開幕
「今日この場を借りて、皆に伝えたいことがある!!」
ダンスエリアのど真ん中。そう宣言したハークスに注目が集まる。
ついに始まった、とコレハは少しだけ身体を硬直させた。
「クルシュ、ケンホ。ヒィロを連れて来てくれ」
「はい。さ、エスコートしますよ」
「なんだ? まぁ行こうぜヒィロ嬢」
「ウス……イキマス……」
そう言って、ヒィロ達がやってきた。
これで役者は揃った。
ジャンガリアは居ないが、きっと影から見守っている。
「コレハ・ナイアトホテプ! そなたの悪行をここに暴く!!」
「あら! あらあらあらぁ! 何の事でして? 私の悪行ーー!?」
思わず顔が笑顔になってしまう。ダメだ、まだ、まだ笑うなッ! そうコレハは上がる頬を扇で隠した。
「そうだ。卒業される3年生は、そなたのことを知る最後の機会かもしれない。だから、今日! この場で! 真実を明らかにするべきであると、この俺が判断したのだッッ!! 付き合ってくれるな、コレハ!」
「あらあらあら! まぁまぁ! 真実、真実ですのね! いいでしょう、お付き合いいたしますわよハークス殿下ッ!!」
怯えているのか、体を震わせるヒィロを、ケンホが庇うように抱き寄せた。
「大丈夫だ、俺が守る」
「え、や、その、近い……離れて……っ」
「おいケンホ!! エスコートの私を差し置いてヒィロ嬢に触れるな! 節度というものがあるだろう!」
ヒィロを奪い返すようにクルシュが抱き寄せる。
素晴らしい、ヒロインの奪い合いだ。この目で見れるとは! とコレハは興奮した。
そして、奪い合いに参加せずコレハと対峙しているハークス第一王子殿下。
覚悟のある真剣な眼差しを受け、改めて姿勢を正し、向き合う。
「コレハよ。お前は将来の王妃に相応しくない――そういう噂が流れているのを知っているか!」
「ええ知っていますわ」
当然だ。その噂の発端はコレハ本人なのだから。
「ですが、所詮噂ですわよ? 王子が気にすることでして?」
「フンッ。真実を明らかにすべきだ、と、俺はそう思ったのだ。構わないだろう? お前が、本当に悪くないのであれば――なんの問題もないはずだ。違うか?」
「ええ! 違いませんとも!!」
そう。コレハは悪くない。コレハは一切悪くない。だからコレハは胸を張ってそう答えた。
そのために、このためだけに、10年やってきた。
準備はできている。完璧だ。
「ああ、まさかハークス様にまでそんな疑いをもたれているだなんて! このコレハ、婚約者としてとても悲しゅうございますわぁー!」
「これっぽっちも悲しそうに見えないんだが……まぁいい。では、一つ一つ、順に行こうか。いいな、コレハ?」
「全て、受けて立って見せますわ!」
そういうコレハに、頷くハークス。
「コレハよ、容疑はいくつもある。だがその前に一つ言っておこう。――今日、俺はお前との婚約関係をショウカしようと思っている。覚悟は良いか?」
「ほう、それは、それはそれは……」
ハークスの言葉に、一抹の寂しさを覚えるコレハ。
婚約破棄、ではないのは温情だろう。
だが……ショウカ? 消化、昇華、消火、Show化……うん、どれも聞いた覚えがないし場にそぐわない。間違いない。……解消を言い間違えたのだろう。
こいつ、この肝心なシーンで噛んだな。
流石にそれはいただけない。ノリと勢いで誤魔化してやるとしよう。
「オーッホッホッホ! いいですわよ、さぁ、かかってきなさい王子ぃーー!!」
「うぉおおおおお!!! いくぞコレハッ!!! 覚悟ッッ!!!!」
覚悟などとうにできている。
まるで勇者を迎え撃つ魔王のように。悪役令嬢は攻略対象一同に向かって優雅に立ち向かった。