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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
2章

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第29話 妹は主人公、俺はヒモ


 「は? え? 妹がいるんだけど」


 『あれ、お前の妹なのか?』


 なんか良く分からないが、妹が冒険者風の恰好をしながらビリビリと周りを威嚇している。

 元から気性の荒い奴だったが、まさか見ない間にこれ程まで危険人物に成長しているとは思っていなかった。

 というか待て、何でお前まで“こっち側”に居る。

 俺がこっちに送られたのは天罰か何かじゃなかったの?

 だとしたら何、鳥居をくぐった瞬間に妹からドロップキックでも貰って一緒に死んだとか?

 ……コイツならあり得ない話じゃない気がして来て、我ながらびっくり。

 しかし問題が一つ。

 明らかに妹が“こっち側”の言葉を喋っているのだ。

 お陰で俺は相手が何を言っているのか分からない上、こっちの言葉も通じていない御様子。

 アレですかね、出力する言語をマルっと変えられちゃったんですかねアイツは。

 何がどうなってんの? 今も怒鳴り散らしながら、リリシアと睨み合っているし。

 そんでもって兄貴であるはずの俺は、シャームに守られる様にして後ろへ後ろへ下げられてしまっている訳だが。


 「雅ー! 止めろー! お前全力で黒歴史拵えてんぞー!」


 必死で叫ぶが相手には届かないのかやはり通じていないのか、ビリビリと肌で感じる程の敵意が飛び交っている。

 グリフォンの時に感じた様な、相手を食ってやるぜって雰囲気のあの空気。

 うはぁぁ……超こえぇ。

 ていうか待って、妹それくらい強いって事?

 何それズルい、コレでマジのそっくりさんだったら申し訳ないが。

 こっちは新しい耳が生えただけで、言葉も分らず生活にさえ悪戦苦闘していると言うのに。

 あっちは言葉も理解している上に、なんか強そうな能力とか貰っちゃっているって事か?

 おかしいな、腹立ってきたぞ?

 そんな事を思いながらシャームに抑えられていれば。


 「――――」


 来ました、我らがグラベル。

 超良いタイミングで登場した上に、恰好良く妹の手を捻り上げた。

 良いぞグラベル! 格好良いぞ!

 後ソイツ、キレた時は暴れるから気を付けて!

 そんな事を思いながら妹を観察していれば、なんか……おかしい事態になってしまった。

 なんかうっとりとした表情でグラベルを見つめているのだ、妹が。


 「あ、やべぇ」


 『どした』


 妹の性癖を思い出し、思わず口に手を当てて震え始めた。


 「あいつ、イケオジめっちゃ好き」


 『イケオジ……って何だ?』


 「顔が良くて格好良いおじさん、もしくはお爺ちゃん。渋い感じの」


 『あぁ、なるほど。ドンピシャじゃねぇか』


 ビルが言う様に、グラベルは普通に格好良いと思う。

 まさにイケメンの老兵って感じが、男の俺でも憧れそうな勢いだし。

 そんな彼を前に、イケオジ好きな妹が耐えられるかと言えば……否である。

 俺がやっていたソシャゲでイケオジが実装された瞬間、俺を破産させる勢いでガチャを回させた妹だ。

 間違いなく、ドストライクだろう。

 しかしながら、彼には相手が居るのだ。

 リリシアというめっちゃ強い奥さんがいらっしゃるのだ。

 そして意外と子供っぽい一面がある事を本日知れた訳でして。

 そんな彼女が自分の旦那に色目を使われたと分かれば、それはもう。


 「――――、――」


 リリシアが、キレた。

 悪魔の様な笑みを浮かべながら、両手を広げて吹雪を周りに散らしていた。

 不味い不味い不味い。

 コレ建物自体無事じゃ済まないヤツ!


