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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
1章

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第10話 平穏な生活、確保


 「ぶっへぇぇぇい、何となかったぁ」


 『バカタレ、お前の取り合いが原因だって言ってんだろ』


 一件落着した後、そそくさと建物を後にした俺達。

 いやぁ、焦った。

 値切り交渉をしていたと思っていたお姉さんが急に刃物を取り出し、お爺ちゃんとリリシアさんがブチギレ始めたのだから。

 ビルから二人共強いとは聞いていたが、まさか建物内の相手全てを敵に回しても大立ち回り出来る程だとは思わなかった。

 だって、全員ビビってたよ?

 リリシアさんの周りには台風でも来たのかという程風は吹き荒れるし、お爺ちゃんは歳に似合わずアクションゲームの主人公みたいに動くし。

 そんでもって俺を抱きしめた芳醇な狼の女性はと言えば、二人の雰囲気に当てられて震えていたにも関わらず、俺を隠す様にコートでずっと守ってくれた。

 きっと良い人なのだろう。

 あぁ、値切りとかせず俺の事買ってくれないかなぁとか思い始めた所で。


 『馬鹿猫娘! 浸ってないでどうにか二人を止めろ! ありゃマジで殺しに行く勢いだぞ!』


 ビルの声に視線を向けてみれば、誰とも知らぬ男性の耳に剣を当てているお爺ちゃんと、冷たい表情で杖を当てているリリシアさん。

 待て待て待て、全然状況が分からないがスプラッタ映像は勘弁してくれ。

 以前R15のグロ映画を見た時、映画館で吐きそうになってトイレにダッシュした程耐性がないのだ。

 というかそれ以前に、それやっちゃ不味いでしょ。

 異世界ルールは知らないけど、絶対不味いでしょ。

 思わずビルの言葉通り止めに走ろうとしてみれば、狼お姉さんがギュッと抱きしめてくれるので。


 「ポテチをどうぞ!」


 相手の口にポテチを突っ込んでおいた。

 美味しいモノは世界を救う、これはきっと間違いない。

 お姉さんが驚いて腕を緩めた瞬間、俺は熱い包容から抜け出した。

 そして。


 「ビル、お爺ちゃんを!」


 『アイツはグラベルだ! いい加減覚えろ!』


 「んじゃグラベルお爺ちゃんを頼む! こんな間近でリアルスプラッタやられて堪るか!」


 叫んでみればビルは走り出し、お爺ちゃんの脚に飛びついた。

 であれば、後はリリシアさん。

 俺の足では到底間に合わない為。


 「いけぇモモンガ! お前の底力を見せてくれぇ!」


 頭の上にくっ付いていたモモンガを、全力でリリシアさんに向かって放り投げた。

 するとどうだろう。

 ボールの様に回転してから、空中でバッと翼? を拡げて滑空していくではないか。

 結果リリシアさんも停止した為、急いで正面に両腕でバッテン印を作って止める様促した。


 「人間グロ、駄目! 俺、スプラッタ苦手!」


 必死に訴えかけたが、二人にはやはり伝わらないらしく。

 もはや何を言って良いのか分からず「んー! んー!」と変な声を洩らし続けながら、とにかくバッテンを続けた。

 何て事をしている内にお爺ちゃん達は再び何かを話し始め、リリシアさんは未だ怖い顔をしている。

 なら、やる事は一つだ。

 お怒りの御様子の二人に対し、最終手段ポテチ。

 この世界で売られているポテチが、“向こう側”だと考えられない程大盛りで助かった。

