第14話 異世界飯!
「ほぉ……そんな事が」
「馬鹿なっ!? 戦争はこちらの国から仕掛けたと聞いているぞ!」
「表向きにはそう仕向けたのだろうな。以前の王と我々は友人関係にあった、だというのに私やグラベルにも隠す程だ。自身の正義感の他に、当時もまだ監視されている様な立場にあったのかもしれん。終戦後すぐに死亡となると、監視されていた者に暗殺された可能性もあるな」
今日の出来事を先程までベッドでぐっすりと寝ていた二人に伝えてみれば、両者ともやはり盛大な反応みせる。
リリシアはこの事態を可能性の一つとして元より想定していたのか、ある程度落ち着いた様子だったが。
シャームの方は信じられないとばかりに、視線を右往左往している。
今まで語られて来た歴史、常に被害者であった獣人達。
その根底が崩れたのだから、致し方あるまい。
「まぁ、人とは自らに都合の悪い事は語らないものだよ。そう気を落すな、事実お前が酷い扱いを受けていたのも、今現在獣人が生き辛い事態に陥っているのも事実なのだろう。こちらの国にもそうしてしまう理由があったと言うだけで、この国全ての人族が獣人を軽視して良いという理由にはならない」
なんて言葉を紡ぎながら、落ち着かせようとしたのだが。
「でもっ、違うじゃないか! 元々両国の障害になっていた神獣を討伐した人族。だというのに、障害が無くなった瞬間獣人側が影から攻め込んで来た。こんなの許される訳が無い!」
「シャーム」
「自らは何もしなかったのに、美味しい所だけを掻っ攫おうと侵略してきた。しかも幼い子供を人質にして、いざ戦争に負けたら被害者面。こんなの、私達獣人が排他されるのも当たり前だと思える程卑怯で低俗な――」
「シャーム!」
混乱しているらしい彼女に、少し大きな声を上げてみれば。
シャームはビクッと身を震わせてから、此方に視線を向けて来た。
「スーが起きる」
「あっ……すまない」
それだけ言って、彼女はベッドに視線を向けた。
その先には二人が起きるまで俺の肩を必死で揉んでくれていたスーが、脱力した様子で寝転がっていた。
きっと、帰って来た時の俺の様子に気付いたのだろう。
普段より元気な様子を振り撒きながら、俺を労わってくれた。
しかもこの寝坊助共が起きるまで、ずっとだ。
腕も指も疲れただろうに、そんな様子を見せる事無く強張った筋肉を解してくれたのだ。
本当に優しい子だ。
森に戻る前に、欲しがったものは皆買って帰ろう。
少しでもこの子が喜んでくれる様に。
なんて事を思いながら、フッと口元を緩めていれば。
「まぁ、グラベルの言う通りだな。人族、獣人といちいち話を大きくするからややこしいんだ。過去の事に拘り、同じ人種だから排他する。というのは全体の意識としては仕方がない、しかしそれを笠に着て自ら暴力的欲求を満たすのは全く別の話だ。王子や王女が獣人を許せないというならまだしも、被害を被っていない連中がお前達を下に見るのは筋が通らない。それは逆も然り、事実被害に遭ったからこそ恨みを覚えるのは仕方がない。しかし根本から全てを恨むのはお門違いだったという事だな。そこだけは反省する事だ、シャーム」
いつも通り長々と語るリリシアが厳しい瞳を向けてみれば、シャームの方も気まずそうに頷いて見せた。
さて、ではココからどうするかという話だが。
「こうなって来てると、コレと言って出来る事が無くなってしまうんだよな。国に立ち寄る許可はあっても、王族とは関わるなと言われてしまったし。元々俺達は今の国の現状を確かめに来たのと、可能であれば当時の事を確認する為に足を運んだ訳だが……聞く相手が既にこの世に居ないのではな」
ふぅ、とため息を溢しながら俯いてみれば。
ベシッと音がする程、リリシアから強めなデコピンを頂いてしまった。
「確かにソレもあるが、そっちは我々の心残りの解消。つまり自己満足の類だ。主目的はスーの今後を決める事と、彼女の為の買い物。そしてこの現状だ、もちろんこの街に残す選択は却下するとして、残る買い物はまだ全然終わっていない」
「そう、だったな?」
衣類関係なら、結構買った様に思えたのだが。
リリシアはまだまだ満足していないらしい。
まぁそれ以外にもスーには色々と食べさせたり、彼女に合う狩りの道具なんかも見ていくつもりだったので、リリシアの言う通りではあるのだが。
