第27話 でかい魚とでかい海老
御馳走様でした。
思わずそう呟きたくなってしまう程、素晴らしいお風呂だった。
ちょっと子供っぽくなったリリシアはやけにくっ付いて来てくれるし、シャームがお湯に浮かび始めた時なんて凄かった。
お湯から二つの大陸が姿を現したのだ。
大変眼福でございました。
などと考えながら部屋に戻り、風呂上がりの二人に手を合わせて拝んでいれば。
『何やってんだお前』
足もとに集まって来た小動物に、物凄く怪訝な顔を向けられてしまった。
「なんでもなーい。ところでビル、今日はお風呂入んないの? てっきりグラベルと一緒に入るのかと思ってたけど」
話している内に膝の上にジャンプしてきたビルを撫でながら、クンクンと鼻を近づけてみた訳だが。
前回ほど獣臭くはないかな?
家でもたまにお風呂に入れる様になったし、その影響かも知れないが。
『入るにしても、他の奴らも集まる風呂なんだろ? 俺が行っても良いのか?』
「あ、確かに。駄目かも」
前は部屋にお風呂が付いていたが、今回は大浴場だ。
そこにペットを連れ込むのは、流石に怒られるかもしれない。
さっきみたいに他のお客さんが誰も居なければサクッと洗えるかもしれないが、洗っている途中で人が来ないとも限らないし。
『それに、な。グラベルがあの調子だし』
そう言って視線を向ける先には、珍しくお爺ちゃんが昼間からソファーで眠っている光景が。
確かに昼寝とか習慣にしそうな年齢ではあるのだろうが、グラベルの場合そんな光景は見た事がない。
多分“向こう側”に居た時の俺より規則正しく生活する上、毎日働いている姿ばかり見て来たのでちょっと新鮮。
「見事に潰れてるねぇ、水いっぱい飲んでた?」
『おう、寝落ちしそうになる度に起こして飲ませた』
「偉い、流石ビル」
ワシャワシャとブサ猫を撫でまわしていると、暇になったのかムムも俺の体の上を走り回る。
構え、と言わんばかりにチョロチョロしたあと、ビルの上に乗っかってジッとこちらを見つめて来た。
「おーよしよし、可愛い奴らめ」
二匹を撫でまわしながらニヤニヤしていると、風呂あがり美人の二人がベッドの上に寝転がった。
こっちもこっちで朝から色々あったのだ、流石に疲れたのだろう。
そして言葉が分からないにしても、どう考えても俺が原因で二人に迷惑をかけてしまったのは目に見えている。
反省するのは勿論だが、何か行動で示せれば良いのだが……。
何て事を考えてから、すぐさま思い付いた。
「よし、マッサージをしよう。前回も大層気に入ってくれたみたいだし」
と言う訳で二匹を退かし、寝っ転がっている二人に近付いてみれば。
「スー、――」
リリシアは何やら察してくれたらしく、大人しくうつ伏せに寝転がってくれた。
シャームは何だか警戒した様子で、困った顔を浮かべているが。
まぁ良い、やるか。
ワシャワシャと手を動かしながらリリシアの背中に跨り、ピトッと背中に手を当ててみれば。
「んっ……」
リリシアさん、前も思ったけどその声ちょっとアレです。
色々な意味で悶々としながら、彼女の背中を揉みほぐしていく。
やがて慣れて来たのか、大人しく揉まれている彼女もクテッと脱力し始めた。
「凝ってますねぇお客さん、この辺りも良く揉んでおきますわ」
『この時だけは気持ち悪いな、お前』
「うっせぇビル」
そんな訳でひたすらリリシアの体を揉みほぐし。
シャームは当然として、起きたらグラベルにもやってやろう。
あの岩筋肉を普段から身に付けていれば、さぞ凝り固まっている事だろう。
なんて事を思いながら、ゴリゴリと音がする程リリシアの体を揉んでいくのであった。
――――
結局リリシアとシャームを揉みほぐした後、ご飯の時間となった。
グラベルも揉むか? と、手をワキワキしてみた訳だが。
何やら喋った後、食べるジェスチャーをしてくるグラベル。
食べた後にやってくれという事なのだろうか?
別に良いけど、食べた後背中に乗られるのってキツくない?
