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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
2章

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第45話 夢々の詩


 「スー! どうした!?」


 急に叫び声を上げたシャームに驚きそちらに視線を向ければ、今度はスーが倒れていた。

 待て、待ってくれ。

 まさかスーまで毒を盛られたのか?

 それともあの煙幕に毒を仕込ませてあり、吸い込んだだけでこうなるとか?

 色々と思考が飛び交うが、思わず彼女の元に駆け寄ってしまった。


 「グラベル! 何があった!?」


 未だ解毒を試みているリリシアは、王女から眼を離す訳にはいかなかったのか。

 此方の状況を確認出来ない様子だ。

 だが……俺は、この状況を何と彼女に伝えれば良い?


 「スー、頼む、スー! 目を開けてくれ!」


 冷え切ってしまったかのように、冷たい小さな身体。

 ぐったりと力無く垂れ下がる腕は、廊下で倒れている王女を彷彿とさせる。

 待て、待ってくれ。

 今ジローが解毒薬を取りに行っているから。

 そうすれば皆助かる、誰一人欠くことなくこの場を乗り切れる筈なんだ。

 自分に言い聞かせながら、強く彼女の事を抱きしめていれば。


 「――、――――」


 「え?」


 ふと、聞きなれない言葉が聞えた。

 間違いなくスーの声。

 でもなぜだろうか?

 普段よりずっと大人っぽく聞こえた上に、今まで彼女が喋っていた言語とも違う様に聞えた。

 思わず腕に抱いた少女に視線を向けてみれば、そこには。


 「スー……なのか?」


 雪の様に真っ白い髪の毛の、赤い瞳の少女が此方を見ていた。

 姿形は間違いなくスーなのだ。

 でも、色と雰囲気がまるで違う。

 そんな彼女は俺を押しのけ立ち上がると、周囲に視線を向けてから掌を合わせた。

 指を絡める様にして、まるで何かに祈りを捧げる様な仕草を取って瞳を閉じる。

 そして。


 「これは……詩?」


 何を言っているのかは分からない。

 分からないが、スーの口から静かな歌声が響き始める。

 その“声”は全てを優しく包み込み、紡ぐ音色は荒ぶっていた気持ちを落ち着かせていく。

 これだけなら、まだ混乱だけで済んだのだ。

 だというのに、事態の変化はそれだけでは収まらなかった。


 「し、師匠……スーの後ろに……」


 シャームが驚愕の声を上げながら、“ソレ”を見上げていた。


 「グラベル、私は今……夢を見ているのだろうか?」


 さっきまで目を離す事をしなかったリリシアでさえ、スーの方を見つめポカンと口を開いていた。

 それも無理はない。

 何たって彼女の背後には、半透明の女性が現れているのだから。

 ゴーストの類だったら、すぐに処理が必要な事態だろうが……多分、これは違う。

 とんでもない力を感じる上、神秘的と言って差し支えない雰囲気を周囲に振り撒いていた。

 言うなれば、何かの神様か精霊。

 本来肉眼で見る事は叶わないとされるソレが、目の前に降臨しているとしか思えない光景だった。

 しかもまるで、スーの事を守っているかの様に。


 「女神……なのか?」


 アグニ王子もポカンと口を開けながら、そんな事を呟いた瞬間。

 白いスーは祈りを解き、掌をアクレシア王女へと向ける。

 それに合わせて、薄っすらと白く輝き始める王女。


 「ま、待て! 我々もちょっと光り始めたぞ!」


 リリシアの慌てた声が響き、自らの腕に視線を下ろしてみれば。

 確かに光を纏っている、まるで何かの加護を受けたかのように。


 「これは、いったい……」


 混乱している内に事が終わったのか。

 やがて光は消えていき、スーの後ろに現れた“何か”が微笑みを溢した。


 「――、――――。スー」


 確かに最後、スーの名を呼んだ白い女性は霧のように消えて行った。

 彼女が消え去れば、再び地面に倒れ伏したスーの髪色が徐々に元の黒に戻って行く。

 俺たちは一体、今何を見たんだ?