「二人は、その……本当に神獣狩りの英雄なのか?」
俺達の会話の途中で、シャームが静かに手を上げて来た。
正直、あまりそんな風に呼ばれるのは慣れていないのだが。
「英雄などと呼ばれる筋合いはないが、神獣と呼ばれた魔獣を狩ったのは私達だ。その結果は先程も言った通り、全て良い方向に転んだ訳では無いがね」
少々自虐が混じった台詞を吐きながら、リリシアは大袈裟に手を拡げて見せた。
するとシャームは、俯きながらも決意した様な表情を浮かべると。
「私を、弟子にしてくれないだろうか?」
「「は?」」
狼娘のシャームは、随分と斜め上の言葉を紡ぎ始めたのであった。
――――
翌日、やけにギシギシする身体を動かしながら街中を歩いていく。
ビルに通訳してもらった限り、用事は終わったらしいのだが……なんでもしばらくゆっくりしたり買い物したりするとの事。
結局街まで何をしに来たのかも分からぬままイベントが終わってしまった様で、ちょっと蚊帳の外な気分だが。
それでもまぁ、街に来るまではドナドナされると思っていたのだ。
当時に比べればとても気が楽であることは間違いない。
そんな訳で、気兼ねなく街中を物色していれば。
「スー」
本日も手を引いて俺の引率をしてくれているシャームが、ある露店を指差して何か呟いている。
焼き料理だろうか? 何か香ばしい匂いが漂って来る。
香りに誘われて、フラフラとそっちに近づいて行くと。
「……げ」
『へぇ、旨そうじゃねぇか』
売られているモノを確認した瞬間俺は顔を顰め、ビルは足元でクンクンと鼻を揺らしている。
一見焼き鳥とか、魚の塩焼きでも売られているのかと思ったのだが。
俺の見間違いでなければ、網の上に並んでいるのはどう見てもトカゲ。
しかもデケェ。
なにやらシャームがそのブツを指さしながら、説明でもしてくれているのか。
色々と喋りかけて来るが……ちょっと食べる気にはならない。
『安くて旨いんだとよ。食うかって言ってるから、とりあえず頷いておけよ』
「ぜってぇ嫌だ……」
苦い顔をしながら、ビルに視線を向けた訳だが。
その行動がいけなかった様だ。
シャームは何やら頷いて、トカゲ串を人数分購入し始めたではないか。
どうやらビルの方を向いたのが、俺が頷き返した様に見えたらしい。
そんな訳で、俺の手に渡されるでかいトカゲ。
匂いは……うん、普通に食えそう。
でも見た目がヤバイのだ。
まさに異世界料理って雰囲気ではあるが、コイツに抵抗なくガブッと行ける“向こう側”の人間は果たしてどれ程居る事か。
などと思いながら、グラベルとリリシアに視線を向けてみれば。
「く、食ってる……ガブッといってる」
視覚情報が凄すぎて、数秒固まってしまったんだが。
『おい、脚くれ脚。あんまり塩辛いのは嫌だから、表面の塩は落としてくれよ?』
足元でやけにゴロゴロ言いながら顔を擦りつけて来るビル。
コイツ猫だもんな、トカゲとかバッタとか普通に食うよな。
改めてそんな感想を残しながら、トカゲの脚を摘まんで引っ張ってみれば。
「ひぃぃぃ」
なんかこう、調理済みの鶏肉みたいな感じでむしり取れてしまった。
ホロホロと解れる肉、パリパリの皮。
そしてホカホカと立ち上る湯気と香り。
でもトカゲなのだ。
「これ、食うの?」
『食い物として売られてんのなら、食えるだろ。実際周りも食ってるぞ?』
ですよね。
俺の先入観のせいで踏みとどまっているだけで、周りはバクバク食ってるもんね。
どうやらみんな頭は残している様で、今では無残な姿になったトカゲの串焼きを持ちながらニコニコと微笑んでおられる。
こ、これは食うしかないヤツ。
もしもここでお残しなどしたら、次から屋台飯を買ってくれなくなるかもしれない。
自分で狩りをして、糧として頂いている森の人達なのだ。
食料を無駄にするなど、きっと許してくれないに違いない。
心を無にして、齧るしかないと心に決めた。
が、しかし。
「ビル、あーん」
『おうよ、あーん』
一発目から自分の口に運ぶ気にはなれず、とりあえずビルに毟ったトカゲの足を差し出してみた。
するとブサ猫は嬉しそうな様子でトカゲの足に食いつき、モリモリと食べ始めるではないか。
何か物凄く夢中で食べているけど……旨いのだろうか?