いや、今の俺の体なら大した重量ではないか。
一人納得しながら、みんなして食堂へと向かえば。
そこにはパラダイスが広がっていた。
「おぉぉぉ!? 和食!? なんか和食に近い! ちょっと違うのも混じってるけど!」
『どした』
ビルにだけには疲れた瞳を向けられてしまうが、それでもコレでテンションが上がらない訳が無い。
「俺の故郷の料理に近いっていうか、そんな感じ!」
『あぁ、なるほど。そりゃよかったな、旨いのか?』
「旨いよ! それにいつもの料理に比べたら油も塩を控えめだと思う」
『喰いたい』
「食え食え! ホラ膝の上に来い! ムムも来い! 一緒に食おうぜ!」
目の前に並んだ料理の数々を見て思わずテンションが上がり、すぐさま席に着いた。
まさに旅館とかで出て来る和食料理って感じだ。
小さいお皿に色々と盛られていて、更にはご飯まである。
頂きますと手を合わせてから箸を掴んでみれば、周りの皆からは物凄く優しい瞳で見られてしまったが。
食い意地張ったちびっ子に見られてしまっただろうか?
ちょっとだけ恥ずかしい。
とはいえいつもの事な上に、こんなの我慢できるはずもなく。
「まずはメインから!」
何の魚だろう? 良く分からないが、デッカイ魚の焼き料理が鎮座していたので箸をブッ刺した。
箸で切り分けてみれば、ホロホロと崩れるかのように簡単に取れる身と良い音を立てる皮。
見た目はタイに近い、頭はちょっと奴らより狂暴そうだけど。
顔だけみると皮とか固いんじゃない? とか思ってしまう見た目だが、表面までしっかり焦げ目をつけてある所を見ると、きっと皮ごとバクッと食べられるのだろう。
一口大に切り分け、そのままパクリと口に運んでみれば。
「うんっまぁぁ……皮もパリパリしてる。すっげぇこれ、プリプリしてるのにジュワァッて旨味が押し寄せて来る」
『スー、スー。俺等にも。塩辛かったりしないか?』
「ぜんっぜん平気。多分コレ煮込み料理だわ、表面は後から焼いたんだと思う、珍しい食感。食べる?」
『喰う!』
普通のペットならこう言う所でも気を遣うのだろうが、コイツはデッカイ化け猫なのだ。
もはや普通に猫と同様に気にする方が間違っているのだろう。
そんな訳で魚を小さく切り分けて、ビルに与えてみれば。
『こりゃ良いな、うんめぇ』
どうやらお気に召したらしく、ホクホク顔で魚をもっしゃもっしゃと食べているビル。
ムムはお口サイズ的に小さいからね、とりあえず魚の皮を与えてみるとサクサクサクッ! と凄い音を立てながら膝の上で齧っておられる。
二匹も気に入った様で何よりだ。
という事で、次はお米。
“向こう側”よりちょっと茶色っぽい?
と言うか筋っぽい何かが残っている辺り、麦飯みたいな感じなんだろうか?
健康食として、と言うよりかは白米まで追い付いていない感じ。
でも気にしない。
もう一度魚を口に含んでから、思い切りご飯を口に放り込んでみれば。
「あぁぁ……米だぁ。ちょっと白米より噛み応えが良いけど、これはコレで旨い。ちゃんと食べてるって感じがする」
『そっちもちょっとくれ』
「結構モチモチするよ? 平気?」
『小さめで、良く噛む』
「ういういさー」
ビルに小っちゃいご飯の塊を差し出してみれば、パクッと食いついてもっちゃもっちゃと噛みしめている不思議な光景が広がった。
ビルよ、お前本当に雑食だな。
『ほーん……悪くねぇかもな、でも魚の方が好きだ。後は何があるんだ?』
「後は結構野菜中心かな? 食べる?」
『んー……食感の良さそうなのなら、食う』
「そんじゃレンコンとか食ってみるか」
なんて会話をしながら、小動物達と一緒にモリモリと食事を減らしていった。
メインが魚の煮込み料理、小鉢に野菜各種。
そしてご飯と味噌汁モドキ。
出来ればもう少し出汁が効いているともっと好みだったが、この辺りは違う世界に来ているのだ、仕方あるまい。
などと偉そうな感想を残していれば。
「――――、――」
宿の従業員が、何やらデカイ皿を俺達の前に置いたではないか。
え? まだあるの? なんて思った俺の思考は、ソイツを見た瞬間に吹っ飛んだ。
『また何か新しいのが来たのか?』
テーブルの上に顔を出して覗き込むビル。
魚の皮とその他各種をカリカリしていたムムまで覗き込んでくる。
そして、俺達の目の前に鎮座したのは。
「デッカイ海老が来た!? なにこれ!」
そこにはロブスターとも伊勢海老とも言えないような、変な形をした海老が人数分横たわっていた。
形としては伊勢海老にでっかい蟹の爪が生えたような見た目。
まさかザリガニ……な訳無いか。
だってちょびっと角が生えているのだ。
何だコイツは、見た目が少々特殊だがとても美味しそう。
だがどうやって食えば良い? 俺はロブスターも伊勢海老も食べた事がない。
巨大海老を前にワタワタと慌てていた俺に対し、グラベルが優しい笑みを浮かべながらベキッ! と凄い音を立てて巨大海老の甲殻を叩き割った。
あらあら、随分豪快な食べ方ですこと。
とか何とか、唖然として彼の行動を見守っていれば。
「スー、――――?」
『殻取っちまって良いかってよ。俺らの分も!』
猫通訳が発揮されたので、思い切りブンブンと頭を上下に振ってみれば。
グラベルは今しがた叩き割った甲殻の中から、ズルリと真っ白い海老の身を引きずり出した。
なんだアレは、何だアレは!?