 ひたすらに混乱する中、誰も動けずに唖然としていれば。


 「スーちゃん、やっぱり貴女は天の使いに近い存在だったのね」


 いつの間にか意識を取り戻したらしいアクレシア王女が、ゆっくりと彼女の事を抱き起こした。


 「姉さん、まだ無理はしない方が……」


 「貴方にも分かってるでしょ? アグニ。もう平気よ、全部良くなった。今なら確信を持って言えるわ。だって、この子が治してくれたんだもの」


 王女がそう言い放てば、王子はゴクリと唾を飲み込んでからゆっくりと力を入れ始めた。

 何をしているのかと全員が視線を向ける中、彼は。


 「ぐっ! あ、あぁ……まさか、そんな。嘘だろ?」


 彼は車椅子の肘置きに手を突きながらも、ゆっくりと立ち上がろうとしているでは無いか。

 しかし、ずっと車椅子生活だったのだ。

 当然筋力が足りる筈も無く、すぐに崩れ落ちてしまいそうになるが。


 「大丈夫か? 王子」


 「あぁ、あぁ。大丈夫だとも、それどころか……動く、脚が動く!」


 倒れそうになった王子を支えてみれば、彼は興奮した様に自らの脚に触れていた。

 まさか、さっきのスーから現れた何かが全てを“治した”という事なのだろうか?

 医者も回復術師も匙を投げた彼の脚を、あの一瞬で。

 そして以前王女の体を治したのも、完治の時期が重なったなどの偶然では無く彼女が?

 だとすると、スーは一体……。


 「本当に天使の様な子だ。いくら感謝しても足りない……ありがとう、グラベル。この子と……スーと引き合わせてくれて」


 「い、いや。俺は何も……」


 もはや涙を流しながら喜ぶ王子を他所目に、俺たちは混乱する事しか出来なかった。

 ギルドの鑑定でも“愛猫”としか書かれなかったスーに、これ程の能力が?

 かなりの上位スキルであるからこそ、普通の鑑定では判別できなかったとか、その類なんだろうか?

 色々と思う所はあるし、分からない所だらけではあるが。


 「とにかく……一件落着という事で、良いのだろうか?」


 もはや、本当に理解が追い付かなくなってしまったのであった。


 ――――


 その後、結局スーの事は分からず仕舞いではあったが。

 王子から高位の鑑定士を呼んでもらい、スーを再鑑定した結果。


 「そんな馬鹿な……」


 「この鑑定結果は間違っています! だって私達は確かに視ましたもの!」


 王族二人から苦情の嵐が巻き起こったが、スーの鑑定結果は以前同様。

 相変らず空欄ばかりの物となり、何事も無く終わった。

 今となって思い出してみれば、あの場でリリシアの次に冷静な行動を取っていただろうジローは、全てが終わった後に解毒薬を大量に胸に抱えて戻って来た。

 しかしながら全員がピンピンしている訳の分からない状況。

 本人も大層驚いていたが、言葉が伝わらないので状況説明が出来るはずも無く。

 とにかく“一応”という事で、彼が差し出して来た解毒薬を皆が服用した訳だが。


 「こうなってしまうと、スーの“アレ”で治ったのか、ジローが持って来てくれた解毒薬で完治したのか分からないな」


 「まぁ、全員無事なんだ。何でも良いさ」


 ボヤいてみれば、リリシアからは疲れたような返答を頂いてしまった。

 まぁ、確かにその通りなのだが。

 スーが良く分からないモノを従え……もしくは逆かも知れないが。

 それでもスーはスーであり、次に目覚めた時はいつも通りに戻っていた。

 だからこそ、今更彼女の保護者という立場を放り出したりするつもりは無いが。


 「本当に、アレは何だったんだろうな?」


 「分からない。ただ感覚だけの、根拠のない言葉を並べるのであれば……神、もしくはそれに近い精霊的何か、としか」


 「この世界は、まだまだ“未知”に溢れているという事か」


 「当然だ。エルフの寿命全てを使っても、世界の神秘は解き明かせていないのだからな」


 もはや気が遠くなりそうな彼女の話を聞きながら、俺たちはボケッとしたまま背もたれに体重を預けていた。

 今回の事件の首謀者は三人。

 俺たちが捕えた男と、他二名。

 それを聞いた時には、残り二人を見つけなければと気を引き締めた訳だが。

 なんでも残る二人は翌朝ボロボロの状態で、キッチンの上に魔法で拘束されていたらしい。

 とんでもない物を見たらしく、泣き喚きながら全てを自白した様だが……一体何に襲われたのか。

 こう言っては都合よく考えすぎなのかもしれないが、今回も“魔法”なのだ。

 前回のグリフォンの巣でも、魔術師と思われる何かの手助けを受けたスー。

 そして今回もまた、彼女に害をなす存在を魔法で撃退している。

 まさか俺たちが気づいていないだけで、近くに彼女を守る術師が潜伏しているのか?