 思い切って駆け出し、二人の正面に回る。

 そして。


 「リリシアさん、コレどうぞ」


 彼女の口に、ポテチを突っ込んだ。

 更には鬼の様な顔をしているお爺ちゃんにも。


 「グラベルさん、で良いんだっけ? どうぞ、食って落ちつこお爺ちゃん」


 お爺ちゃんの方は腕を伸ばしても口に手が届きそうになかったので、必死で背伸びしながらポテチを差し出してみた。

 普通に考えたら訳の分からない愚行を繰り広げた俺に、周囲から冷たい視線が向けられているのが分かる。

 でもスプラッタは嫌なのだ。

 動物相手というか、狩りなら「うぉぉ! 喰うぜぇぇ!」って気持ちになったが、人間相手となると見ているだけで痛い痛い痛いってなるのだ。

 多分動物でも、解体まで付き合った場合絶対吐くけど。

 そんな事を思いながらニカッと笑みを見せてみた。


 「あと、俺の事売らないで養ってくれると……とっても嬉しいです」


 言葉にしてみれば、二人はいつもの様に俺を抱きしめてくれた。

 更には。


 『なんかおかしいと思ったら、お前そんな事思ってたのか。そりゃ値札じゃねぇぞ、お前の名前とかが書かれてるだけの札だ。飼い猫が首輪する様なもんだよ』


 呆れ顔のビルが、そんな事を言って来たのだ。


 「マジで?」


 『おう、グラベルとリリシアも同じの付けてるだろ。森じゃ付けてねぇから、見覚え無かったか』


 「売られない?」


 『むしろ盗られそうになって、二人共これだけ怒ってんだぞ』


 と、いう事らしい。

 言葉が通じなくても、猫の言葉が分かって良かった。

 むしろこれだけ人の事を理解出来る猫が近くに居て助かった。

 などと考えながら、俺は二人の体を抱きしめ返すのであった。


 という大事件があったのが少し前。

 大急ぎでさっきの建物から飛び出して来た俺達は、悠々と街中を歩いていた。

 二人を同時に抱きしめた為ポテチは落として来てしまったし、お爺ちゃんの方は油でベトベトの手で触ってしまったが。

 気付いて怒られない事を祈ろう。

 その後歩き回りながら声を掛けた結果、名前に“さん”とか付けない方が伝わりやすい事が分かった。

 お爺ちゃんはグラベル、リリシアさんも呼び捨てに。

 それくらいの方がすぐに反応してくれる。

 あとやっぱ発音が難しい、名前を呼ぶにも慣れが必要ですわ。


 『心配事は無くなったか? 随分楽しそうじゃねぇか』


 「ん、超楽しい。街だぜ街。色んなモノがある」


 『そのモモンガにも礼を言っておけよ? 役立ってくれた上、随分とお前に懐いてるんだからな』


 「あぁ~ね。ありがとうな、モモンガ。お前にも名前を付けてやらんと」


 そんな訳で、モモンガを胸に抱きながら街中を歩いていく。

 後ろにはグラベルとリリシア、そしてさっきの狼お姉さんも居る。

 何やら小声で口論している様だが、ここは聞えないふりをした方が良いのだろう。

 さっきまであんなに大喧嘩して、皆揃って逃げて来たばかりだ。

 流石にもう1ラウンドって事は無いと思いたいが。

 既にポテチは消失してしまったので、俺には止める手段が無いのだ。


 「なぁビル、このモモンガ。“ムム”ってどうよ? モモンガのモモじゃありきたりだろ? だからムム」


 『あー別に良いんじゃねぇ?』


 「適っ当だなぁ……もう少し一緒に考えてくれよ」


 思わず不満の声を上げれば、モモンガは腕の中でワチャワチャと動きはじめた。

 お? おぉ?

 これはもしかして、気に入ってくれたのだろうか?


