相談
「なんだそりゃ? オマエと月島って、そんなことになってんのか?」
良樹から相談を受けた竜樹は、その内容に驚きを隠せなかった。
話を聞いた限りでは、それはもう学校の部活レベルの話ではない。川島良樹という人間の才能をいかにして最大限に開花させるかという一大プロジェクトだ。
――月島のヤツ、自分のコネを良樹のためにフル活用するつもりかよ。
「兄貴、どうかした? なんか怖い顔してっけど」
「あ? ああ、すまん。なんでもないよ。で、俺に何を聞きたいんだ?」
「なんか話が大きくなってきちゃってさ、正直このまま続けていいのかなって思って」
「なんだ、良樹。ビビってんのか?」
「ビビってるわけじゃ……、いや、そうかもしんねぇ。俺、ビビってるのかも」
「ふうん」
竜樹は思い悩む良樹の顔を静かに見つめた。
弟が「自分はビビってるのかもしれない」と素直に認めるのは、彼にとって驚きだった。
以前なら決して自分の弱みを見せなかっただろう弟が、相談を持ちかけてきたばかりではなく自らの弱みをさらけ出している。
――コイツも成長してるってことか。
「オマエ自身は月島の計画をどう思ってるんだよ。やりたいのか、やりたくないのか、どっちなんだ?」
「どっちって言われたら、もちろんやりたいよ。でもさ……」
「でも、なんだよ」
「ここまで話が大きくなってくるとさ、なんか大人とかもいっぱい絡んでくるだろうし、そうなるとなんか、責任みたいなもんも出てくるじゃん。そんなの俺に背負えるのかなって思って」
「……オマエ、責任とか考えるようになったんだな」
「茶化すなよ。こっちは真面目に話してんのに」
「悪い悪い。茶化したわけじゃねえよ。成長したなって思っただけさ」
その話しぶりから、竜樹はもう良樹の心境を理解していた。
弟はやりたいのだ。だが話の大きさから、おそらく本能的な部分で警戒をしている。月島凛という人物に対して全幅の信頼を置いている、というわけではないからかもしれない。
――なら、背中を押すのが俺の役目か。
「責任なんて、そんな大げさに考える必要ねえんじゃねえか? どのみち上手くいくかどうかなんて誰にもわかんないわけだしさ。オマエの素質を最大限に開花させるだけの努力は、やった方が絶対にいい。月島がコネを使ってそれをやってくれるなら、喜んで話に乗ればいいさ。オマエには、そんだけの才能が有ると俺は思うぜ」
「そ、そうかな」
「とはいえ、いちおう父さんと母さんにも話はしておけよ。大人が絡んでくるとなると、オマエやオレだけの判断でやっていい事とダメな事が出てくるからな」
「ああ、わかってる。父さんたちにはちゃんと話すよ」
「ねえ、お兄ちゃん。ひとつ聞いてもいい?」
それまで黙って話を聞いていた志保が、突然口を開いた。
「ん? なんだ?」
「お兄ちゃんと月島先輩って、どういう仲なの?」
「……なんでそんなこと聞くんだよ」
「だって、入学式の日の時はなんだか仲が悪いのかなって思ったんだけど、でも月島先輩のことを信頼してるようにも見えるし……だから不思議だなって思って」
「別に、特別なにもないぜ? 一年の時に同じクラスだったけど、それくらいだな」
「そのわりには、ずいぶん親しそうな口ぶりじゃなかった?」
「いや、そりゃ志保の気のせいだろ。単なる友達っつーか顔見知りっつーか、その程度だよ」
「ふうーん」
志保は納得していなかった。良樹と同様、兄の竜樹もウソが下手なのだ。目が泳いでいることといい、ソワソワしている態度といい、明らかにおかしい。
――お兄ちゃん、絶対何か私たちに隠してる。
その思いをますます強める志保だった。




