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第一話 始まりの遺跡

 眼が覚めると、俺は地下室のような場所に居た。壁は石でできていて、触ると少し湿っている。石組の隙間から雑草が生えていたり、角が取れてつるつるになっていることからするとかなり古い建物の様だ。天井にはランプのようなものが据え付けられていて、それが橙色の光でぼんやりとあたりを照らしていた。


 俺の家の周辺に、こんな場所あったか? というよりも、なんで俺はこんなところに居るんだ? いろいろと頭を捻ってみるが、さっぱり思い当たる節はない。せいぜい、ゲームをやってたらよくわからない声が聞こえたぐらいだ。興奮しすぎておかしな声を聞いただけだと思ってたんだが……ひょっとして何か重要なことだったのか?


「歩くか」


 五分ほど悩んだところで、結局何の結論も出せなかった俺はひとまず周囲を探索してみることにした。何故だか知らないが普段使っているスニーカーを履いていたので、足元に不安はない。俺は手に握りしめていたスマホをポケットに入れ――あれ?


「おうっ!? 俺のスマホがアァ!!」


 大切なデータや嫁がぎっしり詰まった俺のスマホが……スマホが……石になっていた。

 色や質感がスマホそっくりだったので今まで気づかなかったのだが、黒くて薄っぺらなただの石になっている。ボタンとかそういったものは一切なく、当然のように表面をタップしても反応しない。ぽんぽんぽんぽん……と執拗なまでに人差し指で石の表面を連打するが、つるっと滑らかな感触が帰ってくるだけだ。


「クソ、誰の仕業だか知らんが俺から嫁を奪うとは……! 許さねえ、絶対許さねえ!!」


 憤懣やるせなし。俺はスマホ型の石をポケットに乱暴に突っ込むと、肩で風を切るようにして歩き始めた。石の床にドカドカと足音を響かせながら、細い通路をゆっくりと進んでいく。すると曲がり角の向こうから、何やら物音が聞こえた。


「人か……?」


 もしかしたら、俺をこんなところに放り込んだ奴かもしれない。俺はとっさに息をひそめると、ゆっくり音のした曲がり角の方へと歩いて行った。そして恐る恐る角から顔を出してみる。すると……


「ゴブリン!?」


 緑色の肌をした、小学生ぐらいの背丈の人型。ワイルドな毛皮の腰布を穿き、肩から造りの雑な棍棒を提げたその姿は、どう考えてもファンタジー定番のザコキャラ『ゴブリン』にしか見えなかった。肌の色だけでなく顔立ちも明らかに人とは違っていて、口の端から小さな牙が飛び出している。


 思わず声を出してしまったのがいけなかったのか、ゴブリンは俺の存在に気づいてしまった。緑色の顔がこちらを向いて、その濁った眼と視線があってしまう。


「ウゴオ!!」


 棍棒を振り上げ、奇声を上げながらゴブリンが突っ込んでくる。こ、こええ!!

 ゴブリンの異様な迫力に腰が抜けてしまった俺は、とっさに走り出すことができなかった。仕方なく、足をバタバタと振ってゴブリン相手にヤクザキックを繰り出す。すると運の良いことに、そのうちの一発が腹に命中した。底の厚いスニーカーを履いてたおかげか結構な威力があったようで、ゴブリンがその場に倒れる。


「おりゃッ! おらッ!」


 必死に倒れたゴブリンを蹴りまくる。何だか子どもをいじめてるような気がして嫌だったが、ゴブリンの鬼のような形相を見ればすぐにそんな気分はすっ飛んだ。俺は最初に棍棒を蹴り飛ばすと、腹や頭を中心にガンガン蹴る。もともと大人と子供ほどの体格差があるので、こうなってしまえばあとは特に問題はなかった。


 そうしてしばらくすると、いきなりゴブリンの身体が光を帯びた。まさか、自爆でもするのか!?

 俺は慌てて距離をとったが、特に何事もなくゴブリンの身体が消えただけだった。どうやら、ゴブリンは死んでしまったらしい。死んだら光になるなんて、どこぞのゲームみたいだ。


「ふう……いったいなんだって言うんだよ」


 ため息をつきながら、ゴブリンが消えたあたりへと戻る。すると石の床の上に小さなクリスタルのようなものが落ちていた。青く澄んだ親指ほどの大きさのクリスタルで、中には梵字のような文字が刻まれている。


「これ、ソウルクリスタルか?」


 クリスタルの大きさと中に刻まれている文字。それは俺にとって見慣れたものだった。ふぁんたじいはーれむに登場するソウルクリスタルというアイテムにそっくりなのである。これはガチャや戦闘で入手することができるアイテムで、これをカードストーンと呼ばれる石に対して使用することにより、キャラカードを得ることができる。設定的には確か、魔物の魂が籠ったクリスタルとか何とかそんな感じのものだ。ぶっちゃけ、ソーシャルゲームはそれほど設定を重視しないのでその辺はかなりあいまいである。


「まさか……!」


 俺はポケットからスマホ型の石を取り出した。手のひらサイズでかなり薄いこの石は、改めて見ればスマホと言うよりカードに近い。俺はとっさに、先ほど手に入れたソウルクリスタルらしきものをこの石に触れさせてみる。


「うわッ!」


 カキーンッ!と激しい金属音がして、物凄い勢いでクリスタルが弾かれた。さらに石が俺の行動に抗議するかのように、バイブよろしくブルブルと震える。俺は吹っ飛んだクリスタルをどうにか空中でキャッチすると、大きなため息をついた。何故だか良くわからないが、この石とこのクリスタルは物凄く相性が悪いようだ。


「くそッ、上手く行くと思ったんだけど……」


 元がモンスターでも、一度クリスタル化して再度召喚すれば美少女キャラになる。それふぁんたじいはーれむの世界だ。もしかしたら……と思ったが、世の中そんなに甘くはないらしい。やっぱゲームの仲の世界だけの話だよな、そんなの。


「はあ……」


 精神的にくたびれた俺は、とぼとぼと通路を歩いていく。その時、前方に光が見えてきた。このわけのわからん場所から出られる……! 希望を取り戻した俺は、一気に通路を駆け抜け、外へと飛び出した。視界が急速に開けて、目に鮮やかな緑が飛び込んでくる。通路の外は林となっていて、さらにその向こうにはうっすらと草原が見えた。


「……え!?」


 振り返ってみると、そこには古代遺跡を思わせる巨大な建築物があった。茶色く変色した石の壁に、ピラミッドのような形状の屋根。さらにはそれを取り囲む四本の高くて白い石柱。これらの構造物はまさに森の中に眠る神秘の遺跡と言った感じで、雰囲気は満点だ。


 だがその形状に、俺は見覚えがありすぎた。テレビで見たとかではない、これは……


「始まりの遺跡じゃねーか!!!!」


 俺の目の前にある遺跡は、ふぁんたじいはーれむ最初のダンジョン『始まりの遺跡』そのものであった。

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