第49話 雪だるま対決
今日も雪! としか、最近感想が出てこない。
どうしたものか。
畑はビルが夜の間結界を張ってくれるらしく、野菜達は基本無事。
馬小屋はリリシアがもともと暖房魔法を使ってくれていた様で、三頭とも快適そうに過ごしていた。
よって、建物やら何やらの雪かきはほぼ不要。
やるとすれば生活圏内の歩き回る所だけなのだ。
「雪かきすっかー」
『よくやるわ、このクソ寒いのに』
「だって積もったら歩きにくいんだよ、今の俺ただでさえ背が低いんだから。せめて生活圏内は雪退かしておきたい」
『昔はデカかったみたいな言い方するんじゃねぇよ、今でもちっこい癖に』
昔より縮んでるんですー! とか言ってやりたいが、昔も昔でそこまで背が高い訳では無かった。
という事で、ビルの御言葉には反論せずコートを羽織って準備完了。
『おい、籠手忘れてんぞ』
「やっべ、それ無いとしもやけまっしぐらだ」
という訳で、黒い籠手を装備して本当に準備完了。
小動物達と一緒に階段を駆け下り、朝ご飯を作っているリリシアに声を掛けてからスコップを持って玄関の扉を開いてみれば。
「さっみぃ!」
あったか我が家と外の温度変化で、全身に鳥肌が立った。
思わず身震いしながら、ふぉぉっと変な声を上げていれば。
「スー」
後ろから声を掛けて来たリリシアが、ズボッと頭に何か被せて来た。
はて? 今ではデカい猫耳が生えているので、帽子とかは被り辛いはずだったのだが。
今の所コレと言って圧迫感とかはない。
その後リリシアが持って来てくれた手鏡を覗き込んでみると。
そこには妹と同じ顔が……は、もう良いか。流石に慣れた。
問題はそちらではなく、現在頭に被っているニット帽。
なんだこれ、すげぇ。
「え、こんなの無かった筈だけど……もしかしてリリシア作ってくれたの!? すっげぇ!」
鏡には、俺のデカい猫耳に合わせた形の真っ白いニット帽。
シャームの耳とかを見ると、やっぱり耳のサイズってのも個人差がある様なので、買って来たとは考えにくい。
というか、この雪の中街まで出かけたとは思えないし。
「ありがとリリシア! これあったかい!」
自分の頭をポフポフと叩きながら笑みを浮かべて見せれば、相手からも優しい笑みが返って来た。
ついでに言うと、帽子の中に埋まったムムがちょっと怒った声を上げて這い出して来たが。
「それじゃ行って来ます! 畑までの道作って来るねー!」
ブンブンと手を振ってから、改めて玄関の扉から外へと飛び出した。
うっひゃぁ、やっぱり派手に降ってんねぇ。
未だ降り続く雪にため息を溢してから、担いだスコップで周囲の雪を退かし始めるのであった。
――――
「グラベル、おかえり。戻って来て早々で悪いが、そろそろスーを呼んで来てくれ」
食事の準備が整ったのか、家に帰った瞬間リリシアからそんな事を言われてしまった。
最近の日課というか、役割分担をした結果。
俺が周囲の偵察、とは言っても敵がどうとかではなく罠や獣避けの仕掛けを朝一で確認してくるだけだが。
そしてシャームは本日リリシアが使う食材を食糧庫から回収して来て、その後は馬の世話。
最近は森暮らしにも慣れて来たのか、早起きしても目を擦っている様な事も無い。
最後にスーだが……自主的に雪かきをしてくれている様だ。
畑や馬小屋へ続く道の雪が無くなるのは非常にありがたいが、結構な重労働な気がする。
しかしそこは子供体力なのか、毎朝元気よくスコップを振り回しているのだ。
「分かった、すぐ連れて来るよ。シャームはどうした?」
リビングの中に視線を向けてみても、彼女の姿が見えない。
もしかして朝風呂にでも入っているのかと思い、家の奥へと視線を向けてみたが人の気配がしない。
