第50話 お客様
「どうもぉ~お久し振りです。いやぁ凄い雪ですね、ここまで来るにもやっとですよ」
珍しく玄関からノックの音が聞えて来て、扉を開けてみれば。
そこには冒険者ギルドの以前会った職員……では無かったな。
“支部長”と“豪鉄”のリーダーが立っていた。
「ほぉ、これはまた。支部長様直々にとなると、厄介事かな?」
「そう言わないで下さいよグラベルさん、こっちも敢えて隠していた訳じゃありませんから。嫌でしょ? 権力者が来たぞ! みたいな雰囲気って」
「まぁ、確かに。“豪鉄”の方も久しぶりだ、元気だったか?」
「久しぶりだな、旦那。早い所家に入れてくれ、縮こまっちまいそうだ」
なんて会話をしながら、二人を家の中へと招いてみれば。
シャームは少々警戒した様子を見せ、リリシアは「またか」と言わんばかりの表情。
そしてスーに至っては。
「ん!」
お迎えした二人に向かって、両手を差し出していた。
どうしたのだろうか? この二人とはそこまで仲良くなる機会もの無かっただろうに。
などと首を傾げみたが。
「おやおや、もしかしてコートを預かってくれるのですか? いやぁ、良く出来たお子さんだ。あ、君も仮とはいえ冒険者登録していましたね。スー・サヒーさん。こんにちは、お邪魔しますね? コートお願いして良いですか?」
支部長様がニコニコした様子でスーへとコートを渡し、豪鉄のリーダーはどうしたものかという顔を浮かべてから、羽織っていた猪の毛皮を脱いで彼女へと渡した。
この雪の中歩いて来たのだ、当然雪塗れだしずぶ濡れ状態ではあるのだが。
「――!」
スーは嫌悪感など見せる事無くそれらを受け取り、一声かけて頭を下げた。
多分「いらっしゃい」とか何とか言っていたのだろう。
ニコッと微笑みを浮かべた後、暖炉の前に椅子を引っ張って来て、二人の上着を乾かし始めているではないか。
「……グラベルさん。どうやったらあの歳で、あんな子に育ちます? うちの子だったら絶対こんなことしてくれないですよ?」
「普通の女の子なら、毛皮なんぞ渡されたら嫌な顔されるんだが……すげぇな」
彼女の行動に驚いた様子を見せる二人は、ポカンとしながらスーの事を眺めていた。
凄い、うちの子。
可愛いだけではなく、お客様対応まで完璧だ。
思わず目頭が熱くなりそうになっていた所で、パタパタと走って行くスー。
男三人で、今度は何だと見守っていれば。
「――、グラベル。しー……ちょー? ごー、う?」
リリシアから受け取ったお盆を机まで運び、お茶の準備をしてから三人分の席を引いてくれたではないか。
ちょっと待って欲しい。
娘が居る家庭とか孫が居る家では、こんな感動が来客の度に味わえるのだろうか?
凄く、何というか凄く今感動した。
「グラベルさん……教育というモノのご教授を頂きたい。どうしたらこんな可愛い子になるんですか? うちの子なんて私が帰って来ただけで顔を顰めるんですよ!?」
「あぁぁ……いいなぁ。俺も本気で結婚考えるかなぁ……」
おかしな事を言い始めた二人は、すぐさまスーの下へ駆けつけバッグから菓子だ何だと取り出し始める。
恐らく手土産に持って来たのであろう菓子の類の梱包をすぐさま開き、スーに差し出してニコニコしている。
豪鉄の方は、干し肉とか差し出しているが。
何だろう、餌付けかな?
