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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
3章

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第48話 スローライフも楽じゃない


 酒の入ったグラスを片手に、ふぅ……と息を溢して背もたれに体重を預けてみれば。


 「食べ過ぎたかい? グラベル」


 クスクスと笑うリリシアが、空のグラスを持って隣に腰を下ろした。

 こちらも微笑みを返し、彼女のグラスに酒を注ぎながら。


 「冬の森だというのに、食糧庫の事情を気にせず食べられるとはな。それに、今日の鳥は旨かった」


 「前に城で食べさせてもらった鳥と一緒だからね、それくらい珍しい魔獣だ。本当に良く見つけて来たモノだよ、お疲れ様」


 「いいや、見つけたのはスーだ。そして仕留めたのはシャームだな」


 「おぉっと、これは礼を言う相手を間違えたかな?」


 旨い物を食べた後だからか、どうやら彼女も上機嫌な様子で笑っている。

 二人して笑みを溢してから、グラスを軽くぶつけてから傾けた。

 いつもならゆっくりと酒を楽しむだけだったのだが。

 今日は何と、スーが作ってくれたツマミがあるのだ。


 「前回泊まった宿の影響かな? 最近スーがこう言う料理をよく作るんだ」


 「海老が旨かった所だな。ま、何にせよ料理も上手くなったじゃないか。最近はリリシアと一緒に食事番が板に付いて来たな」


 「おや、料理番とは言ってくれるねぇ?」


 そんな事を言ってから、二人してスーの作ってくれたお浸しを口に運んだ。

 旨い。

 そう静かに心の中で呟きたくなる様な、優しい味わい。

 結構な種類があり、見ただけでも一つ一つ丁寧に処理されている事が分かる。

 本日収穫して来た山菜なども使われている様で、子供が作るにしては少々渋い物まで皿に並んでいた。

 そして以前の仕事が早めに片付いた事により、何とか無事だったウチの畑。

 こちらの収穫物も使われており、ツマミにも食事の箸休めにもなるのが嬉しい所だ。


 「はぁぁ……こういうのをじっくりと味わえると、非常に安らぐ。私も歳という事かな」


 「俺だってそうだ。というか、スーやシャームもこういうのが好きだから歳は関係ないんじゃないか?」


 今は一緒に風呂に入っている二人。

 彼女達も、それはもう美味しそうに野菜を食べる。

 ほうれん草や小松菜は特に好きな御様子で、放っておけばツマミの様に食べている程。

 若い子達ならもっと味の濃い物の方が好きそうな気がするのだが、ウチの二人はこういうのも好きだ。

 特にスーは、キノコなんかを見つけた時には非常に嬉しそうにするからな。


 「野菜といえば、何やら畑が面白い事になって来たな」


 ククッと笑って口元を吊り上げたリリシアが、二人分のグラスに酒を注ぎながら棚の上に置いてある箱を指さした。

 そこにあるのは、アグニ王子から貰ったという“世界樹の種”が入った豪華な箱。

 本来はスーが貰って来た物なのだが、自室に置いておくとムムが騒がしくなるらしくリビングに置かれている。


 「流石に本物という事はないだろうが……結局何の種なのか分からなかったのか?」


 「さてね。私の記憶にも存在しなければ、植物に詳しい王女も知らない種だ。そして彼女は芽を出す事が出来なかったと言っていたが、ウチの畑に植えたらもう芽が出ている」


 「本当に王女が植えた種と一緒だったのか? スーが畑に植えたヤツは」


 「間違いないよ、私も見ていたからね。正確に言うなら、植えたのはムムだが。そしてアレを植えてから、ビックリする程畑の野菜が育つ。実は本当に世界樹だったりしてね?」


 「だとしたら俺達は今後金の心配が無くなる代わりに、ここは観光地に早変わりだな」


 「ハッハッハ、騒がしくなってしまっては森に引きこもっている意味が無くなるね」


 本人も実際の所は“本物”だとは思っていないのだろう。

 やけに軽い様子で、酒を片手に箱へと歩み寄り中身を一つ持って帰って来た。

 そしてテーブルの上に置かれたその種は……どう見ても、そう特別な物には見えない。


 「一見そこらの木の実に見えない事も無いけど、確かに珍しい物なのは間違いない。但し、私の記憶には無い代物だから結局正体は分からない。なんだろうね?」


 「しかし高価な物だったら、あんなに大量に箱に入っているのはおかしいんじゃないか? 良く分からない物を畑に植えてしまった、というのも少々怖いが」


 「ま、今の所毒素なんかは確認されていないから。不味そうなら撤去するさ」


 少し酒が回って来たのか、やけに軽い様子のリリシアがテーブルの上の種を指で弾いた。

 器用なもので、吹っ飛んでいきそうな衝撃を受けた種は、その場で留まりながらクルクルと回転している。

 本当に、何なんだろうな? これは。

 なんて事を考えながら、二人して酒を片手に回っている種をぼんやり見つめていると。


 「――! ムム!」


 「ん? おぉっと!?」


