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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
1章

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第15話 緩やかな時間


 「まだ買いたいものがあったんだが……」


 不服そうに頬を膨らますリリシアを横目に、馬を歩かせていれば。


 「あまり多くなっても運べないだろう、欲張り過ぎは良くない」


 そんな事をいうシャームが、反対側で新たな馬に跨りながら呟いた。

 先日、彼女が弟子にしてくれと言い出した後。

 俺達は彼女に条件を出した。

 スーが自主的にシャームを頼る事が三度以上あれば、弟子兼スーの護衛役として認めようと。

 結果、次の日には合格判定が下った訳だが。

 なんたって彼女は、今まで以上に遠慮なくスーの事を妹扱いし始めたのだ。

 何処に行くにも手を繋ぎ、困った事があればシャームにまず頼れる距離を保ち。

 当然と言えるのかもしれないが、スーも彼女に今まで以上に馴染んだ。

 というか、馴染み過ぎた。

 今では彼女の股座で、一緒の馬に跨りながら居眠りをかます程には。

 現状に、リリシアだけは頬を膨らませる事態に陥ったが。


 「まぁいいさ、今後の事はその時に考えよう。リリシア、拗ねるな。シャーム、スーを落すなよ?」


 「了解だ、師匠」


 「師匠、ねぇ……」


 ずっと冒険者として生活して来た俺は、本格的に弟子を取った事など無かった。

 だから何をどう教えれば良いのかなど、これっぽっちも分からないのだが。

 しかも彼女の場合、求めるのは純粋な強さ。

 獣人として迫害された過去がある為、周りを見返せる様に独学で鍛えて来たんだとか。

 冒険者なら誰かに教えを請うというより、自分で試行錯誤する者が多いのだから珍しい事では無い。

 だが、シャームは強くなりたいという気持ちが人一倍強い様に見える。

 そして彼女の前に現れたのが、神獣狩りと呼ばれる冒険者二人……俺達だった訳だ。

 なんともまぁ、タイミングが良いのか悪いのか。

 国の過去を知り、自らの故郷とも言えるあの国を出る覚悟まで固めてしまったのだ。

 とんとん拍子に事が進み、俺達の家に新しい住人が増える事になってしまったが……。


 「どうしたものかな……」


 「まぁ、いいさ。身体能力は高そうだから、スーが外に出た時の護衛にしよう。そして家の中では私がスーの護衛になる」


 「リリシア、それはただただ構い倒したいだけではないのか?」


 「そうとも言う」


 長年二人で森暮らしだったのだ、突如出来た娘の様に可愛がるのも分かる。

 しかし、あまり構い過ぎて煙たがられても知らないぞ?

 なんて呆れた視線を向けていると。


 「二人はどの程度の頻度で街に出かけているんだ? 森の中だけでは色々と足りないものが出て来そうだが」


 シャームが首を傾げながらそんな事を言いだした。

 この中で一番野生児の様な見た目をしているが、よく考えればずっと国で生活してきた彼女。

 貧富の差や立場の違いはあれど、街に居れば基本的に生活する事は出来る。

 仕事があり、金があれば食事が買える。

 夜は宿にでも泊れば外敵を心配することも少なく、何かあれば助けを求められる。

 森ではその全てが無い……今更だが、大丈夫だろうか?


 「本当に何か必要な物があった場合だけ、だな。街を出る前に色々と教えておくべきだったが……本当に大丈夫か?」


 「これでも冒険者だ、野営なら何度も経験している」


 馬鹿にするなとばかりに胸を張って答えるシャームだったが、ハッとリリシアが乾いた笑い声を洩らした。


 「野営と森で暮すのは違う。シャームの最初の仕事は、まず森に慣れる所からになりそうだ。グラベル、色々と教えてやってくれ。お前の弟子なんだろう?」


 「リリシア、お前の弟子でもある筈だが?」


 「私は魔術師だ。近接戦やら狩りやらで教えられる事は少ないさ、魔術を習いたいと言うのなら、話は変わって来るがな」


 早くも仕事を放りだそうとしている師匠が一名。

 困ったものだと首を横に振っていれば、俺達の行動と言動が気に入らなかったのか。

 今度はシャームが噛み付いて来た。


 「さっきから何だ? 何か間違った認識をしているのなら教えて欲しい。あとリリシアは何故そうも煽って来る。最初に会った時、蹴りを入れた事をまだ怒ってるのか? ずっと謝っているじゃないか」


 違う、絶対にそっちじゃない。

 むしろリリシアがシャームに刺々しく接する原因は、今シャームに寄りかかって眠っている。


 「とりあえず、しばらく住んでみれば分かるさ。森で住むという事は、全てを自分達でやらなければいけないという事だ。今までは金を払えば済む筈だったモノ、その全てだ。今は修行のつもりで着いて来ているのかもしれないが、多分私生活の方が大変だぞ? それでも付いて来るか?」


 「当然だ!」


 キッと鋭い瞳を此方に向けて、力強く頷いている訳だが……大丈夫だろうか?

