埋没少女、火のない所になんとやらその1
「っていう夢をみたのさ!」
「五月蝿い」
間髪いれずガスッと眉間にチョップをかまされ、おぁうふと気の抜けた声が漏れる。
放課後の西日を背に受け、頬杖をついている彼女、鳩谷菜々美はすこぶる機嫌が悪かった。
目の前の友人がサンドバックに見えるほどに。
攻撃を真正面からうけたゆなはただ眉間を押さえ唸る。
頭叩くと脳細胞死滅するって話、本当だったらどうしよう。
「うぅ…ひどい、菜々美」
「お黙り。突然ワケの分からん事を口走るのが悪いのよ」
「だからってチョップすることないのでは!?」
「ただでさえ虫の居所が悪いっていうのに…」
チッ、と舌打ち。
おぉう…すさんでいらっしゃる。
「えー…と、これはどうしたの?ときくべきでしょうか、菜々美さん?」
「…」
無言は肯定だ。
「…どしたの」
「隆也が女子と喋ってた。物凄く仲良さげに」
思わずまたか…と呟いた私に罪は無いはずだ。
「気にしすぎじゃないのー…?他意はないと思うけど」
瞬間、菜々美がこちらを睨んだ。
人一人殺ってきたみたいな目ですよ!
「ゆな、男女交際はシビアなの。決まった女がいるにも関わらず他の女に目移りする男なんてなにされても文句言えないのよ」
そう言って微笑む菜々美(だがしかし目は殺伐としている)。
激しく何か違うと思います。
「そんな事言ってないで、ほら、隆也くんそろそろ迎えにくるんじゃないの?」
「来ないわよ」
「え、」
「しばらく半径5メートル以内に近付くなって言ったもの。今日も一緒に帰らないって」
「ーそれはそれは…」
菜々美主義の彼にしたら涙目だろう。
早く誤解が解けるといいね。
脳内に浮かぶ忠犬ハチ公のような男の子に思わず合掌…ん?
「じゃ、なんでこの時間まで残ってるの?」
「あぁ、一つききたい事があって」
「アンタ、何時の間に氷王子と仲良くなったの」
「ぶッ」
文字通り噴き出した。
やーね汚い、なんて言いながら蔑みの目を向ける菜々美に思わずつかみかかる。
「何それ、あの王子本当にあだ名王子なの!?」
「突っ込むとこそこなの?ていうか、噂は本当だったのねー」
「噂!?」
「1年Cクラスの朝見ゆながセレブコースの氷王子と密会してた、なんて話がそこらで出回ってるわよ」
なんと、クラスまで割れているとは!
「通りで帰ってきたあとの授業中、視線を感じるわけだ…」
お腹すきすぎてあんまり気にならなかったけど。
なかなか話が進まない…。