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【怪談・短編】箱  作者: Dostoicski
<3>
5/10

<3>(1)

(1)


「何が入っているかな?」


 隣でわくわくと待つ孫に語り掛けながら、重い木蓋(きぶた)をギ、と少しばかり持ち上げる。

 中の空気がもわ、と漏れ、湿り気を帯びた(けやき)の匂いが、物置の(ほこり)と混ざって鼻の奥にまとわりついた。


 ――だが、変な臭いはしていない――



 ギ、ギ……



「楽しみだねー」

「ふふ」


 孫に微笑み掛けながらも、(ひたい)に丸い粒が浮かんでいく。

 私は少しずつ持ち上がっていく木蓋の隙間を、恐る恐る覗いた。


 ***


「……」


 木箱の中には、男の子が収まっていた。

 6つほどの幼い男の子が、あの時と変わらぬ姿で、そのおぼつかない小さな手を(ひざ)に乗せる様にしてうずくまって――


 気が付けば、私はポロポロと涙をこぼしていた。

 自分に似た顔をした男の子の、その小さな手の、そのふっくらとした頬の、遠き日に触れた愛おしさが蘇り、胸が締め付けられていた。


「何が入っているの? ねえ、おじいちゃん?」


 もはや孫の声は耳に入らず、私は木箱の前でただただ泣いた。


 ああこの子は、私の子だ!

 何故入れ替えてしまったのか――だがもうどうにもならない。残酷なほどの時が流れてしまったのだ……!


「おじいちゃん……?」



 ――その時。

 木箱の中で、我が子の頭が、カクン、と垂れた。


 ハッとして目を凝らすと、子は(かす)かに胸を収縮させ、すうすうと寝息を立てているではないか……!



「ま、まさか――」



 生きて…………

    いたのか――……



 私は木箱の中の男の子と、横にいる男の子とを、交互に見た。

 私に似て凡庸(ぼんよう)な顔をした、かわいらしい、……

 利発そうで、端正な顔をした、美しい、……


 ……

 ……


 私の顔に黒い影が落ちていく。

 私は木箱の中から我が子を抱き上げると、そっと床に寝かせた。


「? おじいちゃん、何してるの……?」

「……ちょっと……こっちへおいで……」


 不思議そうにこちらを見る孫の手首を掴み、引き寄せる。

 私の背中で、口を大きく開けた木箱が鈍く光っていた。

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