<3>(2)
(2)
「おじいちゃん?」
「……」
なおも不思議そうに私を見上げ続ける孫。
その子を抱き上げてしまおうとした、その時――
「ただいまぁ」
玄関の方から息子夫婦の声が聞こえてきた。
「パパだ!」
「ああっ!」
孫は私の手を振りほどくと、嬉々として物置を飛び出していった。
「な、何故、息子達がこんな時間に……?!」
――〈ぱぱ、何をしようとしたの?〉
「――ハッ!」
不意に背後から呼び掛けられ、私は身を硬直させた。
振り返ると、中にいた男の子が木箱の前に立ち私を睨んでいた。
「おっ、お前……!」
〈今までずっと、ずうっと、ぼくのこと箱の中に仕舞ってたくせに〉
淀んだ空気の溜まる物置に、怨嗟に満ちた幼子の細声が響いた。
気付けば薄暗かった部屋の灯りはほとんど落ち、子の後ろでぱかと口を開ける木箱の周りに、蒼白い靄のようなものが漂っていた。
冷たい汗が脇下を伝い、震える足先をじり、と下げる。
身を翻し出口に駆け込もうとするも、子はふわと身体を浮かべて眼前に回り込み、その小さな手で私の両頬を包んだ。この世の物とは思えぬひんやりとした感触に、背筋が粟立ち凍り付く。
子は震える私の両頬を捕らえたまま、私の一つも逃すまい、とその細い目で私を射る。
〈本当に勝手な人だね……
ぱぱが開けたのは箱じゃなくて『ぱぱ自身』だよ。
本当はわかっているんでしょう?
『箱に入るべきは誰なのか』って――〉
彼はそう責め立てながら、幼子とは思えぬ力で私を背後へと押しやった。
私は抗いながらも、少しずつ、少しずつ、口を開けて待つ木箱の方へと、誘われていく――
ああそうだ。私自身、わかっていたのだ。
木箱に入って矯正されるべきは――私だ。
私は木箱へと落ちた。
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