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断罪劇(1)




「コレハは、こちらの女生徒――ヒィロ・インをイジメている。と、そういう疑惑がある」

「あらあら、そうでしたの? しかし、そんな事実はありませんわよ? ねぇそこの貴女」

「ッ、おい! ヒィロを睨むんじゃない!!」


 ケンホがヒロインの前に出る。睨んでいたつもりは一切なかったのだが。本気で。ちょっとテンション上がって威圧が出ていたかもしれない。


「うむ。いいぞケンホ。しばらくその調子で頼む」

「おう!」


 クルシュを側に、ケンホを盾に、そしてハークスを剣に。

 攻略対象を侍らせた、まさにヒロインらしい陣形である。


「それで。私がその女をイジメたと? その平民の女を」

「平民と呼ぶか」

「あら。ハークス様。私は事実を言っただけでしてよ?」

「フッ……事実、そう、事実か。事実ではあるが――ただの平民ではない。ヒィロの真の身分を教えてやろう」

「ほう。と、いいますと?」


 ハークスはバッと手を広げ、パーティー会場の皆にヒィロを紹介する。


「『片翼の聖女』! それがこの者である!!」


 ざわり、と会場が揺らいだ。

 聖女。それは教会が探し求めて未だ見つかっていなかった奇跡の体現者。

 以前、光の塊が飛んで行ったのはその一端。

 魔王を強固に封じた、その聖なる光。


 その光がこの学園の女子寮から飛んで行った、という話もあり、この学園に通う誰かが聖女なのではという噂はあった。



 その正体が、今、王族の宣言により明らかにされたのである。



「ただの平民では貴族に虐げられても大した問題にはならん。しかし、相手が聖女ということであれば……ただの侯爵令嬢がイジメて良い存在というわけではなくなるだろう!」

「ええ、ええ。そうですわね! ふふっ、まず最初のハードルは越えてくれたみたいですわねぇ?」


 しかしこれはコレハの予想通り。

 大事にならなければ、折角用意した冤罪回避の証拠を披露しても楽しくない。相手が調子にのってくれればくれるほど、それを突き落とした時の快感は大きくなるのだから。


「(とはいえ、ただの侯爵令嬢、か……)」


 今はまだハークスの婚約者である。つまり、ただの侯爵令嬢ではない。

 しかしそれは先ほどの婚約関係の解消宣言により話が変わってくる。婚約関係を解消するのであれば、そこでコレハはただの侯爵令嬢になる。


 さらにヒロインの『片翼の聖女』という呼び名。これは魔王を封印するラブラブ呪文に由来する。攻略対象と合わせてこそ完全を発揮できる。

 きっとシナリオライターは比翼連理という言葉を辞書で見たにちがいない。


 もう片方の翼。それが自分だという事。

 コレハを捨てて、ヒィロと添い遂げる。そういう事だろう。




「さぁ、それでは……聞きましょうか? 私がなにをしたと?」

「噂では――イジメているそうだが、何をしたんだ?」

「……?」


 コレハは首を傾げた。


「あの。それは実際のイジメの内容を告げられ、私が尋問されるところでは?」

「……くっ! 俺だとその証拠を一切掴めなかったんだ……!! すまん!!」

「ああいえいえ。……えぇと、それでは目撃情報とかそういうのがあるのでは?」

「あー。そうだな。……例えば、お前とこの聖女が仲良く買い物をしている目撃情報があった」

「……?」


 コレハは首を傾げた。


「ええと。荷物を押し付けてコキつかっていた、ではなく?」

「? 何を言う。お前が金を出した分、進んで荷物持ちをしていただけだろう、むしろ信用して財布ごと荷物を預けているのだ。仲良し以外に何と言えばいい? おかしな点はないだろうが」

「……そうですわね」


 そうである。特に問題が無い。

 ハークスの言う通り、お金を出す分荷物持ちをする、というギブ&テイクだった。そう言い訳するつもりだったので、最初からそう言われてしまうとどうしようもない。


「だがこれがなんでか『ナイアトホテプ嬢が美少女をこき使っている』という噂になっててなぁ。全く問題ないのに……」

「く……っ!……あ、でもほら! 他にも何かあるはずでしょう!? ね!?」


 コレハは混乱している。なぜ? どうしてこちらが断罪を促しているのか?


「あったか?」

「……もっとこう、教科書を破り捨てただとか、制服を汚されたとか、階段から突き落としたとかもあるでしょう!?」

「あったか? そんなこと。だが証拠もないしなぁ……」

「捏造するんですわよ、イジメの証拠をッ!!」

「……コレハ。王族として、存在しない証拠を捏造とか……一番しちゃいかんだろ? 王家こそ信頼が大事だと教えてくれたのはお前じゃないか」

「それはそう! そうなんですけど!!」


 断罪するためには致し方ない犠牲だとか言うべきでしょうが!!

 お(かしこ)! このお賢さんめ!!


「ああ。でも制服を汚していたことはあったらしいな? 確か、新しい洗剤を開発したそのテストだったのだろう?」

「……ッ、なぜそれを……!!」

「だってお前、ナイアトホテプ領から新開発の洗剤が届いてたから」


 しまった。新商品発売ということで試供品が提供されていたらしい。

 しかも化粧品とは違って洗濯洗剤だから男性にも分かりやすい……!


「王族のくせに下々の洗濯洗剤気にしてんじゃないですわよ!?」

「いやするだろ。しかも婚約者の家からの贈り物だぞ? 礼状も書いたし」

「それは……それはそうだけども!!」

「インクの染み汚れもバッチリ落ちるからな。父上も袖のインク汚れが良く落ちていると喜んでいた」

「くそう! いい宣伝をどうもですわよ!!」


 どうしたということだろう。ハークスがまともなコトしか言わない。


「だからイジメではなく、これも商品の宣伝だった。だろう、聖女様?」

「あああ! そうですよ思い出しました! アレは私がコレハ様にイジメられたと言っても過言ではありません! だってあの時コレハ様につけてもらったインクの染みを無理矢理落とさせられたんです! 折角良い感じに染まってたから切り取って家宝にするつもりだったのに……! でも短い休み時間で乾かないからと水フッ飛ばして乾燥させてもらったの有難うございます!」

「ほら、聖女様もこう言っている」

「ちょ!? どうしてそんなこと言いますのヒィロ!? それだと私の味方に聞こえますわよ!!」

「……デスカネー?」


 聖女ヒィロは目を逸らした。



「というか殿下自身も、私の悪行を目撃しているはずでしてよ!?」

「あ! そういえば以前魔法実習の授業があったなぁ。あの時は……」

「そうそれ! それういうの! そういうの追及してくださいまし!?」

「――嫉妬してくれたんだよな。俺がそいつと仲良くしてると思って」

「え!? ちがいますわよ!? 宣伝! 化粧品の宣伝ですわ!?……ハッ!?」


 コレハは思わず、漏らしてしまった。真実を。


「……俺の婚約者の照れ隠しが可愛い!」

「ホントですわ! ほら、証拠だってありましてよ!? ほらほら!!」


 ちょっとまて。というかなぜこちらが照れ隠しだとハークスが喜ぶのか。

 そこはヒロインに寄りそう場面だろうに!?


「フフ。そういう証拠を態々用意しているあたりが照れ隠しだというのだ」

「……くぅう、なんで私から証拠を提示しなければいけないのかしら!? どうなってますのこれ! ハークス様が今までで一番強敵に感じますわよ……!?」

「何? それは……珍しく褒められているのか!?」

「褒めてませんわ!!!」


 本当に、今日のハークスはどうしてしまったのか。コレハは声を荒げた。





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