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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
1章

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第16話 微笑みの重さ


 「狩りだぜ!」


 『狩りだと良いなぁ』


 久々の森、そして狩り。

 生きていく為には食べなければいけない、食べる為には殺さなくてはいけない。

 弱肉強食! 戦わなければ生き残れない! 世知辛い世の中だぜ。

 などと考えながらも、口元はニヤニヤしっぱなしだ。

 なんたって今日は、グラベルとリリシアに買ってもらった新装備のお披露目なのだから。


 「どうだビル! それっぽいか!?」


 『あーうん、そうなー』


 やる気のない声を返されてしまったが、しかし気分は最高潮。

 各所に革鎧を装備して、更には俺に合った弓矢まで用意してもらった。

 そして腰には小っちゃいダガー。

 これはもはや狩人と言って差し支えないだろう。

 俺も今日からハンターだぜ、なんてウッキウキで森を突き進んでみれば。


 「ぶへっ!」


 『早い早い、コケるのが早い。足元よく見ろよ馬鹿』


 出っ張った木の根っこに足を引っ掛けて、思い切りコケた。

 すぐさま抱き起してくれるシャームが心配そうな目を向けて来たが、とりあえずニカッと笑っておいた。

 大丈夫だ、この程度何でもないぜ。


 「今日はシャームも居るんだ」


 『そいつも森じゃお前と同じド素人だ、気に掛けてやれよ?』


 「分かった!」


 『返事だけは一人前だな』


 ビルと会話しながらも、ズンズンと森の中を進んでいく。

 今日は狩るぜ、一匹でも多くなぁ……などとニヤニヤしていると、頭の上のムムがキョロキョロし始める。

 お? これは早速獲物の方からやって来たか?

 クックック、俺の新しい装備を試させてもらおうか。

 貴様らを俺の武器の錆にしてやるぜぇ! とか思っていた矢先。


 「へぶっ!?」


 『やっぱりこうなんのか……』


 急に飛び出して来た小動物達に襲われた。

 それはもう、獣臭い津波の様な勢いで。


 「ひぃぃ!」


 『おーい、大丈夫かぁ?』


 再び小動物に纏わりつかれる俺に、救いの手は差し伸べられる事は無かったのであった。


 ――――


 「いけるか?」


 「問題ない」


 静かに答えたシャームが地を這う様に走り出し、相手が気づいた時にはその首にナイフが滑り込んでいた。

 見事なものだ。

 彼女が仕留めたのは、大きな鹿。

 しばらく肉には困らないだろうと思える程の大物。

 いや、人数が多いからすぐに食べきってしまうか?

 スーも良く食べるしな。


 「では、血抜きだ」


 「了解、師匠」


 本当に作業だと言わんばかりの動作で、彼女は仕留めた獲物の脚にロープを巻いて木々に吊るしていく。

 これ、狩りに関しては俺が何か教える必要があるのだろうか?