 「ムム、お前はムムだぞぉ」


 声を掛けてみれば腕から飛び出し、リスの様に腕から頭へ、更にまた腕へと走り回るモモンガ。

 これはもう、決定だろう。


 「ムム、あなたムムっていうのね!?」


 『今しがたお前が付けたんだろうが……』


 「情弱猫め……映画を見ろ」


 『じょうじゃ……なんだって? それからなんだよ、“えいが”って』


 ブサ猫が不満そうな顔を浮かべて此方を見上げて来たので、とりあえず抱き上げておいた。

 お前は何だかんだ協力してくれるくせに、いつも不満気だなぁ。

 なんだ? ツンデレブサ猫か? かわえぇかわえぇ。

 とりあえずビルに頬ずりなんかしていた瞬間。


 「はい?」


 『バッ! お前! 敵だ敵!』


 建物脇から飛び出して来たローブの男性が、急に俺を抱えて反対方向の建物脇に飛びこんだ。

 凄いなコイツ。

 俺とビル、そしてムムをいっぺんに攫いやがった。

 なんて思っていたのも束の間。


 「――――!?」


 男の悲鳴が上がり、引き剥がされた瞬間いつもの柔らかい感触がこの身を包んだ。

 一瞬の出来事だったのでちょっと理解に苦しんだが、さっき三匹の獣が見えた気がする。

 一人は長剣を構えながら走って来て、もう一人はナイフを両手に壁を蹴り、最後の一人は空を飛びながら襲って来た。

 いやでもまぁ、うん。

 本来の獣は腕の中と頭の上に居るし、多分気のせいだったのだろう。

 先程の男性は、路地裏のゴミ箱? と思われる木箱に頭から突っ込んでいるし。

 もはや考えるのを止めた方が良さそうだ。

 異世界怖い、理解が追い付かない事が多すぎる。

 しかしさっきから顔はニヤけっぱなしだ。

 だって俺、売られる訳じゃないみたいだし。

 この最低ラインの保険が出来たと言うだけで、口元は緩むというモノだ。

 またあの家で養ってもらえる、また旨い肉が食える。

 そんでもって養われてばかりではアレだから、ちょっと頑張って狩りを覚える。

 今の俺の目標はそんな所だ。

 ビルも居るし、ムムも居る。

 更にはこの狼お姉さんが仲間になってくれるなら、もっと良い。

 俺は美女に囲まれながらのんびり異世界を過ごすぜ。

 何て事を思いながら、抱きしめてくれているリリシアの柔らかさを堪能するのであった。


 ――――


 「私はまだ信じていないからな」


 未だに煩く言ってくる狼少女が、買い物に入った服屋でも同じ台詞を吐いて来る。

 今ではリリシアが楽しそうにスーの服を選んでいるが、こういう店に入ると男はどうしても手持無沙汰になるものだ。

 そして、隣では何故か獣人の彼女が俺と同じ様な表情で立っていた。


 「先程は感謝する。俺達と一緒にスーを守ろうとしてくれた」


 「……当然だ。あんな小さい子供にまで、私の様な辛い経験はして欲しくない」


 此方を警戒しながらも、きっぱりと言い放つ彼女。

 しかしながらスーが俺達に近い距離感で居てくれる為か、ギルドに居た時の様な敵意は見せてこない。

 少しは信用が得られた、という事なのだろうか?


 「人とエルフでは子は出来ない。しかも……獣人の子供とは。あの子は何処で手に入れた?」


 それでもやはり引っかかりはあるらしく、未だにガルルッと牙を向いて来る。

 まだ自己紹介もしていない、だというのに随分と嫌われたモノだ。


 「彼女はスー、森の中で拾ったんだ。ふと不思議な場所を見つけて……飼い猫が案内してくれたんだが、そこに彼女が眠っていた」


 「そんな話、信じると思うか?」


 「なら本人に聞いてみれば良い、案内した張本人がずっとスーの周りを歩いているだろう?」


 そう言って指差してみれば、ビルは非常に不満そうな顔で「んなぁぁお」といつもの声を上げながらスーと一緒に試着室に入っていった。

 アイツめ、オスだった筈なのに。

 スーが着替えていると言うのに堂々と侵入するんじゃない、俺と一緒にこっちで待て。

 なんて事を思いながら、その光景を眺めていれば。


 「……お前達は、いつから森に居る?」


 「どうだったかな。二十年近くなるかもしれない、正確には覚えていないな。買い物も大体近くの村に行商人が来る時に売って貰っているから」


 そう呟いてみれば、彼女は溜息を吐いてから警戒する気配を緩めた。


 「ソレが本当なら、無理も無いか。丁度それくらいから、獣人の扱いは悪くなったんだ。簡単な話だよ。こっちの人族中心の国と、隣の獣人族中心の国。元々仲が悪かった国の中心地の森には、伝説級と謳われる魔獣が住み着いていた。だから両国は仕方なしにも協力するしかなかった、だからこそそれまでお互いに争う事は無かったそうだ」


 「しかしある日、その魔獣が討伐された」


 「そうだ。その結果両国は戦争を始めて……獣人の国は人族の国に負けた。ただそれだけなんだ。その後はずっと、獣人は今みたいに虐げられている。向こうの国の様子は知らない、こっちの出身だから……それに私からすれば生まるより前の話。だからこそ、余計に納得がいかない。あんな小さい子には……せめて」