「二人共、まずは仕事の話から進めよう。この雪だ、今日中には帰れないだろう? だったら泊まりなんだ、スーの相手をするなら用件を済ませてからにしよう」
思わず一人だけ冷静になってしまい、ため息を溢しながらスーの用意してくれた席に着いてみれば。
「旨い!」
「おぉ? 旨いかぁ? コイツは結構高い干し肉だからなぁ、酒の肴にと思ったが……食え食え、またいっぱい買って来てやるよ」
「そんなぁ!? 女性陣が多いから甘い物をと思ったのに……ほら、スーさん? こっちは珍しい御菓子ですよ? サクサクして、とっても美味しいんですよ? 私にも旨い! って言ってください」
二人して、良く分からない感じなっていた。
コレも愛猫のスキルの影響なのか、それともスーの対人能力の高さなのか。
そこら辺は良く分からないが、どうやら二人にも大層気に入られてしまった様だ。
――――
何か前にも見た事あるような、無い様な。
そんな二人がモリモリ雪の降る中、我が家へやって来た。
大変だっただろう、畑にちょっと足を延ばすだけでも大変なのだ。
ちゃんと整備された道がある訳でもないのに、こんな山道を雪の中お疲れさまでした。
という事で、誠意をはらうべく彼らの上着を預かってみた訳だが。
なんか、妙にご飯をくれる。
「この干し肉うめぇ~」
『結構塩辛いのか?』
「んー、いつものよりマイルドかも? 多分保存食っていうより、酒のツマミじゃないかな? うんまい」
『ちょっとくれ』
「ういよ、こっち来い小動物達」
突然の来客にビビったのか、ウサギやグリフォンは部屋の隅まですっ飛ぶ勢いで撤退してしまった訳だが。
皆呼び寄せた後にいつものおやつと、ビルには俺が貰った干し肉を与えていれば。
「ん? えっと、こっちも食べて良いのかな?」
高そうな服装の人がさっき差し出して来ていた菓子類を、イエス蛮族みたいな恰好の人がニコニコしながら渡して来る。
御菓子を持って来た本人はグラベル達と難しい顔しながら話しているので、俺は蛮族と小動物の相手をしている訳だが。
「ありがとうございます、えっと……どぉる~とぅ……」
『何言ってんだお前』
「だからこっちの言葉難しいの! いつまで経っても慣れねぇの!」
『スー、干し肉もういっこ』
「お前はちょっと遠慮しような!?」
ギャーギャー騒ぎながらも、彼から受け取ったお菓子を眺めてみれば。
あら可愛い。
なんだろう、カップケーキって言えば良いの?
小さい生地の器に入っていて、その上に盛られた色んな甘そうなモノ。
えらく整っているので、俺の記憶にあるカップケーキとは別物に見えてしまうのだが……高そうだ。
『食って良いって言ってんぞ?』
「ほんとに? んじゃ、いただきまーす」
カブッと噛みついてみれば、しっかりとした甘さが口の中に広がって行く。
甘い物は好きだけど、どちらかと言えばお肉が欲しい。
これでも男子なもんで、キリッ!
とかやっていたのだが、なにこれウンマッ!
「うっま! これ超美味しい!」
上に乗ったクリームは非常にまろやかで、口に入れてみれば蕩けるようなマイルドさ。
そんでもって噛みついてみれば、まさにミルフィーユ。
サクサクと嬉しい食感を返して来る上に、カップの様に作られた生地と中のケーキ部分の真ん中にまた違うモノが入っている。
カスタードに近いのかな? うんま。
しかもナッツの類も混ぜ込まれているのか、たまにカリッとした食感と共に味を主張してくる。
うひゃぁ、“向こう側”でもあんまり高い御菓子って食べた事無いけど。
こっちに来てから凄いお菓子ばっかり食べている気がする。
以前ファットマンに奢って貰ったお菓子も、すんごい上に滅茶苦茶美味しかったし。
なんて事を思いながら一人ご満悦していれば、周囲の小動物達が黙っている筈も無く。
「どわぁぁ! やめろお前等! 特に兎! お前は不思議生物じゃないから余計に駄目!」
『ムムは良いのかよ』
「コイツは喋るモモンガだから多分平気」
『まだ言ってんのかソレ』
ビルから呆れた視線を向けられながら、兎とモモンガとグリフォンに襲われた。
前回で分かったけど、グリフォン甘い物好きだもんね。
仕方ないね。
「ビ、ビルゥゥ! 助けてぇ!」
『肉喰い終わったらな』
