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戸惑い

 凛の語った『川島良樹・唯一無二化スペシャライズ計画』は、そのネーミングセンスはともかくとして、良樹の想像以上に大掛かりな計画だった。

 彼女の計画を要約すると、最適な科学的理論とデータに基づいて、最高の科学技術と施設で、最強のトレーニングメニューを実践して良樹を鍛え上げるというものだ。

 

「でもさ、専門家にまで協力してもらうなんて、そんなことできるの?」


 良樹のもっともな疑問に、凛は涼しい顔で答える。

 

「もちろんよ。私にはツテがあるもの」

「……先輩ってさ、いったい何者なの?」

「ご想像にお任せするわ。とにかく、この計画には専門家・プロフェッショナルの協力が必要不可欠なの。だから、こちらから助力を仰ぐのよ。もっとも良樹くんの話を聞いたら、向こうから協力を申し出てくるでしょうけどね。アナタはそれだけ魅力的な素材だから」


 凛が時折口にする『素材』と言う言葉。それが良樹はあまり好きではない。自分をまるでモノのように見ている気がするからだ。

 しかし、彼女の話した計画に興味を惹かれたのも事実だ。


「どうかしら、良樹くん。私の話を聞いてワクワクしてこない?」


 良樹の心境を読み取っているかのような凛のセリフ。良樹は、確かに自分の気持ちが高ぶっていることを感じていた。

 様々な体力測定で、自分には自分の知らなかった資質が眠っていたとわかった。

 だとしたら、それをどうすればいいのか、それでどこまでいけるのか、純粋に試してみたいという気持ちが湧いているのだ。

 それは、単純に自分がどれほどの者なのか知りたいという欲求に他ならない。

 

「正直言って、興味はある。やってみたいって気持ちはあるよ」

「それはよかったわ。どんなに優れた計画でも、当の本人にやる気がないのでは上手くいくわけないものね」

「ただ、話が大きくなってきたんで……戸惑ってるってのもある」

「もっともな感情ね。だって、これはもう部活レベルの話じゃないもの。いきなりこんな話をされれば、戸惑うのも当然よ。とりあえずすぐに先方と連絡を取るから、都合がつき次第一度会いに行きましょう。そして彼らの話も聞いて、それから結論を出せばいいわ」

「そうだね。そうさせてもらう」

 

 それから二人は、明日以降の練習予定などを話し合った。

 


 

「えっ! 何それ! アンタ、そんなことになってんの?」

 

 帰り道で良樹から凛の計画を聞かされた美咲は、驚きのあまりそう叫んでしまった。

 

(……でも待って。そんな凄い話になったら、コイツ、ホントに志保の手の届かない所に行っちゃうんじゃないの……?)

 

 最悪の予感が頭をよぎったが、美咲はそれを悟られないようにした。

 

「ずいぶん大きな話になってきたんだね。ビックリしちゃった」


 志保の顔にも戸惑いの色がありありと浮かんでいる。

 

「だよなぁ。俺も最初聞いたときは呆気にとられちまったよ」

「……よしくんは、その話を聞いてどう思ってるの?」

「どうって……正直言ってさ、いきなりすぎてピンとこないっつーか、そんなことホントにできんのかなって」

「でも、やりたいんでしょう?」

「なんでそう思うんだよ」

「わかるよ、それぐらい。よしくん、やりたいって顔に書いてあるもん」

「はぁ……オマエはホントに俺のことは、なんでもお見通しなんだな」

「ふふ、まあね」


 ほんの少し自慢げに、志保がそう言う。

 

「あのさ、お二人さん。アタシの前で惚気るの、やめてくんない?」

 

 美咲のツッコミに、思わず良樹と志保に笑みがこぼれた。

 

(ああ、やっぱりこの三人でいると落ち着くな。どんなデカい話を聞いた後でも、こいつらといると、何も変わらない気がする)

 

 良樹は、本気でそう思っていた。


「そうだなぁ……志保が言うようにやりたい気持ちはあるんだけど、なにしろ今さっき聞いたばっかだからさ。今すぐは決めらんないよな」

「お兄ちゃんに相談してみたら?」

「兄貴に? うーん……そうだなぁ。兄貴なら、なんかアドバイスくれるかもな。ところで志保。オマエ、だいぶ『お兄ちゃん』呼びに慣れてきたんじゃないか?」

「だって、毎日何回もワザと呼ばせようとするんだもん。いいかげん慣れるよ」


 志保のその言葉を聞いて、良樹は思わず苦笑いを浮かべた。竜樹がワザと志保にお兄ちゃんと呼ばせようとしている場面を、彼自身何回も目の当たりにしているからだ。

 

 それは、今までに見たこともない兄の行動だった。

 

「口には出さないけど、兄貴のヤツ相当嬉しいんだと思うぜ。俺も瑞樹も、お兄ちゃんなんて呼ばないからさ。もしかしたら、ずっとそう呼んで欲しかったのかもな」

「そうなの? 竜樹さん、可愛いとこあるんだね。意外」


 美咲は心底意外そうだった。

 

「そりゃあな。バスケ部のエースとか言ったって、自分だけ『さん』付けなんてヤダーって拗ねるような男だからな」

「なにそれ、超聞きたいんだけど」

「うーん……。志保、言ってもいいと思うか?」

「私は別にいいけど、お兄ちゃんはどうかなぁ。イヤがるかもしれないよ?」

「だとさ、江藤。悪いけど聞きたきゃ兄貴から直接聞いてくれよ」


 良樹が意地の悪そうな顔で笑う。


「そんなの……いくらアタシでも、聞けるわけないじゃん!」


 そう言ってむくれる美咲を見て、良樹と志保は顔を見合わせて吹き出した。

 

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