 何てことも思ったりもするが、やはりそれらしい気配は無し。

 本当に分からない事だらけだ……。

 思わずため息を溢しながら、窓の外へと視線を向けてみれば。


 「お、丁度冒険者諸君が帰って行くところか」


 「彼女達もまた、面倒事に絡まれた被害者だ。今度会った時は優しくしてやろう」


 リリシアは俺の声に答えつつも、疲れた眼差しで四人を見送った。

 俺たちが撃退してしまったうら若き冒険者四人。

 彼女達もまた、被害者でありスーの治療? の恩恵を受けた四人でもある。

 勿論ジローによる投薬も行われたが、翌日にはピンピンした様子だったのだ。

 特にスーに似たあの少女。

 彼女には結構強めの一発を叩き込んでしまったので心配していたのだが。

 とにかく、無事でよかった。

 今では城を去る後姿を見せ、スーから貰ったのであろうグリフォンの子供を腕に抱きつつゆっくりと帰って行く。

 本当に、何事も無くて良かった。


 「しかし、一番大きな問題がまだ残っているな。どうする? グラベル」


 溜息を溢しながら、リリシアが此方に訪ねて来る訳だが。

 俺も俺でため息を溢す他なかった。


 「あれだけの力を発揮したスーを、王族が欲しがらない訳が無い……」


 「あぁ、色々とうやむやになってしまったが。それでも彼女に何かしらの神秘的な存在が宿っている事が判明し、事実王女どころか王子の脚まで治してしまった。であれば、近くに置こうとするのは明白だ」


 「そう、だな……」


 今の所は何も言って来ないが、それでも間違いなくそう言う話にはなるのだろう。

 あれだけの回復術を使ったのだ。

 国として欲しがらない方がおかしい。

 しかも二人は彼女の事を神の使いだとか、天使の類だと信じている節もある。

 だとすれば余計に、事態は厄介だろう。

 だが。


 「ここに残って、何不自由無い暮らしをするのと……俺達と一緒に森に帰るの。どちらがスーにとって幸せなんだろうな?」


 「それは当然私達と一緒に居た方が幸せだ……と言えれば良かったんだけどね、私にもわからないよ。彼女には謎が多い、更に今回の一件で確実に内部の脅威は減った。もっと言うなら、ココには言葉も通じる相手が居るからね」


 そう言って彼女は、寂しそうに瞳を閉じる。

 こればかりは、大人が無理矢理決める事では無い気がする。

 彼女が望むなら何だって用意するつもりで居るし、スーが故郷に帰りたいと願えば全力で方法を探そう。

 だがしかし、王族のお膝元に居た方がより多くの情報が入って来るのは確か。

 そして普段から野生動物や魔獣に怯えなくて済む、もっと言うならここに居た方がより良い食べ物が毎日の様に食べられるだろう。

 何て事を考えれば、俺たちの我儘で森に連れ帰ってしまうのは“違う”様に感じられるのだ。


 「後は、スーの希望次第……かな」


 「本人に選択を押し付けてしまう事しか出来ていない駄目な大人が、ここに二人居る訳だ。彼女はまだ、子供だと言うのに」


 「言うな、リリシア。そんな事、俺たちが一番良く分かってるだろう」


 「あぁ、そうだね。でも私は……出来れば、叶うのなら。私達との生活を選んで欲しいと、望んでしまっている。本当に駄目な保護者だ」


 そう言って彼女は俯き、俺の肩に額を押し付けて来た。


 「ここに居た方が有意義だという事は分かっている、理解している。でも、私は……スーと離れたくない」


 「あぁ、俺も同じ気持ちだ」


 彼女の声に答えながら、ゆっくりと抱きしめた。

 あとは本人と、王族の判断に委ねるしかない。

 それは分かっていても……俺達は、歯痒い思いで窓の外を見つめる他なかった。

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