すら存在していなかった、恐らくこちらで言う科学の代わりに魔法が発展してきたため、銃器などの近代兵器が開発されていなかったのだろう、とはヒロの考えである。
それを知ったヒロは、工房で知り合った親方に、銃器というものについて知る限り全てを教えた、もっとも、専門家でもなんでもないヒロの継ぎ接ぎの知識で実際に製作に成功したのは、優れた腕を持つ親方を筆頭とした工房の面々のお陰だったのだろうが。
実際に出来上がったのは、ヒロの世界のように火薬を使う物ではなく、魔力を用いて銃弾を発射するもので、性能はこちらの世界では中世に開発された単発銃と同程度のものだった。
それでも、杖を使用するより遥かに少ない魔力消費で、杖よりも安定した精度で射撃が可能であり、また魔法の素質があまり無い者でもある程度訓練すれば扱えるという利点があった。
「このまま持ち堪えれば、援軍が到着する我らが有利になるはず……」
銃という新兵器を手にし、優勢に戦いを進める魔王軍、だがその優勢も長くは続かなかった。
騎士団に向かって乱射される銃弾、その銃弾が、突如現れた巨大な氷の壁に全て阻まれたのだ。
「なっ!?」
魔王軍に戦慄が走る、そして氷の壁の向こうから、苛立たしげに呟きながら現れたのは、まるで氷の結晶のような形の透き通った蒼色の機体であった。
「全く、何事かと思って来て見れば、こんな玩具に苦戦していたのですかあなた達は」
「ガブリエル様!」
「ガブリエル?もしや十騎士!?」
ガルザスが驚愕して叫ぶ
「十騎士?」
「奴らの中でも最高の戦闘能力を誇る選ばれた十人をそう呼ぶ、らしい、ワシもこの目で直に見るのは初めてじゃが」
「ほう、魔王軍の中にも少しは常識のある物がいたようですね、そう、私は誇り高き十騎士の一人、極氷のガブリエル、覚えておくが良いでしょう」
そこでガブリエルは一旦言葉を切り、魔王軍を見渡しながらこう続けた
「まあ、これから死ぬあなた方には関係ありませんがね……」
魔王軍に緊張が走る、そしてガブリエルがその力を魔王軍に振るおうとしたその時。
「揺れてる…!?」
地面が激しく振動し出した、その振動は地鳴りと共にだんだん大きくなっていく。
「何が…?」
ガブリエルがそう呟いたその瞬間、彼の足元の地面が割れ、巨大な何かが湧き上がる熱湯と共に勢い良く飛び出してきた。
「あれは!?」
「もしや……」
「馬鹿な、貴様は、貴様は私の目の前で……!」
彼らの目の前に現れたのは、ガブリエルの目の前で大穴に消えたはずの、ヒロの駆る龍神機だった。




