第47話 冬が来た
「今日も干し肉様です」
『ま、寒いからな』
これと言って不満そうな様子を持ち合わせていないビルに、干し肉を千切って差し出してみれば。
『……普通のよりマシだけど、やっぱ塩辛いな』
小動物達の為に、塩分控えめ干し肉を作ろうとしたのだが……あんまり上手く行かなかった様で。
そもそも塩分控えめだと乾かしている時点で腐っちゃいそうだし、ある程度は致し方ないと思うのだが。
ビルだって渋い顔をするのだ、他の子達には些かキツイ代物だろう。
「お湯でどうにか薄味にするかぁ、ふにゃふにゃになっちゃうけど良い?」
『あんまり旨くねぇんだよなぁ……』
「そうは言っても」
現在、めっちゃ冬。
森の中は雪で真っ白くなってしまい、ろくに獲物が見つからない状態。
てっきり前回のお仕事で、冬の間はお城に留まるのかと思っていたのだが。
案外あっさり帰って来てしまったので、本格的に山の中で冬越えとなってしまった訳だ。
異世界初の冬、しかも森の中。
そんな訳で、かなりの寒さを覚悟していたんだが。
なんと此方のお家、リリシアの魔術付与により暖房&床暖房。
凄い、物凄く過ごしやすい。
更に言えば、彼女の魔力と魔獣から獲った魔石? とやらを使っているらしく、光熱費無料。
凄いぜ魔法使い、一家に一人は絶対必要だね。
などと関係ない事を考えながら干し肉をブサ猫と一緒に齧っていれば。
『なぁスー、狩りにでも行こうぜ』
「はぁ? 狩りに行っても獲物が居ないから、こうして干し肉齧ってんだろ? 備蓄庫の中身も無限じゃないんだぞー? それともビルが全部探してくれるの? だったら良いけど」
『そのまさかだ。スー、ちょっと腕輪寄越せ』
どうやら何か策があるらしく、ウチのブサ猫はニッといやらしく口元を吊り上げた。
ほっほぉ……これはまた、ちょっと面白そうじゃないの。
という訳で。
「グラベルゥゥ! 狩り行こう狩り! ビルが獲物探してくれるって!」
リビングでまったりしていたお爺ちゃんに突撃してから、思いっきり引っ張って装備を指さして見せた。
そりゃもう、玩具屋さんで駄々をこねるちびっ子かってくらいに。
だがしかし、俺の言葉は基本的に相手には伝わらない。
日本語VS異世界言語で戦っているので、勝負が決する事はあり得ないのだが。
しかし最近は皆慣れて来たのか、結構簡単な身振り手振りで伝わるのだ。
「――――、スー」
何やら困った表情を浮かべながらコーヒーを啜るグラベルお爺ちゃんだったが、多分狩りに行っても獲物が見つからないよ? 的な事を言っているんだろう。
こっちもこっちで、結構言ってそうな内容が想像出来る様になって来たぜ。
「へっへっへ……悪いとは思うけど、こうすればグラベルが動くって知ってるもんね」
悪い笑みを浮かべてから、そそくさと革鎧を装備していく。
最後に弓と矢筒を担げば、俺の外出準備は整った。
そんでもって、後ろを振り返ってみれば。
「やっぱグラベル着替えるの早いよねぇ」
『あんまり無理させんなよ? グラベルも一応老体だからな』
ちょっとだけ疲れた様子を見せるグラベルが、いつもの狩りに出かける恰好に変わっていた。
要はあれだ、付いて来てくれないなら一人で出かけちゃうもんね、みたいな。
そういう素振りを見せると、グラベルは即外出準備を済ませて一緒に来てくれる。
申し訳ないとは思いつつ、冬の間あまりにもまったりしているので、身体が鈍っちゃうのが怖いのだ。
俺の体は未だ筋肉って何だという程柔らかいのだが、岩の筋肉を全身に付けたおじいちゃんは別だろう。
春になって頃ひょろひょろになってたら嫌だよ、寿命縮んじゃいそうだよ。
『スー。雪道で気を付ける事、言ってみ』
「いつも以上の足場の確認、防寒は絶対舐めない。獲物を見つけても走らない、周りを確認してから一歩ずつ進む」
『よろしい、んじゃ行くか』
やけに逞しい御猫様と一緒に、革鎧とリリシアがくれたモコモコ装備で玄関へと進んでみれば。
「スー? ――」
丁度良いタイミングで、シャームが帰って来た。
多分畑に行っていただけだろうけど、それでももう一人人員確保。
という訳で、彼女も捕まえる為にガシッと身体にしがみ付き。
「シャーム、一狩りいこうぜ!」
これでメンツは揃ったというモノだ。
室内から、リリシアに呆れた目を向けられてしまったが。
――――
冬の山暮らしは、とにかく地味だ。
今まで貯蓄した食べ物を細々と摘まみながら、春を待つ。
それは子供にとってはやはり苦痛だった様で、本日はスーを連れて森の中を練り歩く事になった。
未だ雪が降っている様な山道なのだ、普段以上に気を張って……というより、スーの安全ばかり注意しながら彼女の後に続いていた俺とシャーム。
多分、変化のない山小屋暮らしに飽きてしまったのだろう。
雪の中をビルと一緒に駆け回り、楽しそうに笑っている。
しばらく遊ばせて、体力が尽きた頃に家に帰れば満足してくれるかな?
