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異世界炊きたてあったかご飯 ~炊飯器ではじめる農業革命~  作者: 七生(なお)。


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第1章 第2話 幼な妻

「ちょっと待て! 炊飯器なんてどう考えてもハズレスキルだろうが!」

「確かに『スイハンキ』などという魔道具は初めて目にしましたが、竈の勇者様の固有スキルだけに、辺り一面を炎で焼き尽くすような強力な武具なのでしょうか?」

「あのなあ……いいか、炊飯器ってのはだな……」


 俺は深いため息をつきながら、マリンに噛んで含めるように説明を始めた。こんなどこにでもありそうな白い箱に、特別な力などあるはずがない。マリンは目を閉じて「うんうん」と真剣に頷いている。どうやら理解してくれた……と信じたい。


「要するに、こんなスキルは何の役にも立たないぞ」

「勇者様のお話、よくわかりました。コホン」


 マリンは軽く咳払いをして、姿勢を正した。


「では今度は、私の話をお聞きくださ――プッ……!」

「て、てめえ! 今笑いやがったな!」

「……失礼いたしました」


 マリンは必死に笑いを堪えながら、改めて口を開いた。


「かつて我がエルドリア王国は、魔王討伐のため、はるか異世界より勇者様をお呼びしました。大規模召喚の甲斐あり無事、魔王を討ち取っていただいた勇者様は……」

「なに遠い目して仕切り直してんだよ! ていうか魔王が倒れたなら、もう勇者の仕事は終わってるだろうが!」

「ところが魔王禍で国土はすっかり荒れ果ててしまいました。何とか復興を果たしたものの、国庫は空っぽ。膨大な借金を背負う羽目になりました。このままでは民は飢え、国は滅びてしまいます。この亡国の危機にある今こそ、我がエルドリア王国には、新たな勇者様のお力が必要なのです!」

「だから何で俺なんだよ! とにかくこっちは忙しいんだ。早く元の世界に戻せ!」

「それは……出来かねます」


 マリンは少しうつむき、小さく首を振った。


「勇者様をお戻しするには、再び国家予算十年分ほどの費用が必要になります。しかも、今の我が国はこの度の召喚ですってんてんですから……」

「すってんてんって……お前ら金に困ってるくせに、なんでまた高い金使って召喚なんかしたんだよ! 何で俺が、実家の米屋じゃなくて、よその国の財政を立て直さなきゃいけないんだ!」


 するとマリンは、にやりと悪戯っぽく笑いながら人差し指を顎に添えた。


「はは~ん。そういうことでしたか。ならば勇者様にとって、この度の召喚は非常に幸運だったと言えますね」

「幸運って、どういうことだ?」

「これでも私は精霊魔法を極めし宮廷魔導士。勇者様が元の世界でお店を開いたらどうなっていたか、占って差し上げましょう」


 マリンはそう言うと、両手を内側に組んで頭の上に掲げ、片目をつぶって指の穴を覗き込んだ。


「おい、何の真似だ」

「しっ、お静かに!」


 そして左手の平を俺に向け、右手の人差し指と中指で左手の甲を押していく。

 やがてしわの数を数え終えると、真顔になって俺に向き直った。


「……分かりました。勇者様のお店は、開店まもなく炎上します。さらに国の農業政策も相まって米価格は高止まり。当然、客足は遠のきますが……しかし!」

「しかし?」

「今回の召喚により、勇者様は運命の伴侶と結ばれると出ております。本当にラッキーでしたね!」

「お前、本気で言ってるのか?」


 俺は怒りで拳を握りしめた。


「あ、あわわ……ち、違うんです! 勇者様の誤解です!」

「何が誤解だ! ふざけやがって!」

「待たれい、勇者殿!」


 怒りで震える俺に、玉座から落ち着いた声が響いた。見上げると、王がなぜか目頭を押さえている。


「この度の召喚が身勝手なものであることは重々承知しておる。勇者殿が我が国の財政を立て直してくれさえすれば、必ず元の世界へお戻ししよう。ただ……返還費用がの……」

「よかったですね、勇者様。しめて一千億ギルちょっとで済みますよ」


 マリンは無邪気な笑顔を浮かべているが、そもそもギルって日本円でいくらなんだ?


「おい、マリン。お金持ってるならちょっと貸してくれ」

「そんな、いきなりカツアゲなんて!」

「アホか。鑑定するだけだ」

「ではお貸ししますが、絶対に返してくださいね」


 マリンは腰元の巾着から銀貨を取り出した。  


 ===========


【1,000ギル銀貨 = 日本円で約1,000円程度】 


 ===========


「おい! 一千億円なんて、どう考えても無理ゲーだろうが!」

「きっと大丈夫ですよ。何しろ勇者様には固有スキルがございますから」

「俺の固有スキルは炊飯器だって言っただろうが!」


 俺は吐き捨てるように言うと、マリンに背を向けた。


「悪いが自力で帰る方法を探すことにする。そっちの方がまだ安いだろうからな」

「それはご無理かと。何しろ異世界に戻るには、やってきたのと同じ魔法陣を通らないといけませんから」

「え? ひょっとして……」


 よく見ると、俺の足元に広がる金色の幾何学模様が淡く光を帯びていた。どうやらこれが俺を召喚した魔法陣らしい。


「つまり……俺は、お前らがいなきゃ帰れないってことか」

「その通りです。この魔法陣は、私が半年かけて完成させた自信作。最初は鼻の長い巨大な動物や、縞々の猛獣が出てきて大変だったものですから」


 マリンは腕を組みながら、うんうんと頷いている。……ひょっとして本当に象や虎を間違えて召喚してたのか?


「仕方ない。納得はしていないが、引き受けることにする。だが、俺の方からも一つ聞かせてくれ」

「何でしょう?」

「王国が困っているなら、なんで元の勇者に頼まないんだ?」

「それが、元勇者様ではいかんともしがたく……。それに勇者様はこの世界に一人しか存在することが出来ません。この度、スイ=イイダ様の召喚により、元勇者様はそのお力を失われたのです」


 玉座の王も「うんうん」と相槌を打っている。この国の連中、他人任せにもほどがあるだろ。


「そもそもどうして自分たちで何とかしようとしないで、最初から勇者に頼ってるんだよ」

「はぁーっ」


 マリンは肩をすぼめ、あきれたように首を振った。


「勇者様は何もわかっておられませんね。ですからこうして自分たちで努力して、勇者様を召喚しているんじゃないですか」


 ……こいつ、本気で自分が努力してると思ってんのか?


「勇者様には特別なお部屋をご用意しました。城の物は好きに使っていただいて構いません。おまけに我が国でのご滞在中は、政務官にして宮廷魔導士であるこのマリン=ディアがつきっきりでサポートいたします」

「最後のだけは断る!!」

「そ、そんな……この、美少女にして有能な私のサポートが要らないなんて」

「え? 美少女? 有能?」

「わかりました。きっとこれは私の聞き間違いに違いありません」

「なんでそうなるんだよ……」


 もはや怒る気力も失せた俺は、メイドに案内されるまま、ふらふらとした足取りで用意された部屋に向かった。そして――


「ふつつか者ですが、末永くお願いします」

「おい―――――!!」


 玄関を開けた瞬間、ベビードール一枚のマリンが三つ指をついて正座していたのだった。

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いらないなら、マリン=ディアさんは俺がもらった(笑)
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