なんだったら全部あげるけど。
「旨い?」
『うんまい。ちょっと塩っ気が強いが、人だったらこれくらいなんでも無いだろ?』
だ、そうで。
ペロリと口元を舐めながら、満足そうな顔を此方に向けて来る。
何度でも思うけど……旨いのだろうか?
「ビル、後ろ脚も食べてみて」
『お? いいのか? くれくれ』
なんてやり取りを交わしながら、ブサ猫で毒見を済ませてみる訳だが。
やはり旨そうに頬張り、満足気な表情を此方に向けて来る。
う、旨いのか? このトカゲ。
どうしても信じられなくてムムにも残った足を差し出してみたが、こっちもこっちでガツガツと食い始める。
今更だけど、モモンガって肉食べるんだね。
木の実とか虫だけなのかと思っていたけど。
「で、では……」
『おう、いけいけ。ガブッと』
ビルに促されながら、目を瞑ってトカゲに噛みついた。
なんというか、良く焼きの皮は悪くない食感だ。
パリッというか、焼き過ぎた魚の皮みたいな噛み応えを前歯に返してくる。
こういう種類なのか、トカゲが元々こういうモノなのかは分からないが。
しかしながら、問題はその先……肉だ。
酷く警戒しながら歯を突き立てた訳だが。
意外や意外、何というか……割と食える?
「ん~ん? ん~不思議な味。触感とかは鳥っぽい、ちょっと癖があるけど嫌いじゃない」
一言で言うなら、淡白。
そんでもって、結構な量の塩を刷り込まれたのであろうという表面。
この塩辛さで肉のクセに関しては随分と緩和されている気がする。
割と塩っぽいけど、ビルとかムムにあげちゃっても大丈夫だったのかな?
今更ながらそんな事を考え、もう一口トカゲをバクリ。
しかし。
「ほ、骨……骨を噛んだ……」
『当たり前だろ、馬鹿かお前は。噛み砕くか、もしくは削ぐ様に食うんだよ。常識だろ』
常識と言われても、俺トカゲ食ったの初めてだったので。
何てことを言える筈もなく、ちょびちょびとトカゲ肉を齧って行く。
結果、意外と旨い。
しかしながら、見た目が悪い。
めっちゃトカゲだし、頭とかそのまんまだし。
だが俺がちびちび食べている間にも、街の住人がトカゲを買い豪快に食べる姿を何度も目にした。
ひぇぇ、異世界ってすげぇ。
食文化の違いはあれど、どうしても一歩引いてしまう。
“向こう側”の知識で言えば、異世界はちょっと技術力が低いというか。
料理何かもランクが低くて、なんか作っただけで無双出来るみたいなイメージがあったが。
こればかりは認識を改めないといけないだろう。
食文化なんて何処の世界へ行っても追い求めるモノだろうし、何より誰だって旨いものが食いたい。
だからこそ、味は違えど似たようなモノは結構あったりするのだ。
トカゲ焼きの屋台は、“こっち側”でしか見た事無かったけど。
「塩バター風トカゲ……ご馳走様でした」
『まだ肉が少し残ってんぞ』
「食べる?」
『食う』
逞しい異世界猫と今まで頭に乗っかっていたモモンガが、俺が食い終わった残飯というか……トカゲの残骸というか。
そんな代物に必死に齧りついていく。
まさに弱肉強食、ココはそう言う世界なのだと思い知らされる光景だった。
あとムム、君も結構食べるのね。
という訳で、地面に置いた俺の食べ残しと言う名のほぼ骨は、二匹の野獣によって更に綺麗さっぱり食い尽くされてしまうのであった。