なんて、思っていたのだが。
「スー? 何をしているんだ?」
急に雪を掘り出したスーは、大きな猫耳をピクピクと揺らしながら一心不乱に何かを探していた。
アグニ王子から貰った黒い籠手で、ゴッソゴッソと雪を退かしていく。
あれも非常に高価な防具なんだろうが……スーからしたらただの便利道具か。
思わずフフッと笑いを溢しながら様子を見ていれば。
「おや?」
掘り返した先には、食べられる山菜が。
しかも結構な数だ。
「凄いなスー、これは今日の晩飯が期待出来そうだ」
そんな事を呟きながら山菜を回収し、腰袋に放り込んでいる最中。
「スー! 走るな! 危ないぞ!」
シャームの声が聞えて顔を上げてみれば。
雪の上を元気に走って行ったスーが、何かに向かって弓を構えていた。
その先に居たのは、大きな鳥。
魔獣の類だが、危険な相手ではない。
だからこそ慌てる敵ではないのだが……。
「――、フシャー!」
放った矢が届かなかったのが気に入らなかったのか、スーは普通の猫みたい耳を畳みながら威嚇する声を上げている。
しかしながら、彼女の姉代わりがその事態を許すはずもなく。
「フッ! よし、獲ったぞスー。良く見つけたな、アレは擬態するのが上手い魔獣だ。今日のご飯は豪華になるぞ? 血抜きしてくるから、ちょっとココで待っていてくれ」
続けざまにナイフを投げたシャームが、撃ち落とした鳥の元へと向かって行った。
驚いたな、一番寒さがキツいという時期に普段通り獲物を見つけてしまった。
スーが小動物に好かれる事は知っていたが、まさか索敵まで優れているのか?
色々と疑問は浮かんで来るが、ゆっくりと考えている時間は無さそうで。
「スー!? 今度はどうした!?」
また別の何かを見つけたらしいスーが、雪の中をビルと一緒に走って行くではないか。
「なっ!? すまない師匠! そっちは頼めるか!?」
「分かってる! シャームはそっちの鳥を頼む!」
冬の食料確保は非常に大変だ。
だからこそ、仕留めた獣は大事に食べるのが自然への礼儀というもの。
なのだが……。
「嘘だろ?」
そこには、鹿の群れが居た。
確かに種類によっては冬眠しない動物も居る。
しかし、まさかこれだけ多くの獲物が近くを動き回っていたとは。
探せば多少は居る、居ても雪の中では仕留めづらい。
それが冬の狩り、だったというのに。
「――――!」
弓を構えながら突っ込んで行ったスーは、明後日の方向へ矢を飛ばした後、鹿に囲まれていた。
グリグリと頭を擦りつけるかの様子で、何匹もの鹿に好かれているではないか。
これもスキル“愛猫”の効果か……とか何とかため息を溢していれば。
「おぉ……これはまた」
処理が終わったのか、それとも血抜きの為にとりあえず吊るして来たのか。
追いついたシャームも驚いた眼差しをスーへと向けていた。
「スーにはあまり見せたくはない、彼女を回収してくれるか? その間に二~三匹頂こう」
「了解だ、師匠。しかし……スーも食べる為の狩りをしている様に見える。あまり過保護過ぎるのも、どうかと思うぞ?」
「まぁ、そうなんだがな……どうしても、スーの特徴を考えると」
「分からなくはない、でもいつかは現実と直面する事になる。それからスーは、そこまで弱い子ではない気がする」
「分かっているさ。でも、何となく嫌なんだ。偽善者と罵ってくれて良い」
「言っただろ師匠、気持ちは分かると。だとすれば、私もまた偽善者だ。とにかくスーを回収してくる」
それだけ言って、シャームは雪の中を走り始めた。
獣の様に低い姿勢、むしろ四足で走っているのではないのかという程。
そんな状態の彼女が鹿の群れの中央に居るスーを掻っ攫えば。
「すまんな、もらうぞ」
彼女達が離脱した後に群れに飛びこみ、肉付きが良さそうな数匹の首を刎ねた。
これで、しばらくは肉に困らない筈だ。
驚いた様子で散り散りになって行く野生動物達。
これでは、俺達が予想した元々スーを“飼っていた”奴等と変わらない気がして……あまり良い気持ちにならないが。
「グラベル! ――、――! 旨い!」
シャームに抱えられながら、瞼を抑えられているスーが必死に叫んで来る。
間違いなく、彼女はこの鹿達を食べ物として見ている。
だとすれば、スーを喜ばせる為にもこういう狩りの仕方でも良いのかと思ってしまうが……やはり、心の何処かで引っかかる。
とはいえ、今だけは。
「大丈夫だ、スー。ちゃんと食べる分は確保したよ、お手柄だな」
それだけ呟いて、俺は長剣を鞘に戻した。
――――
うわはははっ! 大量だぜ!
