埋没少女、歯車狂いその2
ここで唐突だが、私の学校について軽く説明しようと思う。
私の通う私立栄瞭学園は創立百年超えの伝統あり、由緒ありのコテコテの私立高校である。
えぇ~、私立なんだから学費、お高いんでしょう~?
いえいえ、そんなことはございません。
この栄瞭学園、普通コースは近隣の私学の学費の半分で、学食、購買、図書館など設備も申し分ない、いやむしろ整いすぎているくらいの学校なのだ。
こんな学校だから入りたがる中学生はもう多くて受験生の時は苦労…まぁこの話は割愛するとして。
もちろん、清く美しいボランティア精神でやっていけるほど現代日本は甘くないのでちゃーんともとは取れるようになっている。
そのもとのとりどころが私の所属している普通コースとは別の、特別コース…通称セレブコース。
日本各方面のトップの御子息御令嬢が通うこのコースは、校舎も何もかも普通コースとは隔離されているまさに別世界。
噂ではあらゆる廊下、床は赤い絨毯で敷き詰められ、花が一輪いけてあればその壺おいくら万円、勉強内容は帝王学うんたらかんたらというなんともぶっ飛んだコースらしい。
学費もバカにならないし、更にさらに寄付金とかいう恐ろしいものでそのコース内の生徒の地位が暗黙の了解で決まるらしいが、コース自体にブランドがついていて毎年入学者が殺到する…故に学力も日本屈指。
そりゃあ私が通ってる普通コースだって倍率高いからそこそこの難関ランクだけど、ここは桁違い。
うぅ、しゃべってるだけで中流階級、その他大勢でいたいタイプの私にはトリハダものだ。
だってだって、廊下に赤い絨毯インテリアにお偉い陶芸家の壺って、転んだらもうお先真っ暗、借金着込んでサヨナラバイバイじゃないか!
そんな恐ろしいセレブコースの校舎はこの学食を挟んで南側の広大な敷地に広がる白亜の建物がそれである。
IDカード+指紋認証+ガードマンに顔パスしてその建物に入る事の出来る生徒は、普通コースと制服も少し違う。
私の着ているシンプルイズベストなブレザーではなく、飾りボタンに品のよいラインが入って胸ポケットには真紅の校章バッチ。
…はい、まさに目の前で美しいお顔を惜しげもなく見せつけてくださっているお方ですね。
ドンピシャです、完全に一致です。
胸ポケットに私のラッキーカラーが光っています。
「目○ましの嘘つき…」
「え?」
「あ、いえなんでも」
「?」
うーん…キョトンと小首を傾げる様がなかなかどうして美しい。
こんなに近い距離でなければそのサラサラの黒髪も、スッと通った鼻梁もきめ細かい白い肌も眼福もの。
薄い唇は緩く弧を描いてまさに“王子様”。
間違っても村人A的存在の私と同じテーブルに座っていい人ではないな、うん。
と、そこではたと気付いた。
このセレブコースの王子は私の名前を知っていた。
けれど私はこの人を全く知らない。
…誰?この王子。
「あの…」
「なぁに?」
思い立ったが吉日、さっさと名前と用件を聞いてお引き取りいただこうじゃないか。
「失礼ですが、どなたですか?」
……………
見つめあうこと数十秒。
「…あはははははっ!!」
「…」
王子が壊れました。
さっそくのお気に入り登録ありがとうございます!