 風呂場の方からスーの叫び声が聞えて来たかと思えば、白いモモンガが猛スピードで種を掻っ攫って行った。

 非常に不機嫌な様子の鳴き声を上げながら、種を腕に抱えたままテーブルの端まで移動してしまった。


 「勝手に出して悪かったよ、ムム。でもそんな所に居ると、スーからまた怒られるぞ?」


 未だご立腹なモモンガはこちらを威嚇する様に声を上げているが、その体は随分とずぶ濡れの御様子。

 恐らくスーとシャームに風呂に入れてもらっている間に抜け出して来たのだろう。

 やれやれ、この子はやはりこの種を気に入っているみたいだ。

 なんて、呆れたため息を溢していれば。


 「ムム! ――!」


 今度は頭からタオルを被ったスーが走って来て、モモンガを叱りつけながらグワシッと掴み上げた。

 あぁ、これは……非常に怒っている様だ。

 この子は、例え小動物であろうとテーブルの上に登る事を許さない。

 一番仲が良い様に見えるビルですら、出会った当初テーブルの上から叩き落されたほど。


 「スー、私がムムのお気に入りを弄ってしまった事が原因なんだ。怒らないであげてくれ」


 リリシアが身振り手振りを加えながら事情を説明してみれば。

 スーの方も何とか納得したのか、ムムの持っていた種を回収して箱の中にポイッと戻した。

 途端に大人しくなるびしょ濡れのモモンガと共に、すぐさま風呂場へ戻って行く。


 「ムムには悪い事をしてしまったな」


 「だね。ムムの執着心も凄いが、スーの方も相変わらずだ。あの子の居た国ではテーブルに乗るのは非常に重い罪だという教えでもあったのかな? そこらの貴族だって、ペットを店に連れて来てテーブルに乗せたりするけど」


 「スーが見たらとんでもない事になりそうだな」


 やれやれと二人揃って首を振りながら、もう一度飲み直そうとした所で。


 「いや待て、そもそも素っ裸で飛び出して来た事を最初に注意するべきじゃないか?」


 「……確かに、シャームはいったい何をしていたんだ?」


 とは言ったものの、彼女まで慌てて飛び出して来なくて良かった。

 スーならまだしも、シャームの裸を俺が見てしまうのは些か問題だからな。


 ――――


 「はぁぁ……未だムム野生動物癖が直らない」


 髪の毛を乾かしながら、大きなため息を漏らしてみれば。


 『ま、俺等に取っちゃただの足場にしか見えんのも確かだしな』


 「駄目でーす、テーブルはご飯を食べる所なので綺麗に使いましょー」


 『へーへー』


 風呂上がりのビルとムムが、リリシアによって温風で乾かされていく。

 そんでもって俺はひたすらタオルでゴシゴシ。

 この長い髪にも慣れて来たってもんだ、暖炉の近くとかに居れば割と早く乾くし。

 魔法暖房に魔法床暖房、そして暖炉と来ればポッカポカだ。

 外は物凄く雪が積もっているのに、内部に関してはあったかホーム。

 やっぱり魔法は凄い。

 俺も凄い能力とまでは欲張らないから、ちょっとくらい魔法を使わせてほしい。

 飲み物を瞬間的に冷たくしたり温かくしたりとか、レンチン出来る魔法とか使えないかな。

 そういうのが出来たら、凄く楽になるのに。


 「とは言っても、無いもの強請りなんだよなぁ……」


 『どした、急に』


 ボヤく俺と、温風を浴びせられながら風になびくブサ猫。

 いやぁ、今までのトラブル続きが嘘だったみたいに平和だよなぁ。

 ふへぇっと情けない吐息を溢しながら、乾燥中の猫を眺めていれば。


 「スー、――――」


 何やら優しい微笑みを溢すシャームが、俺の頭をタオルでゴシゴシし始めてしまった。

 ありゃ、乾かしている途中で飽きたとか思われてしまったのだろうか。

 そこまで子供ではないので、ちょっと恥ずかしかったりはするが……これはコレで良いモノだ。

 ケモ耳の生えた格好良い系美女が、緩い笑みを浮かべながらお世話を焼いてくれる。

 あぁ~、異世界ってすげぇ。

 “向こう側”じゃ絶対経験出来ないよこんなの。


 『えらく緩んでる所アレだが、また雪が降って来たぞ』


 「はぁ!? またかよ! 朝からまた雪かきじゃん!」


 『いやぁ、朝まで待って平気かね? 結構強いぞ、畑と馬小屋とか不味いかもな』


 「風 呂 入 っ た ば っ か!」


 これだよ、これなんだよ。

 大雪がマジで洒落にならない。

 異世界田舎暮らしでスローライフ! 的な感じを満喫していれば、山暮らしの怖い所も同時に襲って来る。

 積雪怖い、畑は真っ白になっちゃうし小屋は潰れそうな音を立てる。

 家自体はリリシアの魔法が常時発動しているのか、あんまり積もらないけど。


 「はぁ……仕方ないよね。寝る前に雪下ろしして来るよ」


 『一人で行こうとすんな、雪で埋まるぞ。魔術で片付けてやるから、腕輪貸せ』


 「マジで? やりぃっ! あ、でもせっかく風呂入ったんだから地面には降りるなよ? 抱っこしてってやるから」


 『ういうい、俺も足が冷たくなるの嫌だ』


 「肉球冷たいとくっ付けて来るもんね、ビル」


 なははっと笑いながら、シャームにゴシゴシされつつ窓の外を眺めた。

 うーむ、ビルの言う通り随分と大粒の雪が降っている御様子で。

 馬平気かな、アイツ等寒く無いの?