そう言ってしまえるくらいの、お肉。
何かでっかい鳥と、鹿。
ビルに言われるがまま突き進めば、冬の森でも普通に遭遇出来た。
しかも連れていたのは凄腕狩人の二人である。
であればどうするか。
喰うでしょ、肉。
一応俺も山菜各種は見つけたので、そっちを調理している間。
隣ではリリシアが本日の獲物である鳥を豪快に調理していた。
アレだ、クリスマスに出て来そうな丸焼き。
野菜とか色々ぶっこんでオーブンでじっくり焼く的な。
クリスマスじゃん、もうこんなのサンタさんも勘違いして煙突から不法侵入してきちゃうって。
とかなんとか思いながら彼女の料理をジッと眺めていれば。
『スー、何か香ばしいぞ』
「どわっ! やべっ、焼き過ぎた!」
待てなくなってしまった小動物の為にオヤツを作っていたのだが、少々こんがりしてしまった。
とはいえ俺が扱っているのは山菜、しかも雪の中から奇跡的に見つけたタケノコ。
色々と下処理はあったが、ほぼリリシアがやってくれた為俺はただ焼くだけ。
大部分は本日の夕飯のオカズになるとして、小っちゃい切れ端みたいなのを現在炭火焼き中。
「ごめん、ちょっと焦げちゃった。他で焼き直す?」
『くれ、とりあえず何か食いたい』
だいぶ雑食なブサ猫さんは、俺がフーフーしたタケノコ焼きに齧りつくと。
『悪くねぇな、食感が良い』
とりあえずご満足頂けた様で。
もっしゃもっしゃと食べている中、周りの小動物も集まって来る。
頭の上からはモモンガのムムに、我が家では一番ペットっぽい兎。
そして兎にくっ付き続ける、ちょっとデカくなり始めたグリフォンが一匹。
わかったわかったと呆れたため息を溢してから、一匹ずつタケノコを与えてみれば。
どいつもこいつもコリコリと良い音を立てながら競う様に口に運ぶではないか。
「旨そうだな、お前等」
『お前も食えよ、旨いぞ』
「うい、もう一本タケノコ串焼くわ」
そんな会話をしつつ、次なる串焼きを焼き始める。
ていうかさ、コイツ等。
本当に調理された物ばっかり食ってるよね。
兎とグリフォンに関しては、マジで野生に帰れなくなってる気がする。
ムムだって最近手を加えたものばかり欲しがるのだ。
贅沢ペット達め……と渋い顔をしてしまいそうになるが。
「あ、そういえばムムが植えたピスタチオ。芽が出て来たね、来年にはピスタチオ食べ放題になるかな?」
『……あぁ~ありゃもう少し掛かるんじゃねぇか? 色々と、“まだ”足りねぇみたいだからな』
「えぇ、そうなの? ピスタチオ結構好きなんだけど……親父のおつまみ勝手に食って怒られたっけなぁ」
『木の実程度で怒られるのかよ』
「たっけぇのよ、おつまみは。でも旨い」
『実が生った後は、期待しておくわ』
「ういうい、期待しておけよ」
なんて会話をしながら、俺は再びタケノコを焼き始めた。
う~む、凄いな異世界タケノコ。
とにかく香りが良い。
コレでタケノコご飯とか作ったら超幸せになりそう。
今は小動物にあげるから塩分超控えめで焼いているが、ちょっとしょっぱいくらいに塩胡椒振って食べてみたい。
絶対美味しいってコレ、ペット達もコリコリ良い音立ててたし……。
『お前が獲った収穫物なんだ、好きにすりゃ良いだろ。俺等だけじゃなくて、周りの奴等にも食わせてやったらどうだ?』
「ビル……お前、ほんと格好良いな」
『グラベルも酒を片手にこっち見てるからな、独り占めするほど器は小さくねぇよ。まだあるんだろ? 少ねぇなら、後は飯まで我慢しろって散らすぜ?』
もはやペットのリーダーと化しているビルが、フンスッと胸を張って見せれば。
周りの小動物達も大人しく床に座って待っているではないか。
ビル凄い、出来る猫。
という事で。
「ちゃんとお前等の分も焼くよ。でも俺らの分も焼くから、食べられる量は少なくなるかも」
『言っただろ、気にすんな。お前等も食え、そもそもお前が採って来た獲物だろうが』
コイツ、絶対人型だったらモテる奴だ!
やけにイケメン台詞を吐くブサ猫を視界に納めながら、タケノコ焼きを量産。
ペット用は気を使うが、俺等用は特に関係なし。
容赦なく塩胡椒をぶっ掛け、良い焼き色になるくらいにジワジワ焼いていく。
絶対旨いヤツだコレ! なんて事をやっていれば。
「ムムこら! 腕を伝ってつまみ食いに行かないの! お前も焼かれるぞ!」
『そいつだけは、相変わらず言う事を聞かねぇなぁ』
我儘モモンガだけは、我が道を突き進んでいる御様子だ。