「帰ってこない所を見るに、きっとスーの所に居るのだろう。若いのを二人連れて来てくれ、元気に遊ぶのは構わないが風邪をひいてしまう」
「了解だ。ハハッ、俺達には真似出来ないな」
そんな事を呟きながら再び玄関の扉を潜れば、やはり冷たい空気が全身を包んでいく。
いやはや、この寒さの中二人は何をやっているのか。
スーの雪かきが終わらずにシャームも手伝っているとしたら、適当な所で止める様に声を掛けなければ。
何てことを思いながら畑へと足を向けた訳だが……そこには。
「――! シャーム――」
「これで全部か? ふむ、これはコレで訓練になりそうだな。面白かったよ、スー」
やけにテンションが高いスーは飛び跳ね、シャームは何故か投げナイフを手にしている。
「二人共、何をしているんだ?」
思わず真っ白いため息を吐きながら笑ってみれば、此方に気付いたスーが駆け寄って来てボスッと俺の腹に衝突してきた。
やはり寒かったのか、ちょっとだけ赤くなってしまった頬を緩ませながら、声を上げて何かを指さしている。
最近リリシアが作っていた帽子をかぶりながら、楽しそうに耳を揺らしていた。
そんな彼女がブンブンと俺の手を振りながら指さす先には。
「雪だるま?」
シャームと二人で作ったのか、随分と大きな雪だるまが畑の隣に滞在している。
更には何やらウロウロしていたシャームも、雪の中からナイフを拾い上げて此方に歩いて来た。
「スーが考え付いた訓練……というか遊びに近いが。小さな雪だるまを作って、より早く攻撃して崩すというモノだ。最初に個数を決めて、互いが隠している間は背を向ける。当然生物ではないから、気配なんか無い。師匠もやってみないか? スーはなかなか隠すのが上手だ」
こちらもこちらで楽しそうな顔を浮かべながら、そんな事を言って来るではないか。
何というか、元気だなぁという感想が浮かんできてしまうが。
「なら、一度だけ。もう朝食の時間だからな、二人共家に戻る準備を始めよう」
そう言って弓を構えてみれば、スーは非常に嬉しそうな様子で小さな雪だるまを作り始める。
やがて準備が整ったのか、後ろを向かされてから小さい足音が遠ざかっていくのが分かった。
「なかなかどうして、面白い遊びを思いつくじゃないか。これなら相手の気配が無いどころか、音も立てない。アレだけ小さい目標だ、しかも周りは雪だらけ。足跡などの観察と、景色の記憶力が求められるな」
「以前出会ったジローの様な実力者と戦うのなら、これくらい難易度の高い訓練の方が丁度良いと思ってしまった。本人は遊び感覚の様だが」
クスクスと笑っているシャームだったが、やがてスーが雪だるまを隠し終わったのか。
「スーの準備が出来た様だ、師匠。移動は自由、隠してある場所は“この場から見える範囲”。つまり森の中へは足を運んでいない。但し両者の“狩り尽くす時間”を競う遊びみたいだから、頑張ってくれ」
それだけ言って、彼女は俺の肩を掴んで正面を向かせた。
視界に有るのは普段と変わりない光景と、楽しそうに遠くで手を振っているスーの姿。
よし、さくっと終わらせて朝食にするか。
なんて、思っていたのだが。
「ちなみに、今の所スーの全勝だ」
「なんだと?」
また何か彼女の新しい才能が発揮されたのかと、思わず目を見開いてしまった訳だが。
「スーの番になれば分かるさ。この勝負は、相手が隠している間は“対戦者”が背を向けるのがルールだからな」
「なんだか良く分からないが……とにかく、行って来る」
「頑張ってくれ、師匠」
その声と共に、俺は身を低くして走り出した。
シャームの話からすると、子供の遊びだと侮らない方が良いのかもしれない。
などと思いながらも、まず目についたのは畑の柵の上に乗っている一体。