 「ビル! ムム! 動くよ!」


 『おうよ、今度はどうする?』


 「妹は猫も好きだから、愛想よくして!」


 『は?』


 なんだそりゃと言わんばかりの顔のビルを無視して、モモンガをリリシアの顔目掛けて投げつける。

 ビタンッ! と彼女の顔面を覆いつくす勢いで、ムムがリリシアを止めに掛かった。

 いよしっ、後はあの馬鹿妹だけだ。

 そんな訳で、相手に向かってビルを投げつけてみれば。


 『……これで良いか? 満足か?』


 いきなり投げられたと言うのにも関わらず、ビルは大人しく身体を丸めながら妹の腕に収まってくれた。

 流石ビル、間違いなく俺たちの救世主。

 普通の猫なら絶対投げられた瞬間に暴れるだろう。

 しかしながらコイツは大人しいまま投げられ、キャッチされてもスンッといつも通りの表情を浮かべていた。

 やはりビル、いざという時に頼りになる存在だ。

 何てことを思いながら親指を立てていれば。


 「――――、――!」


 妹が、何か言いながらビルに頬ずりし始めた。

 間違いねぇコイツ妹だ、そっくりさんとかじゃねぇ。

 異常なほどの猫好きで、実家に居た猫にも婆ちゃん家に居た猫にもウザがられたくらいだ。

 そしてビルにも非常に顔を顰められている。


 『こういう触り方してくる奴、大っ嫌いなんだが』


 「ビルー、ごめん。耐えてー?」


 ものすっごい顔を顰めている、今まで見た事無いくらいに。

 頬ずりされる度に、チッと舌打ちを溢しそうな勢いで。

 きっと今まで見て来た猫達も、言葉が通じればこんな状態だったのだろう。

 だって妹が猫に好かれた事って一回も無いし。

 そして何故か俺に猫が寄って来る事に対しても、妹は不機嫌になっていたくらいだし。


 「た、多分グラベル辺りが上手い事場を流してくれると思うから……出来ればそのまま」


 『さっきの海老、どうにかして土産に交渉してくれ』


 「ん、頑張るわ」


 物凄く嫌そうな顔をしたビルの要望を聞きながら、どうにか頑張ってもらう為にエールを送る。

 リリシアの方は落ち着いたらしく、今ではムムを引っぺがして頭の上に乗せているが。

 ん? まてムム。

 お前俺以外の頭の上でも平気で乗るじゃねぇか、だったらいつものは何なんだ。

 皆の所にもいけよ、俺の頭の上ばっかり乗るなよ。

 もうなんか思考があっちに行ったりこっちに行ったりしているが、重要な事はただ一つだろう。

 妹まで異世界転生して来た! しかも何か強そう!

 この一点に尽きると思う。

 いや、この場合に二点になるのか。

 何でお前昔のままの姿で強そうなの? なにそれズルいんだけど。

 思わず不満を漏らしてしまう程には、妹は何かチートキャラっぽい雰囲気を放っているのであった。


 ――――


 「すまないが、もう一度だけ名前を聞いて良いか?」


 「はい、何度でも。須賀、雅と申します」


 今ではウチのビルを胸に抱いた少女が、ウットリとした顔でそう言い放った。

 俺だって男な上、年齢を重ねているのだ。

 雰囲気からして、此方が彼女の好みに合っていたという事くらいは理解出来る。

 ちょっと年齢が違い過ぎて、俺の感覚では同意は出来ないが。

 だがしかし、そこでは無いのだ。


 「すまない、もう一度ゆっくり、名前を聞かせてもらって良いだろうか? 少々発音が独特で、年寄りだからかもしれないが聞き取りづらくてね。大変申し訳ない」


 そう言って耳を近づけてみれば、彼女はニコニコと機嫌良さそうな顔を寄せて、耳元で囁くのであった。


 「いいですよ? 何度でも自己紹介します。私の名前は、スーガ・ミーヤービ、です」


 この発音に、やはり聞き覚えがあった。

 雰囲気は違うが、スーが俺に名乗った時もこんな感じだった気がする。

 スー、サヒー。

 恐らくこちらが聞き逃したのであろう、どうやら彼女はスーガ・何々と呟いていた様だ。

 今でこそスーと身分証にも刻み込んでしまったが、間違いなく彼女はスーの関係者の様だ。


 「すまないお嬢さん、時間ばかり取らせてしまって。ちなみにスー・サヒーと聞いて何か思い浮かぶかい? あぁいや、スーガ・サヒーかな?」


 「今は貴方と一緒の時間を大事にしたいので、全く問題ありません。それから、その様な名前の人はしりませんね」


 夜会などであれば、それはもう魅力的な御言葉であっただろう。

 しかしながら俺の興味をそそられる情報を持っていないと断言した上に、リリシアの冷たい眼差しに晒されている状況なのを、この子は分かっているのだろうか?

 ……多分、分かっていないのだろうな。

 もはやリリシアには視線も向けていない上に、俺の質問にも大して考えず返答した可能性すらある。

 貴族同士の夜会などであれば、この手の女性とも何度も会話してきたが……正直こういうのが嫌いだから俺は立場を捨てたのだ。


 「そうか、であればすまなかったね。騒がせてしまった。今日の食事の代金は此方で持つので、仲間の非礼も多めに見てくれると助かる。皆行くぞ、待たせたな。夜食も買った。ビル、こっちにおいで。帰るぞ」


