第一話 龍神覚醒
いつものように寝ていた俺が眼を覚ますとそこは、まるでロボットの操縦席……というかゲームセンターで普段やっている体感型ゲームの操縦席そのものだった。
正面に外の状況が映し出されるメインモニター、その上に機体の状況などが表示されるサブモニターが見え、操縦は足元の2つのフットペダル、二本のレバーで行い、武装は左右のトリガーの組み合わせで使用する。
俺はこのゲームをかなりやり込んでおり、時には大会で入賞することもあった。
「何でこんな所に……?」
寝ぼけているのだろうか? それとも夢なのか? しばらく逡巡した後、思い切っていつものゲームでやっているようにスイッチを押してモニターを付け、レバーを引いて機体を立ち上がらせる動作をやってみた。するといつものように目の前のモニターが点灯し、いつもの……それよりは大きな振動を感じたが、どうやら機体を立ち上がらせることに成功したようだ。
「動かせる……のか?」
と呟きながら目の前のモニターを確認すると、ロボットの図面のような物が表示されていた。おそらくこの機体の物であろう、文字はよく分からない言葉で書かれていて読めなかったが、通常の人間型のロボットに尻尾のような物と刺々しい羽が付いた外見、赤色を基調にところどころ黒色が刺し色で入っているカラーリングが確認できた。
「まるでファンタジーに出てくるドラゴンみたいだな……」
そして次にモニターに映し出されたのは、大きな柱が立ち並ぶ何かの神殿のようであった、CGの類ではないようだ、これは外の景色だろうか、天井が岩肌に囲まれていることを見ると洞窟の中かもしれない。
「何だここ、やっぱり夢なのかな」
少なくとも自分が住んでいた普通の地方都市ではこんな光景を見たことが無い、ロボット好きが行き過ぎて夢の中でもロボットを操縦する夢を見ているのだろうか?
普通に考えていきなりロボットの操縦席にいることはありえないし、こんな場所に居ることもありえない、それならば夢なのだろう、と自分を納得させ。
「どうせ夢なんだから覚めるまで楽しむか!」
と開き直って思いっきり操縦してみることにした、勢いよく機体を前進させ洞窟の外に跳びだす、まるで本当にロボットの中に居るような振動が襲うが、それが更に俺を興奮させた。
「凄い凄い!ホントの機体を操縦してるみたいだ!ゲーセンよりずっと凄い!」
洞窟から出てすぐに、崖のようになっている場所を見つけた。
洞窟は高台にあったようで、見下ろすと町のようなものが見えた。
だが次の瞬間、モニターに映し出された光景に俺は絶句した。
「なんだ……これ」
燃えている、立ち並んだ家、畑、大きな塔、目にするすべてが燃えていた。
20mほどの白い大きな鎧(ずんぐりむっくりしており、まるで中華鍋に手足が付いた様である)のような物が建物を壊し、火を放っているのが見える、そしてそれと戦っているような人間も。
「戦争……なのか……?」
夢にしては随分凝ったシチュエーションだなと思いながら、どちらに加勢すべきか考える、答えは一瞬で出た。
「お約束だと、町を壊しているほうが悪役……だよな!」
そう言い放ってからすぐ、坂を駆け下り、近くに居た民家を壊している白い鎧5機に急接近した。
どうやらサイズはこちらの方がかなり大きいようだ、倍ぐらいだろうか、あちらは驚いた様子で動きが止まっている、チャンスとばかりにロボの拳を頭部に叩き込む、物凄い勢いで白い鎧は装甲を飛び散らしながら吹き飛び、爆発した。
「まずは1機!」
まるで本当に戦っているような衝撃と、特撮のような目の前の光景に、俺の興奮は更に高まっていた。
残された四機は慌てて自分を囲みだし、杖のような物から火の玉を飛ばしてきた、それを避け、背後の一機に回し蹴りを当てる、白い鎧が吹き飛ばされる。
「2機目!」
そのままの勢いで隣の一機にも蹴りを放ち、吹き飛ばす。
「3機目!」
同時に2機の鎧が爆発した。
残りの2機は戦意を喪失したようで、こちらに思いっきり背後を見せて撤退していった。
「これで終わり……じゃないよな」
先程確認した限りではここから500mほど離れた大きな塔の周辺で戦っている黒い鎧がまだまだいたはずだ。
「そっちも片付けたほうがいいか」
と呟いてから機体を大きな塔の方へ向かわせた。
道中で何機か鎧を倒しながら、大きな塔へ向かう、次第に町の中に入ってきたようで、建物が目立ってきた。
