埋没少女、火のない所になんとやらその5
かなり間があきました…。
「う、うう、承諾しかねます…!!」
「ふぅん…強情だねぇ」
その言葉バッドでそっくりそのまま打ち返しますが、何か!
「うーん、あまりこういう事は自分で言いたくないんだけどね。僕、一般男子よりもなかなか良い条件を兼ね揃えていると思うんだ」
壁についた方とは反対側の手でくるくると髪をいじりながら平然とそんな事を口にする王子にどう反応していいか分からなくなる。
これがただ単なる言葉にそぐわないナルシストだったら「一昨日来やがれ」で一発解決なのに。
「まあ、はい、そうですよね、そこは分かります」
「うん、良かった。でも君はそれが嫌だというけど、どうして?」
………
「ええと…例えばカレーライスがここにあるとしますよね」
「唐突だね、それで?」
「付け合わせにぬか漬けか福神漬けどっちを選ぶって言われたらどうしますか」
「…」
「あなたはぬか漬けを選ぼうとしているのです!ミスマッチなんです、美味しくないですよ本人も周りの見ている人も!」
熱く語る私に変わらず微笑んでいる王子。
自分でも途中から何言ってるんだろうとか思ってますけど、そんな小さい子を見るような慈愛の目で見なくても…。
「うーん、つまり君は僕の肩書きと立場は君のそれとはそぐわないと言いたいんだよね?」
「あ、はい」
そっかそっか、と頷かれ僅かな期待がよぎる。
分かってくれたのだろうか…と思った。
「僕はぬか漬けも福神漬けも食べたことはないけど、きっと君が言うんだから美味しいんだろうね」
違う!
「食べたことないとか、ありですか!いや、それよりもそうではなくてですね」
「好みなんて人それぞれだよ」
ああ言えばこういう!!
「私自身も、自分にあった主菜主食と食べて欲しいんです!もとから似合わない物な上にスパイスから厳選されたカレーなんて添えられるだけで萎縮してしまいます!」
「なるほどなるほど」
力一杯力説すればするほどになんだか面白がられている気がする。
ぬかに釘?中の私に釘が刺さってますよ?
「ところで、そろそろカレーから離れない?」
「…お腹空いたんですもん…」
今流行りの壁ドンをされているのにもかかわらず色気のない事を言う私にクスクスと笑うと、王子はぱっと手を離した。
「じゃあこうしよう、友達から」
「え?」
いい事を思いついたと言わんばかりの笑顔に少し面食らう。
「確かに君の言う事にも一理ある。でも、それは上辺から見た線引きにすぎないでしょう?」
「上辺から…」
「そう、君は人を偏見だけでカテゴライズして跳ね除けるの?」
ぎくりとした。
確かに今私がやっているのはそう言う事だ。
「それは…」
「だから、ね?僕を知って、それでも性格が合わない!とかそういう相性の不一致じゃなければ、考えて欲しいな」
だから、お友達から、と。
どう?と首を傾げる王子に内心困ったなぁと思う。
私の性格上目立つのは苦手だ。
それなりに女の子の世界が厳しい事も理解しているし彼がモテるのも(つい最近)知った。
だが彼の言うとおり私は彼のもっている物だけで彼を判断したのも間違いない。
成る程、あっさり振られるのにご立腹していたのではなく、こんなにキチンとした理由があったのか。
きっかけは罰ゲームといえここまで食い下がってくるのはきっと少なからず私に興味を持ったのかもしれない。
私の内面を見てそう言うのならば、私も精神誠意答えねばならないだろう。
「分かりました。その話、お受けいたしましょう」
「本当?ありがとう」
心の底から嬉しそうな顔をする王子に少し照れ臭くなる。
これはあれか、美しすぎるお顔を間近で拝見しているからか。
眼福だ、とまじまじ見ているとスマホを取り出してふむ、と何かを確認する王子。
「じゃあ、これからご飯でも食べに行こうか」
「え」
「お友達の記念に。お腹すいたんでしょう?」
「いえ、家でお母さんがご飯を作ってるので…」
「親御さんにはご連絡しておいたよ」
手が早い。
「さっきしきりに話してたし、カレーでも食べに行く?ああ、一応和食のおいしい店を予約しておいたんだけど…」
「予約!?」
早すぎる!
さっきまでスマホなんていじってなかったのに、いつの間にそこまでやったのか。
「門に車をとめてあるから行こうか。あ、それと僕らは友達なんだから敬語はやめてね?破ったらお仕置き」
語尾に音符のつきそうな程ご機嫌な王子は、さっと私の手を取り歩き出す。
何故私の脳裏にドナドナが過るのか。
ちょっと待て、ものすごく色々早まった気がするのは私だけですか?
「ふふ、これからよろしくね」
かがやく笑顔と対称的に引きつる頬。
これは、女子達に袋叩きにされるのも近いかもしれないと第六感が悲鳴をあげた。
捕獲完了です(にっこり