 そんな風に思ってしまうくらい、シャームの動きは非常に“慣れて”いた。

 きっとこれまでも、似た経験を多く積んで来たのだろう。

 彼女の動きには無駄がない、本当に獣の様だ。

 そして何より迷いがない。

 ナイフなどの小さな武器に関しては、俺よりも凄腕だと言って良いだろう。

 思わずそんな感想を思い浮かべてしまう程には、彼女の動きは美しかった。

 森の中では目立つ紅いコートを翻しながらも、最小限の動きで獲物を仕留める。

 更にはその後の動きにも迷いや戸惑いは見られない。

 随分と頼もしい若手が来てくれたものだ。

 なんて、思っていれば。


 「っ!? スー! びっくりするだろ!? なんだそれは!」


 えらい勢いで飛び退いたかと思えば、森の中から色々な動物にくっ付かれたスーがフラフラと歩いて来た。

 その両脇には兎が掴まれているので、今日の獲物はあの二匹という事なのだろうが。

 如何せん見た目が酷い。

 二匹の兎を抱え、顔面には新たなモモンガ。

 頭や肩にはリスなどの小動物も滞在しているし、足元にはもっと色々な動物がウロウロしている。

 この子の場合、狩りという言葉がとてつもなく遠のいてしまう。

 というかこの子の前で動物の命を奪う事を戸惑ってしまう程に、この子は森に好かれている。


 「シャーム……グラベル……」


 ちょっと情けない声を上げながら、スーはフラフラしながら此方へ近寄って来る。

 そして、両脇に抱える兎を俺に差し出して来る訳だが……どうしたものか。

 これを平然と肉に出来る御仁が居れば、正直見てみたい。


 「えぇと、連れて帰るか?」


 声を掛けてみれば、顔面にモモンガが張り付いた状態でスーは頷いて見せた。

 今度はウサギ小屋でも作るか……なんて事を思いながら彼女の頭を撫でようとしたが。

 現在彼女は満員状態だったらしく、手を伸ばそうにも各所に小動物が張り付いている。

 しかもスーに手を伸ばせば、集まっている小動物が威嚇してくるのだ。

 本当に、どうしたものか。

 ふう、と手を引っ込めてみれば。


 「師匠、気のせいだろうか? 猪も付いて来て居る」


 「はぁ?」


 シャームの言葉に視線を向けてみれば、少し離れた位置にソワソワした様子を見せる大型の猪が数匹。

 そして、スーの足元にはウリ坊も数匹。

 つまり、そういう事なのだろう。


 「スー、周りの動物を野に帰す事は出来るか?」


 問いかけてみれば、彼女は首を傾げて見せたが。

 ビルが何やら鳴き声を上げた所で納得した様子を見せ、ウガァ! と急に暴れはじめた。

 私から離れろと主張している様にも見えるが、小動物達は踏まれない様に動き回るばかりで、一向に彼女から離れない。

 本当に、なんだろうなこの状況は。

 動物に愛されるにしても、これは少々限度を超えていると言うか。

 確かにスーの感情を無視すれば、狩りなど造作も無いと勘違いしてしまいそうだ。

 どうしたものかとため息を溢していた所で。


 「スー、こっちにおいで。取ってあげる」


 シャームが優し気な声を上げ、スーの顔面にへばり付くモモンガを取り去ったかと思えば。


 「ホラお前達! 食べておいで!」


 何やら細かい物を周辺に放り投げ、集まっていた小動物を散らすシャーム。

 彼女が投げた何かにつられる様に、小動物達は一斉に走り出す訳だが。


 「今のは?」


 「街で売られているペットの餌だ。ムムにでもあげようかと買っておいたのだが……まさかこんな事になるとは」


 「スーは動物に好かれるからな」


 「だとしても、これは異常だと思う」


 二人して呆れたため息を溢してしまうが、忘れてはいけない。

 今は鹿の血抜きの最中だという事に。

 そんな訳で、シャームが鹿に手を伸ばしてみれば。


 「シャーム! シャーム!」


 急に大声を上げるスーは、最初責めているのかと思った。

 しかしその後の行動を見ると、どうにも手伝おうとしているようだ。

 あれだけ動物に好かれるのに、食べる為には心を決める。

 果たして、スーが今何を思っているのかは分からないが。

 それでも、その後の行動を見守っていれば。


 「……」


 「えっと、兎を両脇に抱えたままじゃ解体は出来ないぞ?」


 シャームの一言により、抱えた兎を地面に下ろすスー。

 しかしながら、ウサギは逃げない。

 なんだろう、この光景。

 逃げろよ。


 「シャーム!」


 「えぇと、一緒に解体……するか?」


 無手となった彼女は、生き生きとしながら刃物を手に取るのであった。

 コレを見ても分かる、彼女は不安定な存在だったのだろう。

 生き物を殺して食べるのは当然。

 しかしながら、その相手からは好かれてしまう。

 一体どれ程精神的苦悩を経験して来た事だろうか。

 でもそれを表には出さず、“人”の為に役立とうとする。

 きっと彼女の“当たり前”は、非常に歪な形をしているのだろう。

 そんな風に思ってしまう程、スーは躊躇なく仕留めた鹿に対してナイフを突き立てた。

 そして。


 「おえぇぇぇ」


 シャームに手取り足取り教わりながら腹を裂いた瞬間、思い切り吐いた。

