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【怪談・短編】箱  作者: Dostoicski
<3>
7/10

<4>(1)

(1)


 私が箱から出されたのは、私が十分に死んでからだった。


 ***


 ポク、ポク、ポク、ポク、南無妙法蓮……


 私は棺桶の中で、目を閉じ、木魚の朴訥(ぼくとつ)な音と読経を聞いていた。

 どうやら私の葬儀が執り行われているらしい。

 何がどうしてこうなったのか。木箱に落ちた後の記憶が無いが……



「可哀想に……一人で留守番してる間に、

 木箱に落ちてふたが閉まっちまったんだろ?」


「皆で帰った後、孫が箱の錠を掛けてしまった所為で、

 発見が遅れた、なんてねぇ……」


「まさかずっと使ってなかった箱の中だなんて思わないものなぁ。

 物置も覗きはしたものの、いないと思ったらしい。

 せめてその時、中から声なり、物音でもしてたらなぁ」


 ……葬儀の始まる前に、そんなヒソヒソ話を聞いたのだったか。

 私は孫と共に木箱を開けたつもりだったが……

 だがいまさら真相等どうでもいい。あの木箱はいつも入れたものが利口になって出てきたのだ。私が木箱から生きて出られなかったのは、「木箱でも矯正できぬほどの悪い人間だった」という事なのだろう。



 それはそうと……



「どうしてお前もここに……?」

 私は目を開けると、(そば)に座る子に聞いた。

 子は仰向けで寝る私の(かたわ)らで、狭い棺桶の中、首を曲げ、(ひざ)を抱える様にして小さく座り、じっと私を見下ろしていた。

 その表情は恨めしげにも、どこか物悲しくも見える。


「しかし生きているならばこんな所にいる訳がない。やはりお前は幽霊……あの時、箱の中で……」


 やはりあの時私は子を箱に閉じ込め、そのまま子も死んでしまったのだろう。

 父に選ばれなかった悲しみを抱いて、成仏できずにずっと箱の中にいたのだ。

 そしてその腹いせに、いま、私をあの世へ道連れにしようとしているのだな――


 そう悟った私も、悲しみを称えた目で子を見つめ返した。

 しばらく見つめ合った後、子が静かに口を開いた。



〈ぱぱがひとりぼっちでかわいそうだから……〉



 私はその言葉に目をぱちくりとさせたが、やがてその愛情深さに気付き、涙を流した。


「おお……おお……! 一人棺桶に入る私を、可哀想だと言ってくれるか……!

 こんな父をまだ思ってくれるとは……抱きしめさせておくれ、私はなんと酷い父親だったのか……!」


 私は子を抱き寄せると、その小さな頭を自分の胸に()り付け、後悔の念に泣いた。



〈ぱぱ……ぼく、ぱぱに一つ伝えたくて……〉


 私の胸の中で、かわいい私の子がぽつり、とつぶやく。


「おおなんだい、なんでも言ってごらん」


 私は子を胸に抱きしめたまま言葉を待った。

 子は少しだけ身じろぐと、言った。



〈ごめんね……ぼくは現実には存在しないんだ〉

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