移動中馬車にて
馬車の中、どこか嬉しそうなハークス。
ゲームでは移動シーンは基本カットされていたところだが、何をそんな嬉しそうなのかを聞いてみることにした。
「なにかいい事ありまして?」
「ん? ああ。こうしてコレハをエスコートできたからな。お前は忙しいからあまりこういう機会がないだろう?」
「まぁ、ですわね」
コレハはこれを「ついに最後ですものね、気分も上がるというものかしら」と認識しておいた。
そうでなければ、まるでコレハをエスコートできるのが嬉しい、と言っているようではないか……いや言っているのだけど。本心で言っているようではないか。
「コレハ。そのドレスは気に入ってくれたか?」
「ええ、まあ。このフチの金色が這いつくばったハークス様みたいで愉快でしてよ。気に入ってあげましたわ」
「おお、そうか! それはなによりだ、シマビレッジのデザイナーに色々注文を付けさせてもらった甲斐があったというものよ」
「……? 今私、這いつくばったハークス様って言いましたわよね?」
「ああ。聞こえてるが?」
それでいてなぜニコニコしているのか……
どうやら今日のハークスは最後だからか非常に懐が広いらしい。おそらく「この後断罪するから、好きに言わせてやろう」ということに違いない。
そうでなければ、コレハ相手に這いつくばっても一向にかまわないと言っているようではないか。
「今日は何か悪い物でも拾い食いしましたの? なんか落ち着きませんわね。私、いつものハークス様のほうが好きですわぁー?」
「……ん、そうか? そうか。フフッ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」
「お、おぅ。本当に調子が狂いますわね」
本当に今日はなんなんだ。最終局面でハークス殿下が壊れた……?
そうでなければ、ハークスがコレハの言葉に本当に喜んでいるということになってしまう。
「熱があるに違いありませんわね。お大事に?」
「あー、うん。心配してくれてありがとう。だが体調は万全だ。今日のためにしっかり整えてきたからな。多分着飾った婚約者を見て浮かれているだけだろう」
「まぁ、そうでしたの。気合入ってますわねぇ……」
「ああ。今日は大事な発表を――んんっ! いや! なんでもない。なんでもないぞ?」
おっと。ここにきて、ハークスの慌てた顔。
やはり今日は、『何か』があるらしい……間違いない、『断罪』だろう。他に何かあろうはずもない。もちろんコレハはそれを受けて立つ準備を整えていたわけなので、今更驚く程でもない。
「……ハークス様」
「ん! なんだコレハ?」
「今日は楽しみですわね」
「! そうだな! ああ、そうだとも!」
そうして、馬車はすぐに会場に着いた。