 「お前も、随分なお人好しなんだな」


 「言ってろ、老いぼれ」


 二人してそんな会話を続けていれば、試着室のカーテンが開きスーが飛び出して来た。

 嬉しそうな笑みを浮かべながら、随分と身軽な格好に変わっている。

 何やら手の動きで「これからもっと追加する」みたいな行動を取った後、弓を引く動きを見せて来た。

 あぁ、なるほど。

 今の彼女は、確かに動きやすそうな恰好をしている。

 短パンにブーツ、上半身も身体にあった物を着こんでおり、手には革のグローブ。

 さっきの動きからするに革鎧も買うつもりでいるのだろう。

 とても嬉しそうに伝えて来るスーに、思わず笑みを浮かべて返事をしていれば。


 「え? おい、ちょっと。どうした?」


 隣に立っていた狼娘の手を取って、スーはコートが並んでいる棚を指差した。

 もしかして、彼女にも服を選ぼうとしているのだろうか?

 やはり女の子だ、お洒落には煩いらしい。

 などと呆れた笑みを浮かべていると、戻って来たリリシアが困り顔を浮かべながら隣に並んで来た。


 「どうだった? リリシア」


 「スーはもう大丈夫そうだ、何の問題もない。ただ……」


 「ただ?」


 聞き返した所で、リリシアは非常に大きなため息を溢しながらスーに引っ張られる狼娘を睨んだ。


 「動作を見る限り、あの娘を連れて帰りたい様だ。非常に遺憾だが、まるでムムを捕まえた時の様な高ぶりだった」


 「……ムム?」


 「グラベルは、もう少し盗み聞きと察する能力を覚える事だ。スーが捕まえたモモンガ、アレを“ムム”と呼んでいるらしい」


 「ほぉ……ムムか」


 思わずスーの頭の上にしがみ付いてるモモンガに視線を向ける。

 白っぽい見た目の、小さなモモンガ。

 ムム、ムムか。

 なるほど、不思議な名前だが悪くないかもしれない。


 「良いんじゃないか? ムム、俺は好きだ」


 「馬鹿者、そっちじゃない。問題は狼娘の方だ。あんなのを連れて帰ろうとされても、我々だけではどうしようもないぞ?」


 呆れたため息を溢すリリシアの言葉に、思わず納得してしまった。

 確かにモモンガと同じ感覚で彼女を連れ帰ろうとされても困る。

 スーの鑑定も終わったし、俺達も今のこの街の事情もある程度知る事が出来た。

 此方の街を気に入る様なら、彼女の将来を考えて移住する事も検討するつもりだったが……今のこの状況では逆に居心地が悪くなってしまいそうだ。

 だからこそ、このまま帰っても良いのだが。


 「困ったな。あの子の事を、スーも気に入っている様に見える」


 「だからさっきから相談しているんじゃないか……」


 再び呆れた視線を向けて来るリリシア。

 しかしながらギルドでトラブルに巻き込んで来た相手とは思えない程、スーは彼女に懐いていた。

 彼女の手を引き、新しい服を宛がっていく。

 店員は困った様な、迷惑そうな視線を向けているが……コレが今この国での“獣人”の扱いなのだろうか。

 だがそんな物は知らんとばかりに、スーは彼女に新しい服を選んでいく。

 随分と真っ赤なコートを羽織った所で、非常に喜んでいる様だが……あれは、流石に派手じゃないか?

 遠くから眺めながら、思わず困り顔を浮かべていれば。


 「グラベル、リリシア!」


 スーが元気いっぱいに手を振っていた。

 そして、どうだとばかりに彼女に両手を向ける。

 更には困り顔を浮かべる狼娘が、これまた困った様に片手を上げて見せた。

 よし……買うか。スーが選んだ物だしな。


 「グラベル……」


 「分かっている、買うぞ」


 「違うんだよ、私が言いたかったのはそうじゃないんだ……」


 などと会話をしながら、スーの服は無事選び終わった。

 ついでに狼娘の服も買う事になったが、スーが非常に喜んでいたので良しとしよう。

 リリシアからは何度か蹴られたが。

 だがスーに「リリシアにも新しい服を見つけて来てくれ」と身振り手振りで伝え、それも同時に購入したら彼女の機嫌も直った。

 よし、問題ない。

 という事で、俺達は次々と目的を達成しながら今夜の宿を探しに歩くのであった。


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