豪華な建物の前に10機ほど鎧が固まっているのが見え、その中には他の鎧と違って立派な角を生やした、一回り大きな鎧の姿もあった。
「角が生えてるのが隊長ってのが一般的だけど……」
建物の陰に隠れながら少しずつ近づいてみると、鎧達の中心に銀色の髪の小さな女の子が見えた。
何かを話しているようだが口論しているように見え、どう見ても友好的な雰囲気ではない、そしていきなり隊長機(仮)が杖を構え、女の子に向かって火の玉を打ち出そうとし始めた。
「危ない!」
思わず建物の陰から飛び出し、そのまま飛び蹴りで隊長機(仮)を吹き飛ばすと、女の子を庇う様に機体を屈み込ませ、操縦席の扉を開き、女の子を抱き寄せた。
「大丈夫か!?」
女の子は何か言っているようだが、知らない言葉のようで、さっぱり分からない。
取り敢えずここを何とかするのが先決だと考え、女の子を膝に乗せ操縦席の扉を閉めて機体を立ち上がらせた。
「しっかり掴まっててくれよ!」
こちらの言葉は分かっているのだろうか?そんなことを考える間も無く、先ほど吹っ飛ばした隊長機(仮)が、襲い掛かってきた。
「一発じゃやられない、伊達に隊長じゃないってことか!?」
その動きを合図にしたように他の鎧も一斉に襲い掛かってきた、四方からの打撃と火の玉攻撃で、身動きが取れない、どうやらこの機体は頑丈なようで、鎧の攻撃を受けてもビクともしていない、がいつまでも耐えられるとは思えない。
「何か突破口は……そうだ!武器だ!」
今まで素手で戦っていたが、普通ロボットには武装があるものだ、実際にロボットを動かせただけで楽しくて、それをすっかり失念していたらしい。
腰に装備されていた剣を抜き、正面の隊長機(仮)に向かって振り抜いた、するとその機体だけではなく、衝撃波が火の玉を切り裂きながら一気に後方に居た2機の鎧も真っ二つにした。
「これなら!」
剣を横一文字に構え自分を囲むように振り回す、すると衝撃波が四方に発生し、周りの敵は一瞬であっけなく全滅していた。
「なんとかなったかぁ……」
と安堵したのもつかの間、膝の上で大人しくしていた女の子が急に喋り出した、だがこちらは少女の言葉が分からないし、こちらの言葉も理解できていないようだ。
言葉が通じないとか夢なのに変なところで不親切だな……と考えていると、女の子が眼を閉じ何かを小声で呟き始めた、次の瞬間、魔方陣のような物が目の前に現れ、眩しく光ってから消えた。
「いきなりなんだ!?」
「驚かせてすみません、翻訳の魔法です、私の言葉は分かりますか?」
不思議なことに、さっきまでさっぱり分からなかった女の子の言葉が、はっきりと理解できるようになっていた。
「分かる……けど」
熱っぽい口調で女の子は話し続ける。
「良かった!あの、まずはお礼を、私を助けていただいてありがとうございます!」
「ど、どういたしまして」
さっきまでは戦闘中で意識していなかったが、この子、結構可愛い、セミロングの眩しい銀色の髪やぱっちりとした眼、整った顔立ち、それに何より密着して分かるいい匂い、女の子に免疫の無い俺はすっかりテンパってしまった。
「あの、私は、第一公女リーゼ・S・カタストロフと申します、あなたは何者なのですか?お名前は?何故この精霊機を?」
セイレイキという物が良く分からなかったが、この機体のことだろうか? というか王女? お姫様なのか? と困惑していると女の子が不安そうな目で見つめて来た。
俺は慌てて答えた。
「えーっと、俺は大学生の白風広、苗字が白風で、名前が広、そんでこの機体については……正直よく分からない」
目が覚めたらいきなり操縦席に居たんですよ!とか言っても信じてもらえないだろうし、正直に良く分からないと言っておいた。
「珍しいお名前なのですね、ダイガクセイというのは良く分かりませんが、称号のような物なのでしょうか?」
「まあ、そんなところかな……」
俺の返答にリーゼはしばらく考え込むと、何かを決意したように、俺の方を向き。
「あのっ、助けていただいたばかりで恐縮なのですが、あなたを大きな力の持ち主と見込んで、お願いしたいことがあるのです!」
「お願い?まあ、別にいいけど」
可愛い女の子のお願いならどんなことでも聞いてあげたくなる、それが男だ、だが彼女のお願いは、俺の想像を遥かに超える物だった。
「私を……いいえ私達魔王軍を助け、人間達を滅ぼすために戦ってもらえませんか!」