 おそらく、森の生活を全然想像出来ていない。

 俺だって昔は、何も分からぬままリリシアの世話になってばかりだったのだ。

 エルフの彼女は、幸い森暮らしの経験が豊富だった。

 とはいえ故郷が自然の中にあったと言うだけで、少人数での生活はリリシアも慣れていなかったらしく、最初の頃は二人して頭を捻ったものだ。

 今ではもう、随分と懐かしい思い出になっているが。


 「まぁ良いさ。スーにも色々と教えようと思っていたからな、一緒に教えるなら手間が省ける」


 「よろしく頼む!」


 そういって頭を下げる狼娘。

 この子の場合故郷が恋しくなる事は無いかもしれないが、人里が恋しくなることはありそうだ。

 大きな街から田舎に引っ越した者が、いつまで経っても馴染めずに故郷に帰るかの如く。

 まぁその時はその時という事で、俺達は彼女が望む間は色々と教えてやろうでは無いか。

 主に森暮らしを。

 戦闘の方に関しては……まだ考えなくても良いだろう。

 普通に生活を送れる様になるのが先だ。


 「楽しみだ。ずっと森の中なんて、達人の修行みたいだ」


 ワクワクした様子の狼娘は、機嫌良さそうに耳を揺らしているが……本当に大丈夫だろうか?


 ――――


 ものっ凄く今更だが、シャームが仲間になった。

 テッテレー!

 とか喜んでいた訳だが、凄いなお爺ちゃん。

 街に一回行ったら女の子引っ掛けて来ちゃったよ。

 ただのお爺ちゃんでは無いとは思っていたが、まさかナンパテクも一流だったとは。

 などと下らない事を考えながら、久しぶりの我が家……我が家で良いのだろうか?

 まぁいいか、森のお家に到着。

 お世話になった馬を家の裏の馬小屋に戻し、お疲れっ! なんて言いながらベシベシしたら、頭をめっちゃグリグリしてくるんだが。

 なんか動物に好かれてるよね、やっぱ。

 やけにくっ付いて来る馬に、そろそろ髪の毛とか食われるんじゃないかって心配になって来た為一度撤退。

 その姿見たリリシアとグラベルが、微笑ながら野菜の入った籠を渡して来た。

 あ、くれるの? どうも、俺ここの野菜好き。

 という事では無いのは、流石に俺でも分かる。

 ギルドの時の様にポケットに仕舞う事無く、馬に向かって人参を差し出してみれば。


 「ひえぇぇ!」


 『腹減ってたんだろ。逃げるな逃げるな、飯くらいちゃんとくれてやれよ』


 ビルは呑気な声を上げて来るが、こっちとしてはそれどころでは無いのだ。

 人参を掲げた瞬間、馬達が物凄い勢いで齧りついて来た。

 牧場で餌やり体験! みたいなのに参加した事はあったが、ここまでがっついて来る馬は初めて。

 きっと牧場に居た馬達は、オヤツ感覚でもっしゃもっしゃと食っていただけなのだろう。

 今のコイツらは、バリバリムシャムシャ! もっともっと寄越せ! って感じに食らいついて来るのだ。

 流石に怖い。今の俺ちっこいし、馬滅茶苦茶デカく見えるし。

 なんとか我慢しながら、いくつかの野菜を差し出していたが……おや?

