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【怪談・短編】箱  作者: Dostoicski
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(2)


 次の日も、その次の日も。

 妻は息子が入れ替わった事に気付かなかった。


 私は物置の戸にも鍵を取り付け、誰も近付けぬようにした。

 誰も、気付いている様子は無かった。

 何も、問題は無かった――


 ***


 何……故……

 どうして妻は何も言って来ないのだ……!

 いや妻どころか、周りの誰も、息子が入れ替わった事に気付かない等と……!


「ハァーッ、ハァー……ッ!」

 物置の戸の隙間、廊下の蒼白い月明かりを背に、血走る(まなこ)を押し当てる。

 汗がひっきり無しに首を伝い、ぐっしょりと濡れた胸元を何度も寝間着(ねまき)(ぬぐ)った。


 ――どう考えてもおかしい。木箱も、何故未だに異臭もしてこないのか……!

 開けて中を確かめてみるべきか……いや、しかし……!


 幾度となく眠れぬ夜が訪れては、妻と子の眠る寝室を抜け出した。

 間違いなく私の「秘密事」を隠しているはずの木箱は、口を(つぐ)み続けていた。


 そうしてひとしきり(もだ)えた、ある夜。

 私は目を見開いて物置を覗きながら、はたと思い至った。


 い、いや……待て……!

 逆、かもしれない――


 冷静に考えてみれば、皆が息子の変化に気付かず、私だけが気付いている、という状況の方が不自然ではないか。

 であれば、勘違いしているのは、私の方なのではないか……?


 私の脳裏に一筋の光が差した。

 ひょっとして、私の目には別の子に見えているだけで、周りから見た息子は、前の子と全く同じに見えているのではないのだろうか……?


 ああ、ああ、何故いままで気付かなかったのか……!

 そもそも箱の中の子が本当に増える訳が無いのだ。

 だとすれば、私の認識こそが間違っていた事になる……!


 そう、私は『二人のうちから一人だけ』を取り出したつもりでいたが、本当は『箱の中には一人しかいなかった』に違いない。

 私の取り出した子は、きっとその『一人きりの我が子』なのだ……!


「ハァッ、ハァッ……フ、フフフ……!」


 ようやく真実に気付いた私は、ぐっすりと眠れる様になった。


 ***


 それから息子は理想通りに育ってくれた。

 物覚えがよく運動もでき、1年が過ぎ、2年が過ぎ、容姿にもますます磨きが掛かっていった。

 高く通った鼻筋をして、大きな目をした、誰もが(うらや)む自慢の息子だった。

 いくら成長しても私にはちっとも似て来なかったが、私は……満足だった……


 木箱の事は時々外から様子を確認していたが、それも次第にやらなくなった。

 そうして我が家には何の問題も起きず、ただ平穏に、月日は流れた――

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