<5>(2)【最終話】
(2)
ミシリ、ミシリ……
誰だ。助けか。それとも――
私は木箱の中で息を殺し、外の気配にじっと耳をすませた。
「ねぇ、大丈夫かしら……?」
「大丈夫さ……もう10日も経つんだから」
一人は心配そうな妻の声。もう一人は息子の声――
私は緊張を解き、安堵のため息を吐いた。生きているうちに見つけてもらえなかった事は無念だが、ようやくここから出してもらえるのだと。
息子の声の低さにどこか違和感を覚えたが、深く考えられぬほどに力果ててしまった。
私は壁にもたれ掛かり、ガチャガチャと木箱の錠が外されていくのを待ち侘びた。
しかし木蓋が開けられると、見えた外の様子に、私は再び違和感に襲われた。
……木箱の前で、私を冷たく見下ろす息子。
……その後ろで、鼻口をハンカチで抑え、横目で汚いものを見る妻。
……そしてその隣にいる、スーツ姿の、白髪交じりの初老の男……。警察、だろうか……しかし二人と妙に親密そうで、どこか見覚えのある……
男は息子の隣にやってくると、私の亡骸を覗き込んでにやにやと笑った。
「ほらな……ちゃんとくたばってるだろ」
その顔と、先ほど聞いたばかりの低い声に心臓が凍り付いた。
息子の顔へと視線を滑らせて、みるみる血の気が引いていく。
高く筋の通った鼻と、大きな目をしていて端正な、……
まさか……そんな……!
「上手く説明できるかしら……」
「心配ない。小さな子供が悪戯で錠を掛けたのかも……なんて言われたら、不憫がって誰も詮索しないさ。異臭に気付いて通報した、それで十分通る」
不安そうにつぶやく妻の肩を、この男は優しく抱き寄せた。
「しかし憐れな男だな。他人の子供を育てさせられた上に、見殺しにされるなんて
――うっぷ! もういい、とっとと閉めて、警察を呼ぼう」
「ごめんよ父さん……でもあなたもかつて、僕に同じ事をしただろう?」
白髪交じりの男が手を払い、息子だった男が鍵を放り込む。
鍵は私の亡骸の顔を掠め、木箱の内側に当たって落ちた。
……ぞわぞわ、ぷつつ!
全身の体毛がゾワと逆毛立ち、こめかみにぷつぷつと血管が浮かび上がる。
私は再び訪れた闇の中で、錠の掛けられる音を聞いた。
私が息子と思っていたのは、もしかして――!!!!
***
誰もいなくなった物置
薄暗い板張りの
ぽかりと空いた所で
ごくり、と喉の動く音がした
……ふふふ、悪い事をする男は。閉じ込めて、仕舞おうか。
<おしまい>
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