ろくに視線も向けずに矢を放ってから走り続けてみれば、馬小屋の脇に隠れているのが一体。
……おかしいな、これくらいならシャームが負ける理由にはならない気がするのだが。
そんな事を思いながら、俺はスーが隠した雪だるまを探し続けたのであった。
――――
「全く……何をやっているんだアイツ等は」
いつまで待っても食卓に現れない三人。
まさか何か問題でもあったのかと心配になり、私も足を運んでみれば。
「スー! だからそれはズル……あぁぁ! ビル! お前っ!? ムムまで! コラそこの兎とグリフォン! 皆揃って的確に潰しに来るんじゃない! お前達絶対隠している所を見ていただろう!」
何やら、あのグラベルがスーとシャームに混じって遊んでいた。
それはもう、童心に帰ってしまったかの様に。
「あぁ、リリシア。すまない、もう食事の時間だったか」
「とっくにいつもの時間は過ぎているぞ。それで、何をやっているんだ?」
クスクスと笑うシャームに問いかけてみれば、今やっている遊びのルールを教えてもらった。
そして今の所、スーの全勝。
その必勝法は、対戦者であるスーだけは相手が隠している時背を向けるが。
他の小動物達がジッと観察しており、勝負が始まった瞬間に一斉攻撃を仕掛けると言うモノだった。
基本的に五体の雪だるまで勝負している為、最後の一体はスーが探しているらしいが。
小動物達も空気を読んでいるのか、一番見つけやすい場所の雪だるまを残して他を殲滅するらしい。
なんともまぁ、凄い遊びだ。
確かにこれは前衛二人が夢中になる、というかムキになってしまうかもしれないな。
という訳で。
「スー、私と勝負しよう。そして、私が勝ったらご飯だ」
そう言って彼女の頭に手を置いてみれば、フンスッと鼻息荒く雪だるまを作っていくスー。
ルールに乗っ取り背を向け、彼女の合図を待っていれば。
「リリシア、準備が整ったみたいだ」
シャームから声を掛けられ、振り返ってみれば。
自信満々の様子で手を振って、微笑みを溢しているスーが。
では、始めようか。
「要は雪だるまを全て退治すれば良いのだろう?」
それだけ言って、杖を上空に構えると。
「おいリリシア……それはちょっと大人げないというか。スーが泣くぞ」
グラベルからは止められてしまったが、生憎と術式は完成。
では、一斉に排除しようか。
「さぁスー! 私の記録を越えて見せろ!」
杖の先からは結構な温度の熱波が広がり、周囲の雪を跡形なく溶かして行く。
こんな事をしたら、雪かきも明日から私がやれと言われてしまうかも知れない。
なんて事を考えていたのだが。
「リリシア! ――!」
興奮した様子のスーが、嬉しそうに私に抱き着いて来た。
良かった。
いい加減体が冷え切っているだろうし、食事も冷めてしまうので一気に片付けてしまった訳だが。
スーは不機嫌になるどころか、私の記録を喜んでいる様だ。
「さてスー、ご飯にしよう。美味しい内に食べてくれないと、私も悲しいぞ?」
「旨い!」
「美味しい、だ」
「おーしー」
「よし、行こうか」
という事で家の周囲に残っていた雪をまとめて溶かした私は、スーと手を繋ぎながら家へと向かって行った。
グラベルとシャームからは少々呆れた視線を向けられてしまったが。
致し方あるまい、皆揃って風邪をひくよりかマシだ。
が、しかし。
「流石に雪を全て溶かすのはやり過ぎたか……地面がべちゃべちゃだ、凍ってしまうかもな。スー、明日の雪かきはお休みにしようか」
「んん?」
相も変わらず可愛らしく首を傾げる彼女に視線を向けながら、私達は家に戻るのであった。
皆のブーツもそうだが、小動物達も丸洗いしないとな。
あぁくそ、泥だらけだ。