 内臓が飛び出して来た事に驚いたのか、腰を抜かす勢いで倒れ込んでから。

 きっと獲物を殺すという認識は当たり前でも、眼の前で解体される光景を見た事が無かったのだろう。

 初めてならば、無理もない。

 そう思いながら、彼女の肩を抱いてみる訳だが。

 おかしいな、先程足元に下ろした兎が普通にこの場に残っている。

 血の匂いでも嗅げば、すぐさま逃げるかと思っていたのに。

 今では彼女を守るかの様子で二匹とも身を寄せ、フルフルと震えながら毛を逆立てている。

 いや、だから逃げろよ。


 「スー、無理はしなくて良い。こっちの鹿は俺達が処理しておくから、お前は――」


 「んーん!」


 良く分からない声を上げながら彼女は再びナイフを握りしめ、涙を溢しながらも鹿肉を裂き始めた。

 慌てて手を添えながら指示を出し始めたシャームに従い、ゆっくりと作業をこなしていくスー。

 途中途中吐いたりもするが、それでも解体作業を止めようとはしない。

 強い子だ、とは思う。

 しかしコレをやらせるのが正解なのか、俺には分からない。

 もしかしたら彼女の心をひたすら傷つけているだけの、卑劣な行為なのかもしれない。

 何たってこの子は、とにかく動物に好かれるのだ。

 だからこそ、止めようかとも思ったのだが。

 しかし彼女は本気だった。

 真剣な表情で、汗水垂らしながら鹿の解体を続けたのだ。

 だったら、口を挟む方が野暮というものだろう。

 やがて、血みどろになりながらも解体が終わった彼女は。


 「グラベル、――」


 微笑みを浮かべながら、食べる仕草を見せるのだ。

 食べる為に、働いた。

 それが、彼女には分かっているのだろう。

 例えその身の特殊な個性により、周囲の動物から愛を受けられる立ち位置にあったとしても。

 彼女は、食べる事を選んだのだ。

 それが他者による影響なのか、それとも本人の希望なのかは分からないが。


 「スー、よくやったな」


 とにかく、彼女の事を抱きしめた。

 きっと辛いだろう、普通の人間より何倍も。

 友達になれたかもしれない相手を、食べる為に刃物を入れたのだ。

 俺達だったら獲物と表する事が出来るが、彼女の場合には違うのだ。

 だからこそ、この子の苦しみを完全に理解する事は出来ない。

 でも、それでも。


 「よくやった。お前は皆の為に、食べるモノを手に入れる仕事をしたんだ。頑張ったな」


 そう言って褒めてみれば、彼女は不思議そうに首を傾げた。

 いつか彼女が俺達の言葉を理解した時。

 この状態を、俺は何と言葉にすれば良いのか。

 彼女の事を好き、集まって来る動物達。

 それを食い物にしている俺達。

 これでは俺達が想像した、彼女を今まで“使っていた奴等”と変わらないではないか?

 そんな風に思ってしまう訳だが、彼女は笑うのだ。

 まるで褒められる事が嬉しいと感じる普通の子供の様に。


 「頑張ったな、スー……俺には、今のお前にそれ以外の言葉を掛けてやることが出来ない」


 子供の実績を褒める、それは当たり前の事だ。

 しかしながら、この場合は……なんと言葉にすれば良い?

 俺達が生きていく為には必要な犠牲と食料確保だったとしても、彼女にとっては慕ってくれる相手を騙して殺して食べる行為。

 これは、間違いなく将来の傷跡になる事だろう。

 せめて言葉が通じれば、そう何度思った事か。

 これは、生きていく為には仕方のない事。

 でもスーにとってはとても辛い事だ、だからもう目を逸らしても良いし、他の生き方を探しても良い。

 そんな風に言ってあげたかった。

 でも、彼女は俺達の狩りに付いて来ようとするのだ。

 リリシアと共に家の事をお願いしたり、畑仕事を任せようかとも思ったのだが。


 「グラベル!」


 嬉しそうに微笑みながら、未だ逃げなかった兎を両脇に抱えて此方に差し出して来るスー。

 獲ったぞ、と言わんばかりに。

 しばらく街に居たからこそ、気が抜けていたのかもしれない。

 スーの異常性。

 コレが普通の子供だったら、狩りが出来たと褒めるべきなのだろう。

 しかし彼女は、違うのだ。

 全てに愛されるかの如く、周りから寄って来るのだ。

 その状態で、相手を“食べるモノ”だと認識する。

 こればかりは、見ていて辛くなる。


 「スー、その兎。育てるかい? まだ子供の様だし」


 彼女は不思議そうに首を傾げた後、腕に抱いた兎に視線を下ろした。

 そして、ニコニコと笑いながら二匹の兎を揺らして見せた。

 正直、どんな決断をしたのか分からない。

 だがスーがこの笑みを浮かべたまま、胸に抱いた二匹の兎にナイフを振り下ろす姿は、正直見たくないと思ってしまったのだ。

 綺麗事だし、俺の勝手な妄想ではあるのだが。

 それでも、だ。


 「スーの事を好いてくれた子達だ。とにかく連れて帰ってみよう、それで良いね?」


 そう言ってみれば彼女は再び首を傾げた後、静かに頷いてくれた。

 例え言葉の意味が分かっていなくても、心は伝わったと信じて。

 俺は、静かに目を閉じて頷き返して見せるのであった。



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