 それだけ言って彼女を解放し、そのまま背を向けてみれば。


 「私達は隣の部屋ですから、どうぞ気が向いたらいらして下さい」


 まるで娼婦か何かと言いたくなるような台詞だったが、しかしその言葉にゾッとした。

 確かにこの宿では、鍵に部屋番号の札が付いている。

 だが我々の部屋の鍵は、彼女の目の前では晒していないのだ。

 間違いなく、俺の懐にずっとしまってあった筈。

 だと言うのに、彼女は“隣の部屋”だと言い放った。

 世迷言の類なら問題なかったのだが、彼女の仲間が持っていた札をチラリと確認した際、本当に隣の部屋だと確認して思わず舌打ちを溢しそうになったくらいだ。

 つまり彼女はスキルか何かで、“千里眼”に近いモノを持っている。

 その眼で見なくとも、全てが見通せるという千里眼。

 伝説級の代物ではあるが、まさかそれに近い物を間近でお目に掛かる事になるとは。

 思わず関心と共に背筋を冷やしながら、ペコッと一礼をしておいた。


 「何か用事があれば、お伺いさせて頂きます。では我々はこれにて」


 そう言ってシャームとスーの手を引き、リリシアには視線で「帰るぞ」と伝える。

 しかしながら。


 『でもコイツ!』


 『いいから帰るぞ』


 未だにリリシアは彼女の事が気に入らないらしく、視線と動作で訴えかけていた。

 そんな彼女に対して顎をクイクイと向け、『か え る ぞ』と指示を出してみれば。


 「小娘、次は容赦せんぞ」


 ぐぬぬっとばかりに唇を噛みしめるリリシアが喧嘩を売ってしまった。

 これは、非常に良くない。

 思わずため息を溢しながら彼女達の動向を見守っていれば。


 「容赦しない? え? 今日は見逃してくれてありがとうございました、じゃなくて? オバサン」


 相手も相手で、中々良い性格をしているらしい。

 それとも現状に鬱憤でも溜まっているのか、売り言葉に買い言葉で返されてしまった。

 すると。


 「グラベル、すまない。コイツとは相容れない様だ」


 再び風を巻き起こすリリシアに。


 「へぇ、やるんだ? いいよ、相手になってあげる」


 余裕の笑みを見せる相手の少女。

 これは非常に不味い、宿に迷惑を掛ける様な事態になればまた負債が……なんて思っていた頃。


 『調子に乗るなクソガキ共が、いい加減にしろ』


 ゾクッと、これまで以上に背筋が冷えた。

 これはまるで以前“神獣”に挑んだ時の様な恐怖。

 懐かしい恐怖を覚えながら、振り返ったその先には。


 「ねー……る? うまい、おわーり」


 “ギフト”を首輪の様に装着したビルを抱いたスーが立っていた。

 しかしコレと言って特別な事をした雰囲気はない。

 更に言うなら、俺が渡した“ギフト”。

 スーは飼っているペット達に、遊び半分でスポスポ嵌める癖がある。

 だがまさかビルがあんな気配を放つわけがない。

 そうなると、今の気配は彼女が?

 だとしたら、俺たちにも知らない何かがスーに隠されているのかもしれない。


 「スー、今何かやったか?」


 問いかけてみれば、彼女は不思議そうに首を傾げるのであった。

 そして、此方が対面しているスーと同じ顔の少女に睨みを効かせる。


 「――――、――」


 「あぁくそ! 翻訳機能のせいなの!? 日本語っぽく聞こえるのに意味が理解出来ない! 不具合ありすぎでしょ! ちょっとアンタ、本当に何なのよ!?」


 まだ色々と叫んでいるが、流石に見かねたのか彼女の仲間達が少女の事を抑え込んでいる。

 宿の人間からも迷惑そうな視線が向けられているので、俺たちはそそくさと食堂を後にするのであった。

 色々と気になる点はあるし、もう少し調べるべき箇所はあるが……それでも。


 「スー、お疲れ様。色々聞きたいが……無理だろうね。背中を揉んでくれるかい? 今日は流石に疲れた」


 「ん!」


 背中をトントンと叩きながら声を上げてみれば、此方の言いたい事は伝わったらしく。

 元気よく返事をしたスーがワシャワシャと手を動かしている。

 同じ顔をしているのに、こんなにも雰囲気が違う二人。

 恐らく何かしらの関係があるのだろうが……今の所全く繋がりは分からない。

 しかしながら、どうしたって言いたくなる事が一つだけあった。


 「此方に来たのがスーで良かった……」


 「本当にな、あんな小娘が森に転がっていても助ける気になどならないが」


 未だカリカリしたリリシアが俺の言葉に同意し、疲れた顔のシャームは大きなため息を溢している。


 「私だけ全く歯が立たない感じだった……」


 落ち込んでいるのはソコだったのか。

 これはもう少し戦闘訓練に力を入れた方が良いだろうか?

 しかしそもそも俺と彼女では戦い方が違うので、あまり口を出す事はしたくないんだが……。


 「シャーム」


 彼女の元気無さそうな様子が気になったのか、気遣った様子のスーがワシャワシャと手を動かしながらペシペシと彼女の背中を叩いている。


 「ん? あぁ、師匠の方が終わったら私ももう一度お願いしようかな。変に体に力が入ってしまった。良いか? スー」


 「ん!」


 姉を気遣う妹と、妹の優しさに頬を緩める姉の様な光景。

 何とも微笑ましいじゃないか。


 「私が言える台詞ではないが、女の子とはこうでないとな」


 「本当に言えたセリフじゃないぞリリシア、もう少しあぁいった行動は控えろ」


 「……はい」


 怒られるのが苦手な彼女だが、今日は少しだけお説教をしておいた方が良いかもしれない。


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