 街で購入して来たらしい新しい馬が、すっげぇ遠慮した感じに隅っこの方でジッとこっちを見ている。

 あれか、お前シャイボーイか。

 新しいお家に馴染めない内は、グイグイ来られないタイプか。

 バリバリムシャムシャする二頭には一旦お預けし、俺とシャームを運んでくれた新顔に近づいて野菜を差し出した。


 「ほれほれ、お前も食え。怖くないぞー、向こうの二匹とも仲良くやってくれ~」


 伝わっているのかは知らないが、恐る恐るといった様子の新顔はゆっくりと此方に近づいて来て……パクッと静かに人参に齧りついた。

 あら可愛い。

 さっきの二頭の食べっぷりに比べれば、コイツは牧場育ちの馬みたいに大人しいな。

 あれか、都会から急に森の中に引っ越して来たらまだビビっているのかもしれない。

 確か馬って結構臆病というか、馴染めない環境だと飯食わなくなったりするってテレビで言っていた気がする。


 「平気だぞ~俺でも売られなかったくらいだ。お前は絶対売られないからなぁ~食え食え~最後には馬肉になるかもしれんが」


 『すっげぇ事言いながら飯やるのな、お前』


 ビルからとても呆れた声を掛けられてしまったが、俺にとっても馬にとっても重要な事だろう。

 馬肉はノリで言ったけど。

 という事で、新顔にばかり餌をやっていたら残る二頭が涎を垂らしながらこちらを見ている。

 馬って、いっぱい食べるのね。


 「やるから、お前らにもやるから。そんな目で見るな」


 という訳で俺はしばらくの間、馬を構い続けるお仕事をするのであった。

 ふと気づくとムムも人参をカジカジしてたけど、モモンガって意外と何でも食うのね。


 ――――


 「戻ったよ、心配だった野菜も皆無事の様だ。獣に荒らされている事も無く、雨が降ってくれたのか元気なものだった」


 そんな事を言いながら、スーと手を繋いだリリシアが家の中へと戻って来た。

 こちらはシャームと共に荷下ろしやら、新しい住人の為の場所作りなんかをやっていた訳だが。

 生憎とそう広くはないこの家だ。

 スーに一部屋与えてしまったから、増築でもしない限りは部屋が無い。


 「畑が無事だったのは有難いな。食糧庫の肉も凍らせてから出かけたし、今日の晩飯に困る事は無さそうだ。が、しかし……シャームの部屋をどうするかという話になってな。とりあえずはスーと一緒に部屋を使ってもらおうかと思っているんだが」


 「そう言う事なら、スーは私たちの部屋で良いじゃないか」


 ちょっとだけムスッとするリリシアだったが、そう言う訳にもいかない。

 流石にベッドが狭い、ウチにある物はそこまで大きい訳ではないのだ。

 せっかくスペースがあるのだ、わざわざスーに窮屈な思いをさせる必要も無いだろう。

 もしくは女性陣に集まって頂き、俺が個室になるかの選択になる訳だ。

 何て事を説明してみれば、渋々ながら納得するリリシアだった。


 「それで、私は何をすれば良いんだ?」


 未だ森暮らしの期待が抜けきらないらしい狼娘が、パタパタと尻尾を揺らしながら期待の籠った眼差しを向けて来た。

 スーに尻尾がない事をどうこう言うつもりはないが、あったら良かったとどうしても思ってしまう。

 言葉が通じなくとも、尻尾の動きで機嫌の良し悪しが分かるのだから。

 それくらいに分かりやすく、シャームは上機嫌な御様子だった。


 「とりあえず食事にしようか。シャームは料理が出来るか?」


 「任せろ! 大抵の事は一人でやっていたからな、問題ない!」


 という事なので、ここはお手並み拝見と行こうでは無いか。

 これから一緒に暮らしていく都合上、何が出来るのか何が出来ないのかを周知しておく事は非常に大事だ。

 それによって、教える事や方向性も異なって行くのだから。


 「では私はスーと一緒に野菜料理やスープでも作っておこう。肉は頼むよ、グラベル。結構がっちり凍らせたから、手間だったら解凍もやるが……」


 「いや、問題ないさ。それにシャームがどこまで出来るのかも見ておきたい」


 「そう言う事なら、そっちは頼む。スー、こっちにおいで。一緒にお料理をしよう」


 やけに上機嫌なリリシアが、キッチンではなく何故か部屋に向かったとかと思えば。

 なにやら奇妙な声が聞えて来た。

 シャームと二人して首を傾げ、二人の事を待ってみれば。


 「見てくれ、街で買って来たスーのエプロンだ。とても可愛い」


 「そ、そうだな……」


 ニヤケ顔を隠しきれていないリリシアが、エプロン姿のスーを連れて戻って来た。

 彼女の髪や目の色同様、真っ黒いエプロンに白い肉球柄の刺繍。

 そして料理の邪魔にならない様にか、髪を頭の後ろで結っている。

 先程の奇妙な声は、リリシアがこの姿のスーを見て悶えていたのだろうか?

 いやまぁ確かに可愛らしいが、この歳になってからリリシアのイメージが崩れ始めて来たぞ。

 本当に子供好きだな、お前は。


 「とにかく、俺達は肉を回収してくる。シャーム、着いて来てくれ。場所を教える」


 「了解だ、師匠」


 そんな訳で、俺達はいつも通りの暮らしに戻って来た。

 のんびりと、死ぬまでココで。

 そんな風に思っていたのに、いつの間にやら随分と賑やかになったものだ。


 「スー、今日は皮むきもやってみよう。刃物だから気を付けるんだぞ?」


 「ん! ――、リリシア!」


 楽しそうに笑う二人は、本当に親子の様に微笑み合い並んでキッチンへと向かった。


 「師匠、この辺りではどんな動物が居るんだ?」


 そしてワクワクした様子を隠そうともしないシャーム。

 足元にはウロチョロしているビルに、何故か今日は此方に寄って来たムム。

 もしかしたら、スーが料理中という事もあって遠慮しているのかもしれない。

 俺もこれから料理するんだけどな。


 「随分と、大所帯になったものだ」


 思わずそんな言葉を溢しながら、一人と二匹を連れて家を出た。

 これからどうなっていくのは分からないが、俺とリリシアだけだった頃では考えられない光景だった。

 それが何となく嬉しくもあり、思わずやれやれと言ってしまいたくなる様でもあり。

 なんとも不思議な気持ちなのであった。



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