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(1)
私が箱から出されたのは、私が十分に死んでからだった。
***
ポク、ポク、ポク、ポク、南無妙法蓮……
私は棺桶の中で、目を閉じ、木魚の朴訥な音と読経を聞いていた。
どうやら私の葬儀が執り行われているらしい。
何がどうしてこうなったのか。木箱に落ちた後の記憶が無いが……
「可哀想に……一人で留守番してる間に、
木箱に落ちて蓋が閉まっちまったんだろ?」
「皆で帰った後、孫が箱の錠を掛けてしまった所為で、
発見が遅れた、なんてねぇ……」
「まさかずっと使ってなかった箱の中だなんて思わないものなぁ。
物置も覗きはしたものの、いないと思ったらしい。
せめてその時、中から声なり、物音でもしてたらなぁ」
……葬儀の始まる前に、そんなヒソヒソ話を聞いたのだったか。
私は孫と共に木箱を開けたつもりだったが……
だがいまさら真相等どうでもいい。あの木箱はいつも入れたものが利口になって出てきたのだ。私が木箱から生きて出られなかったのは、「木箱でも矯正できぬほどの悪い人間だった」という事なのだろう。
それはそうと……
「どうしてお前もここに……?」
私は目を開けると、傍に座る子に聞いた。
子は仰向けで寝る私の傍らで、狭い棺桶の中、首を曲げ、膝を抱える様にして小さく座り、じっと私を見下ろしていた。
その表情は恨めしげにも、どこか物悲しくも見える。
「しかし生きているならばこんな所にいる訳がない。やはりお前は幽霊……あの時、箱の中で……」
やはりあの時私は子を箱に閉じ込め、そのまま子も死んでしまったのだろう。
父に選ばれなかった悲しみを抱いて、成仏できずにずっと箱の中にいたのだ。
そしてその腹いせに、いま、私をあの世へ道連れにしようとしているのだな――
そう悟った私も、悲しみを称えた目で子を見つめ返した。
しばらく見つめ合った後、子が静かに口を開いた。
〈ぱぱがひとりぼっちでかわいそうだから……〉
私はその言葉に目をぱちくりとさせたが、やがてその愛情深さに気付き、涙を流した。
「おお……おお……! 一人棺桶に入る私を、可哀想だと言ってくれるか……!
こんな父をまだ思ってくれるとは……抱きしめさせておくれ、私はなんと酷い父親だったのか……!」
私は子を抱き寄せると、その小さな頭を自分の胸に擦り付け、後悔の念に泣いた。
〈ぱぱ……ぼく、ぱぱに一つ伝えたくて……〉
私の胸の中で、かわいい私の子がぽつり、とつぶやく。
「おおなんだい、なんでも言ってごらん」
私は子を胸に抱きしめたまま言葉を待った。
子は少しだけ身じろぐと、言った。
〈ごめんね……ぼくは現実には存在しないんだ〉