今までに見た事も無い程肉厚で、プリップリの海老が輝いておられる。
あんなのにガブッってするのは、ある意味ロマンと言えるだろう。
しかしながら、今の俺は女。
姿勢正しく、小さなお口を開けて食べるのが正解……んな訳あるか! 俺は欲望に従う!
「グラベル! グラベル! そのまま頂戴! ガブッってしたい!」
必死で彼の名を叫び、両手を伸ばしてみた結果。
彼は少しだけ困った顔を浮かべながら、デカいままの剥いた海老を差し出して来た。
受け取ってみれば、結構重い。
肉厚、重厚、見るからに旨味ぎっしり。
思わず口元を緩めながら、一緒に用意されたソースにちょんちょんしてから被り付いた。
その結果。
「うんまぁぁい!」
コレが海老? マジで?
プリプリとした食感と、確かに噛みしめているという柔らかいお肉の様な噛みごたえ。
凄い、凄いぞコレは。
回転寿司にあった海老を十倍くらい、旨味と食感を足した様な食い応えと言えば良いのか。
俺、海老超好き。
しかしながら口の大きさと海老の大きさが違い過ぎて、中々大変だが。
だが知らぬ! とばかりにガブガブと巨大海老に噛みついていれば、膝の上が妙に騒がしい。
『スー! 俺にも! 俺にも!』
悲痛な声を上げるビルと共に、ムムでさえプクプクと怒った様な声を上げている。
仕方あるまい、お前等にも旨さの共有をしてやろう。
皿の上でナイフを入れ、二匹に対して海老の身を差し出してみれば。
『噛みごたえが良いな、癖になりそうだ』
ビルはモッモッモッ! と物凄い勢いで食し。
ムムに関しては端から削り取る様に、欠片も残さない勢いで口に運んでいた。
旨い、コイツは旨い。
小動物のおかわりを作りながら、残りを口に運んでニンマリと口元を歪めていれば。
「スー、――」
シャームがやけに優しい顔を浮かべて、こちらに海老をもう一匹差し出して来た。
え、くれるの? マジで?
思わず飛びつきそうになってしまったが、ちょっとだけ冷静になりジッと彼女の顔を見つめてみた。
「?」
シャームは不思議そうに此方を見つめている。
しかしながら、別にコイツが嫌いだからこっちに寄越したという訳では無さそうだ。
で、あるならば。
「そいぃっ!」
先程グラベルがコイツの殻を割ってズルッて出した光景を思い出しながら、思い切り力を入れた訳だが。
おかしい、コイツ全然割れない。
何でだ? グラベルは簡単に身を引きずり出していたのに。
プルプルしながら海老に対して全力攻撃をしていれば、困った顔のグラベルが再び殻を割ってくれた。
そして今一度ズルリと引き出される白く美しい海の幸。
ソレを受け取ってからちょんちょんっとソースを付け、シャームに差し出した。
コイツを食わないなんて、流石に勿体ない。
「シャーム、あーん」
言葉に出してはみたものの、こちら側の言葉は発音からして違う。
だからこそ、相手には訳の分からない言葉を発している様に聞こえただろう。
しかし行動で理解は得られたらしく。
「あー、んっ」
シャームは短い言葉を残しながら、海老に噛みついてくれた。
そして、カッと開かれた瞼。
どうだ旨いだろう?
別に俺が作った訳でもないのに、何処か自慢げな様子で笑ってみた後。
もう一度ソースを付けて彼女の前に差し出してみた。
「スー、――」
「シャーム、あーん」
なんか言っていたが、知らぬ。
美味しいんだから食べなよとばかりに差し出してみれば、彼女は再びカブッと食いつく。
その後の幸せそうな表情を見るに、気に入ったのだろう。
であれば、これは彼女の分の海老だ。
だったら、シャームに食べる権利があるってもんだろう。
『スー、もうちょっと……』
「殻に残ってる奴とかでも良い? あ、爪の中のも食べられるのかな? 蟹みたいに。こっちはシャームの分だから駄目」
『あいあいさー』
と言う訳で小動物には海老の殻を与え、何故かシャームに海老を与えると言う不思議空間が生れてしまった。
でもなんというか、美人が美味しそうにご飯食べるのって良いよね!
良く分からない感想を残しながら、その後もシャームに海老を与え続けるのであった。




