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『異世界で炊きたてご飯が最強すぎた件 ~炊飯器スキルで農業革命はじめました~』  作者: 七生(なお)。


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第9話 発酵無双

「米ってこんなに美味かったのか」

「おにぎりって言うらしいぜ。昼は当分これでいい」

「ほんとだな……おっ、中に野菜の漬物が入ってんぞ」

「こっちはプラムだ。この酸っぱさがたまらん」

「もうあの黒パンは食えないな」


 食堂の窓から外を覗くと、二人の衛兵が拳サイズのおにぎりを頬張っている。


 なんでもヴェルミリア村ではエーミール自身がしぶる農家を回っては「そうか。そうか、つまり君はそんな奴なんだな」なんて嫌味を言って作らせたそうだ。

 一度、発芽米から収穫した米は、モミの直蒔きで同じように育つ。米作りは、ヴェルミリア村から瞬く間に王国中に広がり、黄金米と言われるようになった。


「この米って、元はマリン様が開放してくれた食糧庫のものだってな」

「うん。米の生産もマリン様が国王に進言されたからだそうだ」

「そういやヴェルミリア村の話聞いたか」

「ああ。魔獣に襲われた勇者様をマリン様が間一髪で救ったって話しだろ」

「しかもその後マリン様は後サーペントを焼いて酒と共に皆に振る舞われたらしい。騎士団の連中も何人かご馳走になったらしいが、この世のものとは思えないくらいの美味さだったそうだ」

「なんだか聞いてるだけで、よだれが出そうだ。俺も参加したかったよ」


 う~む。

 おおむねその通りなのだが……。

 どうもマリンばかり持ち上げられているような気がして微妙な気分である。


「やっぱり黄金米は勇者様の竈で炊いたのに限りますわ~♪」

「まったくお前って奴は……あ! 俺の分は?」

「勇者様は外ばかり見ておられたので、てっきり食欲がないかと……」

「米の話が聞こえたんだからしょうがないだろうが。それよりひとりで三合も食ってんじゃねえ!」


(あれ?)


 炊飯器を奪い返して俺の分を炊き直そうとしたのだが、なんだか動かない。

 マリンが変なところでも触ったのだろうかと思ってよく見ると、いつの間にか炊飯器が【発酵モード】になっていた。鑑定してみると、穀物を原料とした発酵が可能とのことである。


 と、いうことは、つまり……念願のアレが出来るのでは?!


「勇者様、炊き直されるなら私の分もお願いします」

「それどころじゃないぞ。革命が起きるかも知れない」

「えっ?! ひょっとして戦になるのでしょうか?」

「いや。味噌としょう油だ!」

「『ミソ』も『ショウユ』も、初めて聞く言葉ですが」

「きゅい、きゅい~♪」


 マリンは小首をかしげているが、ハム太には俺の意思が通じたようで、嬉しそうに鼻をひくつかせている。


「まずは味噌だ。今すぐ試すぞ。大豆と小麦それから……塩を準備してくれ!」

「はい! でも……あわわわ! 勇者様、ここではダメですわ~!」


 食堂のテーブルの上に出した炊飯器を隠そうとマリンが手を広げた。


「炊飯器くらい、いつも出しているだろ」

「ご飯を炊くくらいならいいですが、見たことない食べ物を作るのはダメですよ!」



 ……という訳で、俺は人払いを済ませた食堂で味噌づくりを始めることになった。


「よし、始めるぞ!」

「何だかワクワクします~」


 大豆に塩を混ぜて発酵モードをオンにすると、しばらくして完了サインが点滅した。

 やけに早いが、出来たのは何だか水っぽい味噌モドキ。

 その後、分量を変えながら試行錯誤を繰り返してみることにした。



 そして奮闘すること二時間。

 まだ、「まとも」な味噌は出来上がらない。

 ハム太が心配そうに見つめる中、マリンは退屈そうにあくびをかみ殺しながら口を押えている。


「ふぁあ~っ。勇者様。ちょっといいでしょうか」

「何だ?」

「そろそろ夕食を作る時間です。料理人たちも困っているんじゃないでしょうか」

「わかった。あと1回だけ試すから、もう少しだけ待ってくれ」


 俺は、最後に黄金米を少し混ぜて作り直してみることにした。


「勇者様、なんか微妙なニオイがします」

「こ、これは……やったぞ! この匂いが欲しかったんだ!」

「きゅーっ♪」


 炊飯器からほのかに漂う味噌の香り。蓋を開けると今までのようにべたついていない。立派な米味噌が出来上がっていた。


 マリンは顔をしかめているが、ハム太は嬉しそうにしきりに鼻をひくつかせている。


「勇者様、これって……」

「マリン、そんな顔するなよ。これが美味しいんだから。それから外の料理人たちに、俺が新しいスープの作り方教えるから呼んで来てくれないか」

「そんなこと言って本当によろしいのですか」

「大丈夫。炊き立ての白ご飯に一番合うスープを作ってみせるよ」


 ◆


「この見た目、そしてこのニオイは……」

「勇者様、これって本当に食べ物なんですか?」

「ああ、そうだ。味噌は保存も効くし、いろんな料理の味付けにも重宝するぞ」

「私も長らく王宮で料理を作ってきましたが、かようなモノは初めて目にしました」

「これから夕食の仕込みなんだけどな」


 ひそひそと言葉を交わす料理人たち。何だか発芽米をすすめたときの農民たちの反応に似ている。


「では、この味噌を使って味噌汁というスープをつくる。マリン、火をつけてくれ」

「はい。精霊ちゃんお願い」


 水をはった鍋に火をつけ、小魚からとったダシを加えた。さすがに鰹節や昆布は無さそうなので仕方ない。


 そこにありあわせの野菜を入れて煮た後、作りたての味噌をといていく。


「……うん、美味い!」


 一口すすると、濃厚な味噌の中にほのかにダシの香りが広がった。

 懐かしい日本の味だ。


「マリンもどうだ」

「は、はい……。では、いただきます……うっ」


 マリンは目をつぶって、恐る恐るお椀に口を付けたのだが、一口でぱあっと笑顔になった。


「勇者様、美味しいです!」

「だろ! さあ、みんなも味見してくれ!」


 料理人たちは、首をかしげながらもおそるおそる味噌汁のお椀に口を付けた。


「これは……美味い!」

「なんて優しい味わいなんだ」


「味噌はご飯との相性もいいんだ。一緒に食べてくれ」

「確かに。このスープ、本当にご飯に合いますよ!」

「今までの塩スープは何だったんだ……」

「薬味にバジルかパセリ……いやネギを散らすのもいいな」

「このスープなら具材はどんな野菜でもいけそうだ」

「肉や魚を煮込んでも美味いぞ」

「早速、白ご飯と合わせて今日の夕飯に出させていただきますね」


 こうして王宮の調味料に味噌が加わり、味噌汁は瞬く間に王国中に広まっていったのだった。

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― 新着の感想 ―
お、オソマ(違 少なくとも誰かそんなボケをかましてほしかったぜ(ォィ
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