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第十話 激闘の果てに

 先に仕掛けたのは、メタトロンの方だった


「獄炎乱舞!」


 メタトロンの周囲に、何の前触れも無く、機体と同サイズの火球が一瞬で現れた俺が驚く暇も無く、火球はまるで意思を持っているかのように、次々と俺へ向かってくる。

俺は火球をかわしながら双剣を抜き、次々と飛んでくるそれを切り裂いていく


「これくらいなら!」


 火球を切り裂きながら至近距離まで接近し、右側面から上段で切りかかる、が


「甘い!」


 いつのまにか逆手に持ち替えられた長剣であっさり防がれてしまった、お返しとばかりに、長剣の斬撃が飛んでくる、それを後ろに跳び下がって回避、下がりながらプロミネンスアイで牽制するが、それも盾で防がれる、十騎士などと大仰な名前を名乗るだけあって、一筋縄ではいかないようだ。


「さすがは伝説の龍神……神より授かりし獄炎機の性能をこうも凌駕しているとは……」

「だが……!!」


 メタトロンが一直線に突っ込んでくる、いままで見た事も無いような、まるで銃弾のようなスピードだ、咄嗟に腕を前面でクロスさせて防ぐ、が衝撃を殺しきれずに機体の動きが一瞬止まる


「その隙、見逃さん!、獄炎連撃!」


 至近距離で火球攻撃を連打される、その威力に機体が吹き飛ばされ、ダウンする。


「ぐぅぅぅ!!!」


激しい振動が操縦席を襲う、意識を失いそうになるが、歯を食いしばって堪える、直接的な損傷はまだ無いものの、明らかにこちらが押されていた。


「やはり、機体の性能は高いようだが、操縦者はそこまでではないようだな!」


 長剣で倒れこんだ俺に追撃を加えるのを、機体を回転させて避け、機体を立ち上がらせる


「なにを!」


 デストロイナックルを左手だけ発射し、敵がそれを避けたその軌道上目掛け、インフィニティブラストを高速で放つ、通常時より威力は下がるが、ここは当てるのが最優先、と判断した、その光線は狙い通りに敵機に直撃……しない、なんと敵は空中で機体を無理やり捻り、曲芸のようにそれを避けて見せたのだ。


「そう落ち込むことも無い、貴殿の腕は騎士団でも上位には入るほどであろう、だが、この身を神に捧げ、人間である事を捨て、ただひたすらに強さを求めた私には、貴殿では勝てん!」


 そのまま回転の勢いを殺さず、発射直後で動けない俺に長剣を振り下ろす、右腕上腕部が切り裂かれ、火花が噴出す。


「好き勝手させるかよ!」


 発射していた片手を再び回転させ、高速で引き戻す、後ろ手で構えた盾で防がれるが、その隙に回し蹴りを放ち、敵機を吹き飛ばす、体勢を立て直し、距離を取って再び構えなおす、さっきの斬撃で右腕の武装が使えなくなってしまったようだ。


「強いな……」


敵は強い、今まであっちの世界でやってきていたゲームとは訳が違う、この戦いに負ければ、俺は恐らく命を落とすだろう、そのことを今になってようやく実感する。

 

 その時、先程の衝撃でヒビが入り、映像が欠けたモニターの端に鏡のように俺の顔が映っていた、


「唯ではやられんという事か……ならば、我が最大の奥儀で……!」

「フフフ……」

「何?」

「フフ……ハハ……ハハハハハハハハハハハ!!!」


 その顔を見たとき、俺は思わず吹き出してしまった、なぜなら俺は、こんな状況にもかかわらず、無意識に笑っていたからだ。


「貴様……気でも狂ったか!?」

「いや……大丈夫、何でも無い」

「なら、何故笑う!この戦いを侮辱する気か!」

「そうじゃない……そうじゃないさ、ただ……」

「ただ?」

「俺がとんでもなくロボット馬鹿だったってことに、今更気付いたから……かな」


 俺はこの状況を楽しんでいた、命を掛けたこの決闘を、心から楽しんでいた、ロボットに乗って自分と互角に戦える敵との真剣勝負、あっちに居た頃何度も夢想した絶好のシチュエーションが、ここに実現してしまったからだ。


「さあ、気を取り直して、再開と行こうか!」

「最大の奥儀ってのを見せてくれるんだろ、面白い、受けて立とうじゃないか!」


 もはや吹っ切れてしまった俺は、同時にこの状況の打開策も思い付いていた、普通の神経ならまずやらない無謀な策だが、今の俺に迷いは無かった。


「良く分からんが……いいだろう、望み通り、我が最大の奥儀にて、貴様を葬ろう!」


 そう言ったメタトロンの周りに、今までとは色の違う蒼色の炎が集まり始めた、それは右腕に持つ長剣に収束していき、たちまち長剣は蒼色の炎の剣となった。


「獄炎機奥儀・蒼炎光刃剣!」


 そして、先程より更に早いスピードで獄炎機が炎の剣を振りかぶり突っ込んでくる、俺はその突進をかわすのではなく


「それを待っていた!」


 逆に機体を思いっきり前へと進ませた


「何!?」


 予想外の行動に敵が戸惑うのが分かる、だが物凄い勢いの突進は急には止まれない、振り下ろされた長剣を俺はわざとバリアを展開させていた左腕で受け、勢いを殺しながらそのまま肩口まで長剣に切り裂かせる、予想通り長剣は腕を切り裂く途中で、機体に阻まれ停止する。


「これを狙って!?」

「肉を切らせて骨を絶つ、俺の故郷には、こんな言葉もあるんでな!」

「気付いていたのか……」

「ここで最初に声を聞いた時から…な!」


 そう言いながら、長剣をわざと機体に食い込ませ、敵機を引き寄せホールドする、未だ消えない長剣の燃え盛る炎が俺に迫る、だが俺の命まではまだ遠かった。


「これで、止めだ!」


 そう言いながらプロミネンスアイを発射しようとする、その瞬間、採掘場の入り口から、場違いなほど明るい声が響いた。


「いや~二人とも素晴らしい!実に素晴らしい!ここまでの戦いを見せてくれるとは、わざわざこんな所まで来たかいがあったというもの!」


 俺とメタトロンが同時に振り向いて叫ぶ


「誰だ!」

「貴様は……もしや!」


 そこに立っていたのはシルクハットにタキシード姿の片眼鏡をした長身の男だった、その顔は、まるで玩具を見つけた小さな子供のように、無邪気な笑みを浮かべていた。


「"極氷"のガブリエル!?貴様が何故ここに!?」

「あなたが知る必要はありませんよ、"獄炎"、なぜならあなた方は、ここで死ぬのですから」


 そうガブリエルが言い終えたその瞬間、俺達の足元が物凄い振動と共に、崩れ去った。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ガブリエル!!貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 咄嗟に羽で飛ぼうとするが、先程のダメージのせいか、まるで動かない、俺達はなす術も無く、先の見えない暗闇へと、ただひたすらに落ちていくのだった。



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