 雪を見てテンション上がっていたみたいだけど、馬って寒さに強いの?

 後で毛布とか持って行ってやるか。

 寒さに強そうな野兎と、魔獣であるはずのグリフォンは暖炉の前で溶けているくらいなのだ。

 アイツ等も何かしら持って行ってやった方が良いだろう。


 「んじゃ髪の毛乾かしたら、ちょっと様子見に行こう」


 『寝る前でよくねぇか?』


 「馬が寒いかもしれないじゃん」


 『まぁ何でも良いけどよ』


 そんな訳で俺はシャームに、ビルはリリシアに乾かされながら窓の外を眺めるのであった。


 ――――


 「スー、どうしたんだ? 風邪をひくぞ?」


 師匠とリリシアが夫婦揃って風呂に入っている間、何故かスーが外に出ようとしていたので付いて来てみた訳だが。

 寝間着のままだし、腕にはビルを抱えているので何処か遠くへ足を伸ばそうとしている訳では無さそうだ。

 何か気になった事でもあるのだろうか?

 そんな事を思いながら後に続けば。


 「馬小屋……あぁ、なるほど。馬が心配だったのか? スー」


 現在随分と大粒の雪が降っているのだ、普通なら家畜の類を心配するのは当たり前だろう。

 しかしながら、この家にはリリシアが居るのだ。


 「スー、少しだけ馬小屋に手を入れてごらん? そうしたら分かるから」


 そう言ってから、馬達がのんびりしている空間に手を突っ込んでみれば。

 小屋に入れた指先だけが温かい空気に触れた。

 流石はエルフの魔法使い、こういう所も抜かりない。

 目には見えなくとも馬小屋の中は非常に穏やかな温度に保たれ、ウチに居る三頭の馬達も快適そうに過ごしているんだ。

 まぁ、それでも動物の心配をしてしまうのはスーらしいと言えるのかもしれないが。

 なんて思って、微笑みを返してみれば。

 スーが居ない。


 「……スー?」


 先程まで一緒に居て、馬小屋に手を突っ込んでいた気がするのに。

 本当に子供というのは、一瞬目を離した瞬間に姿が消える。

 思わず慌てて周囲を見回してしまったが……良かった、すぐ近くの畑を眺めながら立っていた。


 「スー、頼むから急に居なくならないでくれ」


 溜息を溢しながら彼女の背中に近付いてみれば。


 「シャーム、――」


 「ん? どうした? 畑に何か……」


 彼女の指さす先を見て、思わず言葉が止まった。

 そこには、とても幻想的な光景が広がっていたのだ。


 「流石はエルフ、と言った所だろうか? また新しい結界か、凄いな」


 畑を守る様に張られた結界、しかしながら普通なら円の様な形に防壁を作るのが常。

 だというのに、畑には三角形を組み合わせた様な結界が張られていた。

 防壁の上に溜まった雪は自然と地面に落下し、畑の周りに積もって行く。

 なるほど。こういう形にすれば確かに自然と雪を防げる上に、魔術を解除する時の心配もいらない。


 「考えるモノだな。というか、常時この結界を張っているという時点で恐ろしいが」


 そんな事を呟きながら、可視化出来ない魔術防壁に積もって行く雪を見上げていれば。


 「シャーム、ビル――――、――?」


 「うん? ビルがどうかしたのか?」


 良く分からないが、彼女は身震いしてから私の手を取って家に向かって足を向けた。

 もう心配事は無くなったという事なのだろう。

 であれば、早い所家に戻って温まろうか。

 このままでは風邪をひいてしまう。


 「しっかり温まってから寝るんだよ? スー」


 「……? 旨い?」


 「フフッ、そうだな。何か温かくて美味しい物でも飲んでからベッドに入ろうか」


 現状私と同じ部屋を与えられているスー。

 だからこそ、寒い日は一緒に寝るなんて事もあったりする訳だが。

 どちらかと言えば、私が防寒の為にスーの寝床に入れてもらう事の方が多い。

 子供の体温は高いと言うが、スーはとにかく温かいのだ。

 それに、周りに自然と小動物達も集まって来る。


 「今日も一緒に寝ようか、スー。こう寒くては私が風邪をひいてしまいそうだ」


 なんて事を言いながら、私達は温かい室内へと向かって足を進めるのであった。


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