「お前も貰った干し肉妙に気に入ってるんじゃねぇよ!」
未だもっしゃもっしゃと干し肉を齧っている化け猫に向かって、必死にヘルプコールを叫ぶのであった。
――――
「何か、凄い事になってますけど」
「気にしないでくれ、いつもの事だ」
暖炉の前で豪鉄のリーダーと共に、小動物と戯れているスーを横目に。
此方は此方で仕事の話を進めていた。
何でも今回は調査依頼。
しかも、調べる相手は……。
「敵対している獣人の国を調査して来いとは、また……」
「正確にはトップが獣人であるというだけで、人族も居ますけどね? まぁ、こちらとは真逆な国な訳です」
コレだけなら、お断りして明日この二人に御帰り願うだけだったのだが。
依頼書に書かれている名前が、おかしいのだ。
「アグニ王子は、わざわざギルドを通して俺等に依頼を出すのか?」
「むしろ前回の行動の方が問題ですからね? 御三方は冒険者、本来はこちらを通して貰わないと困ります。例えそれが国王の命令であったとしても、一声かけて頂かないと。相手が相手なので、依頼を受けた後でも構いませんから報告して下さい」
「……以後気を付ける、昔より色々厳しくなったんだな」
そんなことを言いながら、彼は俺達の前に置かれている依頼書を指で叩いた。
「今回はどちらかと言えば、調査依頼を出した冒険者のサポートが主な仕事になります。戦力としては申し分ないのですが、些か調査には向かない面子でして」
「何故そんな者を向かわせたんだ……」
「陛下の御指名があったのと、どうしても“水面下”で敵対している国に入る訳ですから。戦力は高い方が良いでしょう?」
だったら最初から、我々に依頼を出せば良かったのでは?
何てことを思ってため息を溢してみるが。
そこは相手もお見通しだったようで。
「普段ギルドに訪れない方々に指名依頼を出すのは大変な上に、元々のメンバーと合流してから一気に他国へ流すと向こうからも疑われます。だから時期をズラし、少数のパーティとして送り込んだ方が合理的です。まぁ、御三方が頻繁にギルドに足を運んでくれるのならもう少し相談も出来たんですけどね?」
「そこは何というか……申し訳ない」
ギルド支部長の言う通り、現在俺達は身分証の為に冒険者に登録している程度。
なので、相手からすれば権利だけ使って仕事を放棄している様な存在な訳で。
こう強く出られてしまうと、グゥの音も出ないと言うのが本音である。
「まぁ何はともあれ、こちらは国王からの依頼になりますから。受けて頂けますよね? 現地に向かう前に城に寄る様にと書かれていますので、この場で依頼を受ける意思とサインが確認出来れば、直接王宮に向かって頂いて構いませんよ?」
「ついこの間帰って来たばかりなのだが……」
「グラベルさん、また何かやらかしました? 随分と目を付けられていますね? まぁ“神獣狩りの英雄”ともなれば、致し方ないのかもしれませんが」
確かに、彼の推察通り本来なら放っては置かない存在だろう。
しかしながら、今回やらかしたのは俺等ではない。
今暖炉の前で小動物と戯れている少女が、王族に執着される程の成果を残したと言葉にしたら、彼はどんな顔をするのだろうか?
多分、言っても信じないだろうが。
「とにかく、用件は了解した。今夜はココに泊まって、ゆっくりして行ってくれ」
何度目か分からないため息を、思い切り溢してから立ち上がってみれば。
「それで? まだお返事を頂いておりませんが」
これだけの若さで支部長という立場に上り詰めたのは、こう言う所なのだろう。
ソレを納得してしまいそうになる程、鋭く冷たい視線を向けられてしまった。
が、しかし。
「俺達に拒否権は無いさ、受けるよ。立場的にもそうだが……保留にすると向こうから森の中まで押しかけてきそうだ」
「またまた、御冗談を。相手は王族ですよ?」
「だからこそ、こんな雪山にもありとあらゆる手段を使って押しかけて来るのさ」
ハハッと軽い笑みを浮かべながら、人数分のグラスを用意して酒を注いでみれば。
「冗談、ですよね?」
「そう聞える人生を歩む事を勧めるよ。なかなかどうして、面倒だぞ?」
それだけ言って、彼の前に酒の入ったグラスを差し出すのであった。




