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終わりの始まり



 ハークスにエスコートされ会場に入る。


「ありがとうございますわ、ハークス様」

「うむ。むしろ役得だ。お、クルシュ達も居るな。合流しとくか」


 と、一足だけ先に入っていたヒィロ達を見つけて合流するハークスとコレハ。

 ついでにケンホも居た。こいつは生徒会役員ではなかったハズだが。さすがヒロインだ、攻略対象を侍らせている。


 とりあえず一発かましておこう。と、コレハはハークスにエスコートされつつニヤリと笑う。


「あらあら、野良猫が居ますわねぇ。どこから潜り込んだのかしらー?」

「おいナイアトホテプ嬢。ヒィロは生徒会役員だ、参加資格があるだろう。その言い方はどうかと思うぞ」

「いやあなたの事ですわよケンホ・クトゥグア様? 執行部は生徒会と違って参加資格なかったでしょう?」

「……今、俺の事野良猫って言ってたのか? 猫……俺が……?」


 戸惑いの表情を浮かべるケンホ。


「ああ。ケンホは確か従姉弟が3年で、そのエスコート役だったはずだ」

「あら、そうですのハークス様」

「そうだ。だから俺は参加資格があるんだぞ」


 と、胸を張るケンホ。


「……で、その従姉弟のお姉様をほっぽり出してここに? エスコートの意味分かってまして?」

「ゆ、友人と話すから邪魔だと追い払われたんだよ……」

「あら。野良猫ではなく捨て犬でしたの? これは失礼しましたわ」

「犬……こんどは犬か……」

「大丈夫ですケンホ様! 騎士を目指すケンホ様に犬はピッタリですよ! カッコいいし可愛いじゃないですか!」

「そ、そうか? そうだな! ハハッ!」


 ヒロインのなんの中身もないフォローにより、ケンホは元気を取り戻した。

 この1年で、ヒィロは着実にヒロイン力を身に着けて攻略対象を手玉にとっている。あの時身を削ってお手本を示してやった甲斐もあるというものだ。

 ばちこーん、とコレハに向かって「やってやりましたよ!」とウィンクを飛ばさなければ完璧だった。


「ナイアトホテプ嬢。本日もお綺麗ですね」

「クルシュ様もご機嫌よう。先ほどは思いっきりスルーしてくださいましたわね?」

「ええ。私はヒィロ嬢のエスコート役ですからね。むしろあの場で他の女性に声をかけるのはマナー違反でしょう」

「そうですコレハ様、クルシュ様は私をエスコートしてくださったんですよぉ」

「あら。親しい仲というわけでもないのなら話に割り込むのはマナー違反ですわよ?」

「同じ生徒会メンバーで親しいからセーフですっ」


 まぁ同じ生徒会なので実際そう。

 そしてこれは自分とヒィロが親しい仲ではない、というのではなく、逆に親しいからこその平民ヒィロのためのマナー講習である。ヒィロの言う通り、親しいのでセーフなのだ。


 いつものイジメモドキ、イビリモドキである。

 狙い通りケンホがコレハを睨んでいたので、成功だろう。


「おい、ナイアトホテプ嬢。一年も同じ生徒会で働いているんだ、親しくない方がおかしいだろう」

「そうですわね、おかしいですわね。なんで親しくないのかしら? 行動を見れば分かる事ではありませんの?」


 そう言ってヒィロを睨むコレハ。

 今の発言とこの視線は『どうして自分とヒィロが親しくないと思ったの? 見れば親しいと分かるでしょうに。ねぇヒィロ?』という意味であり他意はない(ということになっている)。


 そしてヒィロは「ひゃっ」と怯えてケンホの袖を引っ張る。『ひぇっ、ケンホ様が酷いことになる。やめたげてよぉ!』と。あくまでケンホの心配をしただけである。ケンホを止めようとして袖を引っ張っただけである。


 もはやこれくらいは打ち合わせせずともできるのだ、親しい仲で1年もやってきたので!


 だが当のケンホは(狙い通り)勘違いしてしまったようだ。ああ不本意ながら!


「おい! ヒィロが怖がっているだろう、睨むんじゃない!」

「あらあら。睨むだなんてそんな。ハークス様はどう思いまして?」

「そうだな。そのくらいにしてやれ。今日は先輩方の卒業パーティーなのだから」


 そう言って、悪役令嬢をエスコートしながらヒロイン達を庇う様は、流石の攻略対象様だ、とコレハは思った。


「おいケンホ。忍耐が足りんぞ、手のひらの上で転がされ過ぎだ」

「だ、だがハークス。今のは騎士として見過ごせな――」

「見誤るなよ。お前、俺の側近になるのだろう? コレハが俺の隣にいる以上、対処できねば俺の側近にはなれんぞ」

「……くっ、あ、ああ。すまない」


 コレハはそれを聞いて、順調に断罪の準備が進んでいることを確信した。

 対処する――つまり、コレハを排除するつもりである、と! 


 まさか本人の前で堂々とそういうやりとりをするとは。ハークスも肝が据わっているとみえる。気付かないとでも思ったのだろうか。舐められたものである。


 と、その時曲が聞こえてきた。ファーストダンスの時間らしい。


「おっと、もうこんな時間だったか。コレハ、一曲踊ってくれるか?」

「ええ、婚約者様」


 ハークスの手を取り、ダンスエリアへ向かう。第一王子とその婚約者のファーストダンスだ、行く手を遮るものは居ない。


「ふふ、楽しくなってきたところでしたのに」

「コレハ。先に言っておく。……今日ばかりは、お前の狙い通りにはならないだろうが……どうか楽しんでくれ」

「ええ。そうですわね」


 ハークスも気が利いた事が言えるものだ。

 最後の、クライマックスのパーティーを楽しもうじゃないか。


 そして、ファーストダンスが終わった。



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